石見の湯処・温泉津へ。鄙びた温泉街で出会う“静かな熱”

島根を旅しています。出雲市駅から特急スーパーおき5号に乗って島根県西部の石見の国にやってきました。石見地方は小笠原諸島などの離島を除き、東京から時間的距離が一番遠い場所。はるばるやってきた感があります。

降り立ったのは温泉津駅。「おんせんつ」と書いて「ゆのつ」と読みます。JR西日本の豪華寝台特急「瑞風」の停車駅にも選ばれている山陰きっての温泉町です。

駅舎をでたところにコミュニティバスがいて、「温泉まで乗って行きますか?」と声を掛けられました。駅から温泉街までは歩いて20分弱あります。バスは便利なんですが、今回は街並みも楽しみたかったので歩くことにしました。駅舎は写真の通りなんですが、「温泉津駅」の表記よりも同居するJAの看板の方が大きいので、初見の方にはここが駅だとはわかりにくいかもしれません。

温泉津は「津」と名がつく通り、海に面しています。温泉街に向かう途中、小さな漁港に船がついているのが見られます。温泉街はここから小高い丘を登った場所にあります。

坂を登っていくと古い民家がありました。ここは内藤家庄屋屋敷。戦国時代、毛利元就の命を受けて港の近くに鵜の丸城を築き、奉行に任命された家です。毛利が撤退したあとも廻船問屋や酒造などの経営に携わり地域経済を支えてきました。温泉津の町は1747年の大火でほぼ焼失しているのですが、その後に建てられた建物としては最も古いものだそうです。

なお、温泉津温泉は石見銀山に近く、温泉津港は銀の積出港として重要視されており、毛利家撤退のあとも江戸幕府の直轄地とされてきました。

街灯が昭和チックでなんともいい味を出しています。

ごめんよ、ナウがもう古いんだ。。。

狭い道路の中に古い建物や温泉旅館が並びます。大きなホテルはなく、規模の小さな旅館が並んでいるので昔ながらの鄙びた温泉街の雰囲気がそのまま残されています。

温泉街は「温泉津町温泉津伝統的建造物群保存地区」の名称で温泉地として初の国の重要伝統的建物群保存地区として選定されています。また、世界遺産「石見銀山遺跡とその文化的景観」の構成遺産のひとつともなっており、温泉津は世界遺産の温泉としてもその名を知られることとなりました。

温泉街の最も奥に、外湯である元湯「薬泉湯」があります。レトロな町並みの中に突然アニメ風の少女のキャラが現れて驚きです。湯灯(ゆほ)は湯に宿る声を人々に伝える精霊なのだそう。キャラは姉妹で湯の命である源泉を護る姉・命泉(みこと)もいます。

いかにも昭和の銭湯といった佇まいの泉薬湯。こういうの大好物です。番台のお母さんが入り方を丁寧に教えてくれました。湯舟は3つあって、まず40度程度の湯から入ります。そこで体を慣らしたらぬる湯(43~44度。それでも結構熱い)に入り、あつ湯は「頑張れたら」入る。ちなみにあつ湯は48度程度。

よっ…よんじゅうはちど…(;゚Д゚)

片足だけ入ってみましたが、まぁ、無理でした。片足だけ靴下はいたみたいに赤くなります。無難にぬる湯でやり過ごしました。それでも熱いので血が全身を巡るのがわかります。

泉薬湯は裏手に源泉があってそこから直接湯を引きこんでいます。源泉が1.6メートルほどしか離れておらず非常に近いため湧いたそのままの状態でお湯が引かれているためこのような高温になっているのです。泉質はナトリウム一塩化物温泉。舐めるとやや苦く、空気に触れると酸化してやや濁ります。

泉薬湯の裏には神社がありました。温光寺といい、1555年に建立されたと言われています。泉薬湯の化身・薬師瑠璃光如来が祀られています。石見銀山が開かれる以前から温泉があることが知られており、病に聞く命の湯として地域に親しまれてきました。

温泉街にはもう一つ外湯があります。大正時代に流行った洋館のような佇まいを見せます。薬師湯は震湯とも呼ばれているのですが、これは薬師湯が1872年の浜田地震の際に湧きだす湯の量が増えたことから新たに設けられたという歴史を持つためです。

この日は閉まっていたのですが、隣接する震湯ギャラリーは薬師湯の旧館で今はギャラリーやカフェとして活用されています。昭和チックなレトロな温泉街の中にある木造洋館はモダンで存在感を放ちます。

BAR&旅館のSOHO。

本当はこの鄙びた温泉街で一泊と思ったのですが、翌日の旅程との兼ね合いで宿泊は断念し、日が暮れ始めた温泉街をあとにしました。

鄙びた温泉街ですが、世界遺産に認定されたあとはバーやカフェなどが入る古民家も増えて新たな姿に生まれ変わろうとしています。都会の喧騒と離れ、鄙びた温泉地で静かに一夜を過ごすのもいいと思います。私も次は絶対宿泊したいです。


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2026年6月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。

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