皇位継承問題についての衆参両院での調整が大詰めに入り、今国会で決着が付く可能性が大きくなっている。そこで、実務的な観点から、現在の状況と残された問題について、よくある誤解を排除しながら解説したい。
自民党は強行突破する構えだが、皇室の問題で強行突破の前例をつくると、長い目でみたら逆の方向でおなじことをされる可能性が出てくるから、出来るだけの努力をして欲しい。また、女性宮家にこだわる野党の一部も合意形成へむけてもう少し柔軟になってほしい。

愛子内親王と悠仁親王 宮内庁HPより
1. 国会は既に秋篠宮さまと悠仁さまを将来の天皇と予定して立法済みである
まず明確化しておきたいのは、かつて小泉内閣のもとで、若年の皇族男子がいないという状況のもとで、皇位継承に関する有識者会議(座長は元東京大学長の吉川弘之。以下、吉川有識者会議と呼ぶ)が設置され、「女帝や女系の継承を認めると共に男女問わず長子優先とする」という報告が出された。
この報告書は、その是非について議論が交わされている間に、悠仁さまが誕生されたことで、前提条件が変わったため棚上げになったのである。
そして、安倍内閣のときに、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が立法され、このなかで秋篠宮殿下が皇嗣殿下となられることが定められたので、愛子さまを皇位継承者とすることは、国会によって否定され、今上陛下から秋篠宮殿下、そして悠仁さまへ継承される路線が確定したのである。
そして、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の国会付帯決議では、皇族数の減少で公務の担い手が不足し、また、悠仁さまに男子が得られなかった場合に、皇位継承ができる皇族がいなくなることに配慮して、第二次の皇位継承に関する有識者会議(座長は元慶應大学塾長の清家篤。以下、清家有識者会議と呼ぶ)で検討することが定められ、菅義偉内閣のもとで設置された。
この経緯から分かるように、吉川有識者会議と清家有識者会議という内容が異なる二つの報告が並列してあるのではなく、清家有識者会議では、悠仁さま即位以降のことを議論して、清家有識者会議が吉川有識者会議の報告を上書きしたのである(法律で言えば改正されたということだ)。
したがって、秋篠宮皇嗣殿下を否定して愛子さまを次期天皇にするということは国会の意思として議論の対象になっていないし、秋篠宮皇嗣殿下のあとは悠仁さまという正統な継承者がいるのだから秋篠宮皇嗣殿下から愛子さまへという継承も新たな立法をしない限りは、あり得ないのである。
つまり、秋篠宮皇嗣殿下か愛子さまか、悠仁さまか愛子さまかという議論は、現在の制度では成り立たないのであって、人気投票的な問いかけは制度の無理解に基づくものだ。
2. 悠仁さまを排除して愛子天皇は国際的にも非常識。
欧州などで男子と女子を平等に扱う動きがあるのは確かだが、悠仁さまを廃嫡して愛子天皇というのは無理がある。ヨーロッパでも王位継承順位を変更してもすでに生まれている子については適用しないのが原則なのである(スウェーデンで男子が生まれたので、すでに王嗣だった王女とどちらを優先するか議論になり、王女を優先することにしたが、王子の生後3カ月後の決定)。
3. 皇統断絶を回避には女系も旧宮家も両方必要だが議論は2045年ごろにすべき
悠仁さまに男子がなかった場合に、女系天皇論と旧宮家から男系男子をみつけようというふたつの考え方があるが、今の時点で、どちらか一方で合意形成をするのは無理である。しかも、どちらの方法をとるにせよ、将来にわたって安定的な皇位継承を実現できるか不安がある。
清家有識者会議は、悠仁さまに男子が誕生しなかった場合には、それが明らかになってから議論すればいいが、候補者を確保する準備はしておくべきだということを前提に制度設計している。
そして、具体的な議論をする場合には、悠仁さま、愛子さま、佳子さま、そして皇族の養子となった旧宮家男子の子どもが出そろう2045年(今上陛下が上皇陛下退位と同じ85歳になるころでもある。悠仁さまは39歳)ごろにならないと、具体的な議論は難しいとしている。
仮に、悠仁さまに男子が何人かいたらとりあえずの議論は収束するし、いなければ、たとえば、悠仁さまに女子がおられるのか、愛子・佳子さまの子どもの構成はどうなっているかなどによって前提が根本的に変わるのだから、いまから全ての可能性について議論するのは効率の良い話ではない。私はこれを2045年問題と呼んでいる。
4. 悠仁・愛子・佳子さまの子孫が女系を含めて誰もいなくなったら旧宮家しかない
吉川有識者会議の報告も含め女系論の対象は、「上皇殿下の孫である悠仁・愛子・佳子さまという三人の子孫」に限っているが、これでは、女系を含めても数世代のうちに皇統断絶の可能性が一定の確率である。その場合には、旧宮家から求めざるを得ないはずで、しかも、女系でいちばん皇室に近いのは昭和天皇の女系子孫である東久邇家になる。従って、旧皇族の復帰を憲法違反であるとかいう理由で排除したら悠仁・愛子・佳子さまの子孫が誰もいなくなったら、その時点で天皇制は終わってしまう。
女系論は、本人たちにそのつもりはないだろうが、皇室制度の廃止の可能性を内包した危険な主張なのである。
5. 旧宮家からは一度に複数名を迎えて終わりでなく必要に応じて補充が必要
旧宮家からの養子は時限で認めるという意見もあるが、それでは、皇統断絶の危険が残る。また、養子に迎えるのに適切な年齢は15歳から25歳程度までと考えるべきで、一度に複数の養子をとるという考え方は不適切である。むしろ、有資格者の条件を明確にした上で十分な数の予備軍を準備し、複数の宮家が常に存在するように補充していくことが合理的だ。
現在、悠仁さまと同世代の旧宮家男子は10人程度いるといわれるが、これらの男子とその男系子孫はすべて将来ともに貴重な将来の皇位継承候補として温存すべきだ。たとえば、ある旧宮家から長男を養子として迎えたが、子どもがなかったら、次男の子孫を再び養子にするという可能性を否定すべきではない。
6. 夫を皇族にしない方が女性皇族の結婚をまとめやすい
愛子さまや佳子さまの配偶者を皇族にするというのでは、結婚相手が限定されてしまう。一方、現行の制度でも内親王を迎えるのは経済的負担が大きい。内親王だけが皇族として在籍するのならば、皇族費として最大で年間3000万円程度を出すことが可能であり、住居も提供でき、一方、配偶者は姓を変える必要もなく仕事も継続できるので愛子さま、佳子さまの配偶者を見つけやすくなる。また三笠宮彬子さま(44歳)、瑤子さま(42歳)、高円宮承子さま(40歳)については、現行法では結婚したら宮家は廃絶になる一方、女系論を主張する人でも彼女たちが結婚した場合に配偶者も皇族とするという人はあまりいない。しかし、本人だけが皇族ということなら結婚しやすいし、旧宮家から養子をもらうことによって宮家の名跡も残せる。
7. 愛子さま・佳子さまに一人だけで女性宮家を名乗ってもらうことも可能
有識者会議の報告の通りでも、悠仁さまの子どもの構成によっては、愛子さま、佳子さまの子や孫を皇族とする制度改正をする余地はないわけではない。愛子さまや佳子さまが宮家を名乗ることも差し支えはない(一種の夫婦別姓ともいえるし宮家はそもそも「氏」ではないともいえる)。
8. 清家有識者会議の報告は女系継承の可能性を否定するものではない
現在、自民党などが実現しようとしている清家有識者会議報告の立法化は、悠仁さまの将来における継承を決め、女系の可能性を否定するものだという誤解がある。しかし、それは間違いで、悠仁さままでの継承は、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」で秋篠宮殿下を皇嗣殿下とすることを決めたことで確定したものであるし、その一方、悠仁さまに男子がなかった場合には、旧宮家から迎えた養子の男系子孫や、悠仁さま自身や佳子さま、愛子さまの女系子孫のいずれもを、皇位継承の候補として可能にするもので、どちらにするかと決定するものではない。
2045年問題と私は呼んでいるが、そのときには確定しているであろう悠仁さまの次の皇位継承候補者の構成を見てから現実的な選択肢を設定して議論すべきことで、いま、それを議論して状況を複雑化させるのは賢明とは思えない。
女系派の立場に立つなら、旧宮家から養子をとることを阻止するのでなく、それが自動的に悠仁さまに男子がない場合の皇位継承者となることを今回、決めるわけではないことを確認することにこそ努力を傾注すべきだろう。
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