AIで効率化する前に、まず「不要な仕事」をなくせ --- 兵藤 迅

「AIを入れたい」という経営者に、私はまず一つ聞くことにしている。「今やっている仕事のうち、やめてもいいものはどれくらいありますか」と。

たいていの場合、答えに詰まる。それが、多くの企業のAI導入が空回りする理由だと私は思っている。

生成AIは、たしかに便利だ。文章の下書き、議事録の作成、資料の要約、問い合わせ対応、情報収集など、これまで人が時間をかけていた作業の一部を短時間で処理できるようになった。人手不足に悩む中小企業にとって、大きな可能性がある。

だが、AIはどんな仕事でもうまく処理してくれる魔法のツールではない。むしろ、業務が整理されていない会社ほど、AI導入によって問題が見えにくくなる危険がある。

Aleksei Morozov/iStock

AIで速くしてはいけない仕事がある

たとえば、誰も読まない報告書をAIで短時間に作れるようになったとする。作業時間は減るかもしれない。しかし、その報告書自体が不要であれば、会社としての生産性はほとんど上がっていない。

目的が曖昧な会議の議事録をAIで自動作成しても、会議そのものが不要なら、本質的な改善とは言えない。二重入力をAIで補助しても、そもそも二重入力が必要なのかを見直さなければ、非効率な構造は残ったままだ。

不要な仕事をAIで速くしても、不要な仕事であることに変わりはない。AI導入を考える前に、まず向き合うべき現実がここにある。

仕事は放っておくと増える

以前、ある中小企業を訪問したときのことだ。経理担当者が毎朝1時間かけて、同じ数字を三つの異なるExcelに転記していた。「この作業をAIで効率化できませんか」と聞かれたが、私が先に確認したのは「この三つのExcelは全部必要ですか」という点だった。結果、そのうちの一つは、すでに誰も参照していないことが分かった。

企業の仕事は、放っておくと増えていく。最初は必要だった会議が、目的を失ったまま定例化する。過去のトラブルをきっかけに増えた確認作業が、その後も残り続ける。担当者が変わるたびにExcelが増え、同じ情報を複数の場所に入力するようになる。

誰か一人が悪いという話ではない。仕事は長年の積み重ねで自然に複雑化する。現場は目の前の業務を回すために工夫し、管理側は確認や報告を増やし、結果として全体の流れが重くなる。

問題は、増えた仕事を減らす判断がされないことにある。仕事を増やすことは簡単だ。新しい資料を作る、確認する人を増やす、新しい会議を設定する。だが、仕事をやめるには意思決定が要る。

捨てる、減らす、任せる、判断する

AI導入の前に必要なのは、最新ツールの比較ではなく、仕事の棚卸しだ。具体的には四つの問いを立てる。

まず、「捨てられる仕事はないか」。目的を失った定例会議や、誰も確認しない報告書。過去のトラブルがきっかけで始まり、そのまま続いている確認作業――こうした仕事は、本来なくせないかと疑うべきだ。

次に「減らせる仕事はないか」。毎日の報告を週次にできないか、全員参加の会議の数を絞れないか。完全にやめるのが難しくても、頻度や粒度を見直せる仕事は意外に多い。

そのうえで、「AIに任せられる仕事はどれか」を考える。議事録、文章の下書き、情報の要約、定型的な分類、一次調査などはAIが得意とする領域だ。ここは積極的に活用すればよい。

最後に残るのが「人間が判断する仕事」だ。顧客対応、採用、投資判断、例外対応といった類の仕事である。これらはAIに任せるべきものではない。意思決定するのは、人間の役割である。

重要なのは、AIに任せる仕事を決める前に、人間が判断すべき仕事を決めることだ。ここが曖昧なままAIを入れると、現場は便利なツールとして使うだけになり、会社全体の変化にはつながりにくい。

ツール選びの前に決めること

AI導入というと、どのツールを使うか、どのサービスを契約するか、どの部署で試すか、という話になりがちである。もちろん、それらも必要な検討ではある。

しかし、順番を間違えてはいけない。先に決めるべきことは、ツールではなく仕事の設計だ。何をやめるのか。何を減らすのか。何をAIに任せるのか。そして、何を人間が判断するのか。

AI時代に経営者がやるべきことは、最新ツールを探すことではない。自社の仕事を見直し、何を残し、何を捨て、誰が最後に判断するかを決めることだ。それを決めない限り、どんなツールを入れても会社は変わらない。

兵藤 迅(ひょうどう はやて)
中小企業の業務改善・DX・AI活用を支援する業務設計コンサルタント。
専門誌『近代中小企業』、『日本プロフェッショナル販売員協会 Cheer Up』等で執筆。

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