円安・インフレ・金利上昇による「見えざる大増税」

ブルッキングス研究所のロビン・ブルックスが「円の実質実効為替レートがトルコ・リラを下回った」と警告したことが話題になっている。日経新聞がこれを取り上げで「円はリラより弱くなった」と書いたことが批判されている。

正確にいうと、これは2014年の先進国(G10)と新興国(EM)の平均を基準にした変化率であって絶対値ではないが、この12年で円がリラより減価したことは間違いない。その原因は何だろうか。

インフレが円安を呼び、円安がインフレを呼ぶ

円安の大きな原因は、高市政権の赤字財政である。インフレの最中に「成長投資」をやると、成長率ではなく物価が上がる。2020年を基準にした消費者物価指数は、今年4月で113。つまり物価はこの6年で13%上がった。この時期にドル円レートは、110円から160円に45%も上がったが、その3割がインフレの影響と考えられる。その逆に、円安が輸入インフレをもたらす効果もある。

政府債務比率の分母は名目GDPだから、インフレになると分母が増え、政府債務(国と地方の債務)のGDP比は2020年の210%をピークに、25年には186%まで下がった。名目債務は約1300兆円でほとんど変わらないが、インフレで実質債務が13%も減ったのだ。これは170兆円の大増税である。

図1(内閣府)

しかも預金金利はほぼゼロだから、実質金利はマイナス2%である。これがほぼゼロ金利の国債を銀行が消化する原資だった。デフレ時代にはゼロ金利でも実質金利はプラスだったので、普通預金は合理的な資産運用だった。このため預金者は貸しっぱなし、政府は「借りっぱなし」の状態を続けることができた。

インフレ増税で高齢者が現役世代からの借金を返す

しかし状況は変わった。インフレ率2%の時代にゼロ金利の普通預金に預けることは、マイナス2%の実質金利で預ける結果になる。多くの預金者はまだそれに気づかないで貸しっぱなしにしているが、家計の預金比率は減り始め、戦後初めて50%を切った。

これからもインフレが続くと、家計資産が海外投信など高利回りの金融商品に流出し、国債が消化できなくなって長期金利が上がる。それによって元利合計の政府債務が増え、国債と円が暴落するおそれがある。これに対する政策対応は3つある:

  1. 増税による財政再建
  2. 税外収入による赤字の穴埋め
  3. 財政赤字の拡大によるインフレ増税

どれを選ぶかは国民の判断だが、1は高市政権では不可能である。2はブルックスの推奨する対策だが、外為特会の為替差益は一時的なものだ。それ以外の「埋蔵金」を取り崩すには特殊法人を解散する必要があり、政治的には1より困難だ。

そこで高市政権のやっているのが3である。2%のインフレを続ければ、毎年26兆円の増税効果があるが、誰も気づかない。国会の同意も必要ない。これで図1の名目成長率3%の「成長移行ケース」になれば、政府債務比率は劇的に減る。2035年度の162%というのは2010年の水準である。

これは政治的には合理的な選択だが、消費税10%分の大増税である。しかも預金が目減りして最大の被害をこうむるのは、預金の7割をもっている60歳以上の高齢者だ。彼らが多すぎる年金をもらってつくった現役世代への借金をインフレで返すのは、因果応報かもしれない。

 

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