トランプ大統領とソロモン王の「歴代志」の話

ドイツのカトリック通信によると、ローマ教皇レオ14世との間で激しい論争を展開してきたトランプ米大統領は、今度は米国で開催される全国的な聖書朗読イベントで旧約聖書の一節を朗読する。「アメリカ聖書朗読会」の主催者が18日、発表した。それによると、トランプ大統領は21日(現地時間)、ホワイトハウスの大統領執務室で、旧約聖書「歴代志」下第7巻11節から22節を朗読する予定だ。

トランプ米大統領と会談するネタニヤフ首相、2025年9月30日、イスラエル首相府公式サイトから

今年はアメリカ合衆国建国250周年を記念する年だ。聖書朗読会もその祝賀イベントの一つで、今月19日に始まった。今週を通して、政界や保守社会の様々な著名人が聖書の一節を朗読する。これには、マルコ・ルビオ国務長官、ピート・ヘグセス国防長官、マイク・ジョンソン下院議長といった共和党の政治家も含まれている。目標は、1週間で聖書全体を朗読することだ。

トランプ大統領とキリスト教会との関係、特に、ローマ教皇レオ14世との関係は気まずい。トランプ大統領はイラン戦争に関する平和のメッセージを発したレオ14世教皇を批判し、外交政策において「弱腰だ」と非難。「彼は何も分かっていないし、戦争について語るべきではない。何が起こっているのか全く理解していない」と述べている。同時に、彼は自身のソーシャルネットワーク「Truth Social」に、AIで生成した自身のイエス・キリスト像をオンラインに投稿し、キリスト教会関係者から強い批判の声が飛び出したばかりだ(現在は削除されている)。

そのような時期にトランプ氏が聖書朗読会に参加するわけだ。そこでトランプ氏が朗読する予定の「歴代志」下第7章を開いてみた。「歴代志」下7章11節~22節は、ソロモン神殿の完成後、神が夜にソロモンの前に現れて語られる場面が記述されている。

国に災い(飢饉や疫病など)が起きた際、民が自らを低くして祈り、悪の道から立ち返るなら、神はその罪を赦し、地を回復させると約束。神はこの神殿を「わたしの名を永遠に置く場所」として選び、ソロモンが父ダビデのように神の掟に従い歩むなら、その王座は永遠に続くという契約を再確認された。ただし、もし民が神を捨てて他の神々に仕えるなら、イスラエルを地から引き抜き、この神殿を「物笑いの種」にすると警告している。

この聖句は、神の民にとって「神への忠実さ」がいかに死活問題であるかを強調している。ちなみに、「歴代志」下7章17節~18節で神が言及されている内容は、かつてソロモンの父ダビデと結ばれた「ダビデ契約」に基づいている。神は18節で、「あなたの父ダビデに約束(契約)した通り、あなたの王座を堅くする」と明言している。

ところで、疑問が沸いてくる。トランプ氏が自主的に「歴代志」下第7章11節~22節の個所を朗読すると決めたのか、朗読会のプロジェクトを主導する側からの要請に基づくものかだ。当方は、日頃からキング(王)を夢見ているトランプ氏が自らソロモン王の話の個所を選んだのではないか、と考えている。キングは大統領職とは違い、選挙で選ばれるのではなく、神が任命して選ぶポジションだ。国民や他の政党の意向に惑わされることはない。

ただし、米国ではトランプ氏がキングのような振る舞いをすることを批判する声、「ノー・キングス運動」が活発だ。「ノー・キングス(No Kings、王はいらない)」の背景に、トランプ大統領の強権的な政治手法と、それにお墨付きを与えたとされる司法判断に対する強い危機感があるからだ。

最大の契機は、2024年7月の米連邦最高裁による判決だ。 大統領が在任中に行った「公的行為」について、刑事訴追を免れる広範な免責特権(Immunity)を認めたのだ。「キング」への懸念に対し、リベラル派のソトマイヨール判事は「大統領は法を超越した王(キング)になった」とする激しい反対意見を表明した。民主党側はこの判決を覆すための「ノー・キングス法案(No Kings Act)」を提出し、対抗姿勢を鮮明にしてきた経緯がある。

第2次トランプ政権(2025年発足以降)が発足して以来、トランプ氏は大統領権限の限界を試すような行動を繰り返してきた。例えば、州知事の反対を押し切っての州兵派遣、議会と十分な協議のないままのイランへの軍事作戦、大規模な不法移民の摘発などが「独裁的・権威主義的だ」と非難されてきた。また、 2025年6月、自身の誕生日に合わせて大規模な軍事パレードを挙行した際、これが「王のような振る舞い」と映り、全米各地で「ノー・キングス」を掲げる大規模デモが発生した。

ここまで書いてくると、トランプ氏が アメリカ合衆国建国250周年を記念する聖書の朗読会でソロモン王が記述されている「歴代志」を朗読するのは決して偶然ではなく、トランプ氏のキングへの執念が引き寄せた「意味ある偶然の一致」(シンクロニシティ)といえるかもしれない。

参考までに、イスラエルのネタニヤフ首相も「キング・ビビ(King Bibi)」と呼ばれている政治家だ(「『ビビ王』のイスラエル王国の行方」2019年4月11日参考)。トランプ氏とネタニヤフ氏が馬が合うのは偶然ではない。

なお、「歴代志」下は、ソロモン王の時代から始まり、南ユダ王国の歴代の王たちの統治、そしてバビロン捕囚を経てペルシア王キュロスによる解放の布告までを描いているが、トランプ政権が現在、古代ペルシャ王国の後継国であり、その子孫のイランと戦闘中というのは、これまた何らかの意味ある偶然といえるかもしれない。

(「歴代志」下第36章22~23節には、キュロス王が神の導きによって布告を出し、バビロン捕囚にあったイスラエルの民をエルサレムに帰還させ、神殿を再建することを許可したと記述されている)


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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