皇室典範改正をめぐる議論が、大詰めを迎えている。焦点は、旧宮家の男系男子を養子として皇室に迎える案である。これは表向きは「皇族数の確保」だが、男系男子による皇位継承を将来にわたって維持するための制度設計である。
その背後には「女性・女系天皇への道を開くのか、それとも男系継承を守るのか」という根本問題が横たわっている。問題は、その議論が当事者である皇室の思いを十分にくみ取っているように見えないことだ。これは島田裕巳さんも心配していた。
上皇も天皇も養子案に「強い懸念」
報道によれば、上皇周辺には旧皇族の復帰に強い懸念があったという。さらに天皇陛下も、旧宮家の養子案について「国民の理解が得られるのか」と心配されたという。これは政治的な反対意見ではない。象徴天皇制が国民の理解と敬愛によって成り立つ以上、本質的な問いである。
旧宮家の男系男子といっても、1947年に皇籍を離脱してからすでに80年近くが過ぎている。候補者とされる人々は、皇族としてではなく一般国民として生まれ、育ってきた。
血筋だけを根拠に皇室へ迎え入れるとして、それを国民が自然に受け入れられるのか。ここを曖昧にしたまま制度だけを先に作れば、皇室を安定させるどころか、かえって象徴天皇制の基盤を揺るがしかねない。
もちろん、憲法上、天皇や皇族が政治過程に直接介入することはできない。皇室典範を改正するのは国会と政府の責任である。したがって、天皇家の心配があるから法案は成立しない、という話にはならない。
むしろ政治力学だけを見れば、旧宮家の養子案は成立に近づいている。高市政権は男系維持を重視し、日本維新の会との連立合意でも旧宮家の養子案を優先する姿勢を示してきた。
さらに与野党協議でも、女性皇族の身分保持案と旧宮家の養子案をともに進める方向がまとまりつつある。反対論が残っていても、国会の数の論理で突破できる可能性はある。
国会で「多数決」で押し切れるのか
だが、成立と定着は別問題である。皇室制度は、普通の政策とは違う。税制や社会保障なら、多少の反対があっても多数決で決め、必要なら後で修正すればよい。しかし皇位継承や皇族身分に関わる制度は、一度動かせば簡単には戻せない。しかも、制度の正統性は法文だけでなく、国民の納得と皇室自身の受け止めに支えられている。
今回の養子案には、なお不明点が多い。誰が養子になるのか。対象者本人の意思はあるのか。既婚者も対象にするのか。配偶者や子どもの身分はどうするのか。養子本人に皇位継承資格を与えないとしても、その子孫には認めるのか。こうした核心部分を先送りしたまま「とにかく典範改正を」と急げば、制度はできても信頼はついてこない。
天皇家の心配を無視して、旧宮家の養子案は成立するのか。法律としては成立しうるが、それが皇室の安定につながるかは別である。国民の理解を置き去りにし、当事者である皇族方の人生への配慮も欠いたまま進めるなら、成立はしても「成功」とは言えない。
皇室の存続に必要なのは、法改正ではない。国民が納得し、皇室が無理なく受け止められる制度設計である。男系か女系かというイデオロギーの勝敗ではなく、象徴天皇制を次の世代にどう安定的に引き継ぐのか。その原点に戻らなければ、皇室典範改正は、皇室を守る改革ではなく、皇室をさらに不安定にする改革になりかねない。







コメント
記事の指摘は鋭い。
一方で、どうしても引っかかったのが、記事の「これは政治的な反対意見ではない」という一文です。何を根拠にそう言い切れるのか、正直よく分かりません。
国会や政府でまさに法案が議論されている真っ最中に、その内容について「懸念がある」「このままでは心配だ」と示されたものを取り上げ、それを慎重論(=反対論)の補強材料として使っているのに、「政治的ではない」と言うのは、どう考えても無理があります。
法案に「懸念」を示せば、それはどう見ても政治的な反対意見だからです。
それを「政治的ではない、本質的な問いだ」と言い換えるのは、結局、自分の主張に都合のいい権威づけになっていると思います。
しかも、この理屈はけっこう危ういと思います。「皇室は養子案を心配している」という構図をそのまま押し出すと、裏返せば「この法案を進める人たちは皇室の意に反している」、さらに進めば「皇室は【政治に口出ししない】というルールに従がわない人間だ」というニュアンスまで生まれてしまう。
これは皇室にとって、非常に失礼な扱いではないでしょうか。
憲法第4条にあるとおり、天皇や皇族は国政に関わる立場ではありません。
だからこそ、私たち国民や政治家、メディアの側が、皇室の発言や周辺情報を自分に都合よく利用してはいけないです。
皇室の心配を勝手に「法案反対の意思表示」と読み替えて自分の主張の旗印に使うのは、我田引水ですね。
これは皇室を道具扱いするとは失礼だと思います。
> 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。(憲法第1条)
誰がどう皇位を継いでいくかというルールは、まさに主権者である「国民の総意」によって決められるべきと示されています。
皇室の意向を忖度する形ではなく、国民の代表である国会が決めるのが本筋です。
記事自身も「皇室典範を改正するのは国会と政府の責任である」「天皇家の心配があるから法案は成立しない、という話にはならない」と書いています。
これは正しい。
### 70年続く論争と、皇室の本当の困惑
この「男系男子だけで本当に大丈夫なのか」という問題は、最近始まった話ではありません。
昭和31年(1956年)の国会で、すでに「皇位継承者が少数に限られる」「憲法の男女同権の趣旨」「歴史上に女帝が存在した事実」を踏まえて、女子にも皇位継承権を認めるべきではないか、という指摘が出ているのです。つまり、後継者が枯渇するリスクも、女性天皇の可能性も、70年前から分かっていた。それを先送りし続けた結果が、いまの旧宮家養子案という苦しい綱渡りなのではないでしょうか。
もし現在の皇室の方々のお気持ちを私が勝手に推察するなら、男系か女系かという中身以前に、「自分たちが日本国内の政治的な争いの火種になり続けていること」自体を、心苦しく思っておられるのではないか、と感じます。70年もずっと争いの火種だったのですから。
### まとめ
皇室のお気持ちを片方の陣営の旗印に使うべきではありません。
男系維持を叫ぶ側も、それに反対する側も、皇室を自分たちの政治的な道具にするのはやめるべきです。
憲法第1条に立ち返り、これ以上の引き延ばしをやめて、ルールを確立すること——それこそが、皇室を本当に守る道だと思います。