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前回、有償書評と新聞書評の構造的格差を論じた。

今回はより深く、有償書評事業者が拠り所とする【PR】表記の実質性、そして業態としての破綻について踏み込む。
【PR】表記は形式ではなく実質で判断されるべきである
有償書評事業者の多くは、ステマ規制を遵守し【PR】を明記している。コンプライアンス対応として、その姿勢自体は評価できる。しかし、ここに重要な留保が必要である。
消費者庁のステマ規制運用基準は、形式的な【PR】表記の有無だけを問うているのではない。「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である」かどうかが判定基準である。つまり、表記の実質が問われる。
ところが現実の有償書評投稿を見ると、判別困難なケースが少なくない。【PR】の文字が極端に小さい。本文末尾の大量のハッシュタグに紛れている。同じアカウントで【PR】記事と無償の紹介記事が混在し、読者は一つひとつ確認しなければ広告かどうか判別できない。文章のトーンも構成も、無償の書評と何ら変わらない。
これで「広告と判別できる表示」と言えるのか。
書評欄を読む読者は、書評家の独立した評価を受け取るつもりで読んでいる。そこに紛れ込んだ広告は、形式的に【PR】の二文字があったとしても、読者の認識のなかでは「書評家のおすすめ」として処理される。これはステマ規制が本来防ごうとした「広告であることを隠した広告」の状態に、実質的には近い。
新聞書評欄では、こうした混乱は起きない。読者は新聞書評を「金で買えない選別を経たもの」として読む。広告ページは別レイアウト・別欄で明確に分離されている。書評と広告の境界が、媒体構造によって担保されている。
個人の有償書評には、この媒体構造による担保がない。だからこそ、表記の実質性が問われる。【PR】の二文字を投稿の片隅に置いておけば免責される、という運用は、ステマ規制の趣旨を骨抜きにする。法律の最低ラインをクリアしているから問題ない、という発想自体が、書評文化の品位を損なっている。
対価を受け取って本を紹介することは、合法であってもなお、書評の名に値しない。だから、執筆者は書評家ではない。これは規制の問題ではなく、矜持の問題である。
「無償依頼が増えた」という嘆きは、自業自得である
ある有償書評家が、「本だけ送りつけて代金を払わない依頼が増えた」「友達価格を要求される」とSNSで嘆いていた。同情を誘う書き方だが、冷静に考えてほしい。この混乱は、有償化したことそのものから生じている。
「お金を払えば紹介してもらえる」という関係を成立させた時点で、「お金を払わなくても紹介してほしい」という要求が併存するのは当然だ。書評を商品化すれば、商品をタダで欲しがる客が現れる。それは商売の常識であって、嘆くべきは依頼者のモラルではなく、自らが選んだビジネスモデルの設計である。
無償の書評家にこの混乱は起きない。最初から金銭で動かないと宣言しているからだ。
加えて、有償書評はビジネスとしても粗い。「フォロワー何万人」「書籍寄贈何千冊」といった数字が並ぶが、肝心のデータが提示されない。信憑性に乏しい。
エンゲージメント率はどの程度か。投稿から実購買への転換率はどの程度か。1冊数万円の対価に見合う到達範囲があるのか。書籍の購買データはAmazon順位やPOSで容易に検証できる。検証可能な指標を示さず個別エピソードで語る姿勢は、矜持の問題以前に商売として未成熟である。
なお、「無名の著者や小規模出版社にとって、新聞書評に届かない以上、有償書評にも存在意義がある」という反論があるかもしれない。しかしそういう著者こそ、正直な広告として正面から戦うべきであって、書評の擬態を必要としているわけではない。広告は広告として打てば、読者を欺くことなく届けるべき相手に届く。
結語──正直に名乗れば矛盾は消える
有償書評そのものが悪だと言いたいのではない。ビジネスとして成立させたいなら、「広告原稿の代行業」「出版社向けPRサービス」と正直に名乗ればよい。そう名乗れば、矛盾は消える。書評家を名乗るから不可解なのである。
問題は、新聞書評が築き上げてきた「書評」という言葉の独立性・客観性・公共性の含意を借りながら、実態は有償PRを行うことだ。しかも【PR】表記が読者から判別困難な実質を伴っているなら、それはステマ規制の趣旨に照らしても疑義を残す。これは読者を欺く構造であり、長期的には出版界全体の信頼を毀損する。
本は売るために存在するのではない。読まれるために存在する。そして読者が本を選ぶときの羅針盤は、忖度のない言葉だけだ。それを汚す商売は、書評の名を騙るべきではない。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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