「うちは税理士がいるから大丈夫」と言う社長はなぜ危ないのか

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かつて私は財務コンサルタントと名乗っていた。

初めて会う社長に名刺を渡す。

まだ何も話していない。自己紹介をしただけだ。

それなのに、驚くほど多くの社長が、こう言った。

「うちは税理士さんがいるから大丈夫です」

何も聞いていない。
何も提案していない。

ただ名刺を差し出しただけで、この言葉が返ってくる。

最初のうちは、それを「警戒心」だと思っていた。

知らない人間を前にした防御反応だと。しかし回を重ねるうちに、これは警戒心ではないと気づいた。

本当に「大丈夫」だと思っているのだ。

税理士がいれば、会社のお金のことは大丈夫だ——そう信じている。

前回で描いた社長室の場面を思い出してほしい。

売上が伸びているのに預金が減っている。
融資を3回受けても問題は解決しない。
通帳残高の減るスピードはむしろ速くなっている。

その会社にも、当然税理士はいた。

それでも「大丈夫」だったのだろうか。

税理士が見ている時間と、社長が必要としている時間

税理士は過去を正確に記録する専門家だ。

決算書は、終わった一年間の記録だ。

売上がいくらで、経費がいくらで、利益がいくらだったか。

それを正確に、法律に則って整理する。

これは極めて重要な仕事だ。

税務申告という社会的義務を果たすために、なくてはならない存在だ。

しかし決算書は、過去の話だ。

社長が本当に必要としているのは、これからの話だ。

来月の資金繰りは大丈夫か。
売上がこのペースで伸び続けたとき、半年後の預金残高はどうなっているか。
今の借入返済額で、3年後も会社は続いているか。

税理士が見ている時間軸は、基本的に過去だ。
社長が必要としている時間軸は、未来だ。

同じ決算書を見ていても、そこから引き出そうとしているものがまったく違う。

「税理士がいるから大丈夫」——この言葉は、過去の記録をきちんと残してくれる人がいる、という意味では正しい。

しかしそれは、これからの経営が大丈夫だという意味ではない。

前回で描いた社長の税理士も、「運転資金が増えている」と言った。

それは正しかった。

しかし「だからこの先どうなるか」「どう手を打てばいいか」は、言わなかった。

言えなかったのではなく、それは税理士の仕事の範囲外だったのだ。

税理士の試験科目に資金繰りなどない。

つまり、税理士であるだけでは知らないのだ。

「銀行がよくしてくれる」という、もう一つの安心

税理士の話をしばらく続けると、今度は別の言葉が返ってくることが多かった。

「うちは銀行がよくしてくれているので大丈夫です」

この連載を第1回から読んできた読者に、改めて問いたい。

銀行が「よくしてくれている」とき、銀行は何を目的にしているか。

前回で描いた渉外担当者を思い出してほしい。

社長室で「順調ですよ」という言葉を受け取りながら、頭の中では追加融資の提案を考えていた。設備の更新はどうか。保険の見直しは。

銀行員は提案のチャンスを逃さないように訓練されている。

それは銀行員が悪いのではない。

銀行という組織の目的がそこにあるからだ。

銀行は融資をして利息を得ることで成立している。

社長の経営を改善することが目的ではない。

社長の経営が改善した結果として、融資が健全に返済されることを望んでいる——この順番だ。

「よくしてくれる」銀行は、社長にとって確かにありがたい存在だ。

しかしその「よさ」は、銀行の目的の範囲内でのよさだ。

社長が本当に必要としている問い——「なぜ売上が伸びているのに預金が減るのか」「この構造をどう変えればいいのか」——に答えることは、銀行の仕事ではない。

銀行は営利企業であり、銀行の仕事はお金を貸すことだ。

無償のサポーターではない。

三者がいても、誰も見ていない場所がある

整理するとこうなる。

税理士は過去の数字を正確に記録する。
銀行は融資という手段で資金を供給する。

そしてかつての私のような財務コンサルタントは——名刺を渡した瞬間に「大丈夫です」と言われる。

三者がそれぞれの目的と時間軸で動いている。

社長はそれを「会社のお金のこと」という一括りで捉え、誰かが見てくれていると思っている。

しかし三者の視野が重なり合うその隙間に、誰も見ていない場所がある。

売上増加が経常運転資金を増やし資金繰りを圧迫する構造。

融資を重ねるたびに元本返済と金利負担が増え、通帳残高の減るスピードが速くなっていく現実。これらは、税理士の仕事の範囲外であり、銀行の目的の外にある。

そして財務コンサルタントと名乗った瞬間に、社長は「大丈夫です」と言って扉を閉める。

私が財務コンサルタントと名乗るのをやめた理由

この不毛な会話が、何度繰り返されただろう。

名刺を差し出す。

「大丈夫です」と言われる。税理士の話をする。
「大丈夫です」と言われる。銀行の話をする。
「大丈夫です」と言われる。

社長は悪意を持っているわけではない。

知識がないから、「会社のお金のこと」を誰かに任せておけば大丈夫だと思っている。

その「誰か」が税理士であり、銀行であり、コンサルタントだ。

しかし任せる相手の目的と時間軸が違うことを、誰も教えていない。

私が財務コンサルタントという肩書きを手放したのは、この会話が嫌になったからだ。

正確に言えば、この会話を生み出す構造そのものに、もう加担したくなかった。

「財務コンサルタントです」と名乗ることで、社長の中に「また業者が来た」という認知が生まれる。

その瞬間に扉が閉まる。

扉が閉まれば、本当の問いは届かない。

社長に必要なのは、誰かに任せることではない。

自分の会社に何が起きているかを、自分の言葉で問えるようになることだ。

問いを持てた社長だけが、税理士とも銀行とも、本当の意味で対話できる。

では、その問いはどこから生まれるのか。

何のためにこの事業をやっているのか——という、最も根本的なところから始まるのだと、私は思っている。次回はその話をしたい。

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