日本の目指す立ち位置

先般、東京科学大学が主催する「日本のグランド ストラテジー」という講演にオンラインで参加しました。片田さおり南カリフォルニア大学国際関係学部教授と古賀慶シンガポール南洋理工大学准教授の共著「Japan’s Grand Strategy」の出版記念も兼ねたイベントでした。

まずグランド ストラテジーという言葉ですが、あまり聞かれたことはないかもしれませんね。国家の目的達成の為の国家戦略という意味です。極めて大所高所に立った視点で物事を捉えていく発想で日本では吉田ドクトリンとかNSS(国家安全保障戦略)などがその例と言えるでしょう。その中で新しいグランドストラテジーが学者レベルで議論されたわけです。グランド ストラテジーそのものは各国がそれぞれ持ち合わせており、世界の様々な学者がこの問題に取り組んでいると言ってもよく、日本についてはこのお2人の学者が新たな切り口で議論を展開したわけです。

当然関心も高く、数百人の学者や外務省関係者などが参加しました。ただ、学者同士の討論もあり、なかなか辛辣な質問も飛び交いながらも、最後は時間切れで終了しました。終わったのはバンクーバー時間で朝4時半を過ぎておりました。

この話で多分一番盛り上がったのが「境界国家」という表現であります。著者の2人は英語ベースでの著書で「境界国家」を英語で「Liminal Power」と称しています。学者の議論としてこのLiminalの訳を「境界」としたことにややわかりにくさがあったようです。私もとっつきにくい感じがしました。Liminalは2つの意味があり、1つはまさに境界で、もう1つは変化する過渡期と言う意味です。これをPowerとくっつけたので余計わかりにくくなったような気はします。

では日本のグランド ストラテジーについて学者の見解を見てみます。まず歴史的展望をすると明治から今日に至るまで基本的に外的要因によって変化がもたらされたと考えています。①黒船や開国に伴う明治時代の萌芽、②日露戦争および第一次大戦を経た戦間期、③第二次大戦後、④ソ連崩壊に伴う冷戦後の4つの区切りです。

高市首相 首相官邸HPより

次に国家の影響力や国際的ステータス、政治制度、経済的進捗具合、さらには地理的帰属性などが加味されながら国家のグランド(基盤)が固まってきます。

こう見てみると私が思うに日本は米中という2大大国の次のグループに所属しており、世界への影響力を引き続き強く持ちづづける国家という位置づけになります。では日本が目指すのは何か、といえば私には最終的にはアメリカと中国に影響されにくい体質を作る国家づくりではないかと考えています。事実、その講演において時間を割いたのは日本が世界の国々と多々連携を結んでいるという点であります。

その動きは今後、より強化され、グルーピング化される傾向が出るとみています。例えば高市首相がゴールデンウィークに外遊したベトナムは明らかにFOIP(自由で開かれたルールに基づく国際秩序)の10周年を意識した取り組みでした。報道ではあまりFOIPそのものを報じていませんが、安倍氏が2016年に提唱したASEANとアメリカ、オーストラリア、インドとの連携を図るという極めて戦略的で日本発祥の連携であり今年はその10年目という節目にあたります。

以前、私はこのブログで日本の役割としてアジア地区の盟主になること、と申し上げたことがあります。日本がアジアを取りまとめ、日本と西欧諸国とのジャンクションになり日本が様々な国家との連携の中心的役割を果たすことが日本の目指すべき道ではないかという趣旨でした。

現在アメリカが政治的に不安定、かつ歴史的観点からも将来を予見しにくくなっていることを踏まえ、法の支配による秩序形成という視点を日本がしっかり守り、国際関係の基盤づくりにしていくことが今後求められるとみています。

イランとの交渉でも見えたように日本は敵を作らないスタンスが外交方針にはあります。戦前外交で外務省が作り上げた幣原外交はその典型だったのですが、軍が力をつけるに従い、幣原外交は軟弱外交と呼ばれ、見向きもされなくなります。その幣原喜重郎は戦後、総理大臣になり、現在の憲法の下地を作ったのであります。それはとりもなおさず幣原氏のバランス感覚の賜物だったとも言えます。世界情勢の変化により世論と時の政権は軌道修正をしていくわけですが、日本のグランド ストラテジーはこの枠組みが変化したとしても(つまりたとえ改憲したとしても)180度方向転換することはないのだろうと考えています。

日本人は常に他者との協力関係を日本の歴史の中ではぐくんできたことを踏まえ、今、日本の立ち位置の明白化と世界におけるリーダーシップが求められているのではないかと考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年5月18日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。

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