EUのポスト・オルバン時代が始まった

4月12日に実施されたハンガリーの国民議会選挙でオルバン首相が率いる与党右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」が野党のティサ(尊重と自由)に大敗し、16年間続いたオルバン政権が終焉を迎えた。それを待っていました、というわけではないが、ハンガリーがブロックしてきた欧州連合(EU)の対ウクライナへの融資900億ユーロにゴーサインが出たばかりだ。

EU・ウクライナ融資と対ロシア制裁が23日、承認された。EU理事会議長国であるキプロスが発表したところによると、EU加盟27カ国すべてが書面手続きを経て両案を承認した。ちなみに、対ロシア制裁パッケージには、ロシア産原油を輸送するタンカーの「シャドーフィン」に対するより厳格な措置などが含まれている。ブリュッセルの政策決定のテンポが速まってきた。

キプロスで開催された非公式EUサミットに参加したフィツォ首相(左)、2026年4月24日、スロバキア首相府公式サイトから、右はキプロスのフリストドゥリディス大統領

ところで、EUに対して懐疑的な政権はハンガリーのオルバン政権だけではない。スロバキアのフィツォ政権もEUのウクライナ政策ではオルバン政権と連携して阻止してきた。それだけではない。ブルガリアで19日に実施された早期議会選挙(一院制、定数240)では、前大統領のルメン・ラデフ氏が率いる親ロ派政党「前進するブルガリア」(PB)が議席の絶対多数を獲得した。ラデフ氏はEU加盟による経済的メリットを認識している一方、ウクライナへのEU援助を批判し、対ロシア制裁に疑問を呈し、ロシアとの対話を求めている。選挙運動中は、モスクワとの関係改善とロシアからの石油・ガス供給再開を訴えてきた。

スロバキアの動向に焦点を絞る。スロバキアは対ウクライナ政策でオルバン政権と同じ歩調をとることが多かった。両国ともロシアからの安価な原油にそのエネルギーを依存してきた。ロシア産原油がドルジバ・パイプラインを経由してスロバキアに運ばれてきたが、今年1月27日、そのパイプラインがロシア軍の攻撃で破損したため、原油輸送がストップ。ハンガリーとスロバキア両国はウクライナ側の恣意的な破壊工作と受け取り、キーウを批判してきた。原油輸送の中断を受け、スロバキアはハンガリーとともに、ロシアに対するEU第20次制裁措置に反対した。

一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシア産原油を購入することで、モスクワ側に戦争の戦費を与えることになる」として、ハンガリーとスロバキアのロシア産原油の購入に強く警告を発してきた。

興味深い点は、ハンガリーの総選挙でオルバン首相の敗北が決まった直後、ドルジバのパイプラインが回復したことだ。スロバキアのサコバ経済相は23日、「ドルジバ・パイプラインを経由してロシア産原油がスロバキアに再び流入していることを確認した」とフェイスブックに投稿している。ハンガリー側もロシア産の原油輸送の再開を受け、EUのウクライナ融資に対する拒否権を撤回したわけだ。

スロバキアの対ウクライナ政策はハンガリーと常に同じ路線というわけではない。例えば、EUの900億ユーロ融資については、フィツォ政権は、自国が資金を負担しないことを条件に、EU全体としての融資決定そのものには反対しない(ブロックしない)という現実的な姿勢を見せてきた。その点、オルバン政権下のハンガリーは、EU全体のウクライナ支援自体を外交上の「人質」として利用してきた。

フィツォ首相(61)は「ウクライナへの武器供与は紛争を長引かせるだけだ」と主張し、政府による軍事支援を停止し、ウクライナのNATO加盟については「第三次世界大戦の火種になる」として反対を公言。 ウクライナ戦争では、 戦闘の即時停止こそが最善策であるとし、戦争終結のためにはウクライナがロシアに対し領土の一部を割譲することも「非現実的ではない」との見解を示してきた。EUの対ロシア制裁には懐疑的で、自国の利益を守るためにロシア産原油の輸入を継続してきた。

フィツォ首相(61)は2024年10月には、侵攻開始後、EU首脳として初めてロシア国営テレビのインタビューに応じ、2025年5月にはモスクワでの「戦勝記念日」に出席するなど、親ロシア的な動きを鮮明にしてきた。同首相は今年も5月9日の戦勝記念日に参加する予定だが、バルト3国は同3国領空経由でモスクワ入りすることを拒否している。

EUの異端児・ハンガリーのオルバン政権はその歴史を閉じたが、スロバキア、ブルガリア、そしてチェコといった旧東欧のEU加盟国がEUの対ウクライナ政策などで今後、ブリュッセルと対立するシナリオは完全には排除されない。

「私はハンガリーとオルバン首相が大好きだ」と語るトランプ米大統領、フィデスの公式サイトから、2026年4月7日

なお、フィツォ首相は24日、キプロスでの非公式EUサミット会議で「スロバキアはブリュッセルの支部ではない。我々は建設的なパートナーとなり、欧州の解決策を共創したい主権国家だ」と述べている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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