人材不足:人は働かなくなったのか、働けなくなったのか?

先般の短い日本滞在中もいたるところから「人が足りない」という声が聞こえてきました。人手不足は昨日今日に始まった話ではなく、その対策として女性や高齢者、外国人を投入し、その上AIがカバーしてくれるからどうにかなるのではないか、という論評もあります。私が見る限りまるで平均台の上を左右にバランスを取りながらかろうじて前に進んでいる感じなのですが、最近ふと思うことがあるのです。それは

人は働かなくなったのではないか?
という疑問と同時に
人は働けなくなったのではないか?
という仮説であります。

人が働かなくなったのは多面的に言えます。1つは高度成長期から80年代にかけての異様なほど伸びた就労時間がOECDあたりから批判され、政府が主導して「働きすぎ改革」を行った結果、今では主要先進国の中では統計的には労働時間がかなり短い方になりました。日本はアメリカのように労働者個々の立場や意識の相違を反映させず、社会や会社全体で「残業そのものを断じる」ルールを設定し、働くことを頭ごなしに禁じてしまったわけです。それこそ、今、無制限に仕事をしているのは官僚だけじゃないか、とすら思いたくなります。

pain au chocolat/iStock

次に日本人が金持ちになったことはあります。金持ちと言っても欧米にいる巨万の富ではなく、自分の残りの人生を楽々過ごせるだけの資金を稼いだ人のことです。持ち家で1億円の貯金があれば働く必要がないのです。私の知り合いが超大手企業で定年を迎えた際、「ご奉公はこれで終わり。ようやく解放される。だから契約社員とかもう真っ平」と。その人は1年ぐらいたって気が変われば働くかも、と言っていましたが数年たっても働くことはありませんでした。要は働くモチベーションがないのです。

働くとは2つの理由しかないと思っています。1つは経済的理由。もう1つは社会貢献とかその仕事が好きだから、という個人的動機によるものです。後者は専門職とかある分野で秀でた才能を認められた人に多く、あまり給与にこだわらずにやられている方が多いと思います。一方、経済的理由の場合はやむを得ず、という気持ちですので会社と被雇用者との関係は冷たいものになりがちだと思います。

健康寿命が長くなったため、経済的動機を満たすため働く、特に定年後に仕事をされる方の中には自分の趣味の支出を賄うために軽い仕事をするという方もいらっしゃいます。ゴルフ代金や旅行代金を稼ぐという非常に明白な目的で必ずしも生活のために働くというわけではない人もいる点は気に留めておくべきでしょう。

では人は働けなくなったのではないか、という点について考えてみましょう。

4月に入って新入社員が既に退職し始めていると報じられています。中には入社初日の昼には退職届を出したという強者もいらっしゃるようです。彼らの退職理由は「雰囲気が違った」「思っていた会社とは違った」というもの。私からすれば耐性のなさにあきれてしまうのですが、要は仕事を長く続けられない人が増えているのです。私のところに来る20代女性の入社面接のレジメも多くは転職歴が複数回あります。つまり頑張っても4-5年で転職のパタンです。

これは企業にとっては業務の安定操業に影響するため、余計にAIやらIT化を進め、働く人をマニュアル縛りにし、従業員をライン操業の枠組みにはめ込むことで没個性化を進めるのが当たり前になります。正直、これ、楽しい仕事でしょうか?辞めたくなる気持ちもわからなくはありません。

企業はAIを積極導入しています。それは目先の人材不足を補うためですが、結局それは人材の定着化を更に遠ざける悪循環に入っているとみています。

楽しい仕事って何でしょうか?私の友人の息子さんは都市開発関係の勉強をしたのち、JR東海に入り、リニア新駅の街づくり担当をしていてとても楽しそうに仕事をしていると言っておりました。私はアニメ本を売るために先週の土日も出店していましたが、お客様とやり取りし、「ではそれを買います」と言ってもらうと嬉しいものです。だけど大手企業でBtoBの仕事をすると勝手に注文が入り、それをこなすという機械的なやり取りとなり、きっとワクワクすることはないのだろうな、と察しています。

要は働くモチベーションをどう高めるのか、その部分が欠落していれば真の意味で人材不足に陥るということでしょう。今更「仕事に夢と希望を」と昭和的な発想を持ち出すのも気が引けますが、案外、仕事なんて昭和型の方が楽しいのではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年4月22日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。

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