保証協会1%を喜ぶ社長たち:高度化する金融政策と置き去りにされる社長

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コロナ禍前からコンサルティングをしていて不思議に思っていることがある。

保証協会付きで金利1%の融資と、プロパーで金利2%の融資。この二つを並べて社長に見せると、ほとんどの社長が保証協会付きの1%を選びたがる。プロパーの2%は「高い」と感じて渋る。

しかし、保証協会には保証料がかかる。標準保証料率は最優良区分で年0.45%、最下位区分で年1.90%程度だ。経営状況が良好とまでは言えない中小企業の多くは、この中間あたりの料率になる。

保証料を1%と仮定すれば、保証協会付き1%の実質負担は2%。「借入金額×(金利+保証料率)×借入期間」で総コストを計算し、プロパーとの比較を行うのが意思決定の基本であるにもかかわらず、それを計算する社長にほぼ会ったことがない。

保証協会1%とプロパー2%——コストだけで比較しても、プロパーの方が有利であることが殆どである。それでも社長は「1%」という見た目の数字だけで判断する。

この光景を見るたびに思っていたことがある。

社長が見ているのは「金利という一つの数字」だけで、「資金調達の総コスト」を見ていない。

6月13日以降も続く「動いている」報道

企業価値担保権の話に戻る。施行から3週間が過ぎた6月13日以降も、各行が取り組み開始のプレスリリースを相次いで発表している。

横浜信用金庫は、不動産担保や経営者保証の有無にとらわれず、技術・ノウハウ・将来性などの事業そのものの価値を評価した融資の取り扱いを開始したと発表した。金融庁の調査では、56.2%の企業が「事業性を評価した担保・保証によらない融資」を今後メインバンクから受けたいと回答している。

制度は確かに動いている。

しかし、私が立ち止まるのはここだ。

実質コストすら判断できない社長が、企業価値担保権の実質コストを判断できるのか

保証協会1%とプロパー2%。この単純な二択ですら、保証料等を加味した実質コストで判断できない社長が多い。

企業価値担保権の実質コストは、これとは比較にならないほど複雑だ。

担保権者になれるのは専用の信託業免許を持つ信託会社に限定されており、借り手・信託会社・銀行の三者間で信託契約を結ぶ必要がある。融資が実行された後も、月次のモニタリングが入り、コベナンツ(財務制限条項)の達成状況が確認される。日本総合研究所が指摘する通り、信託契約という複雑な取引形態は手続きの煩雑化と管理コストの増大を招く。

この管理コストは、誰が負担するのか。最終的には金利や手数料に反映され、借り手である中小企業が負担することになる。

つまり問うべきことは一つだ。「企業価値担保権を使った融資は、結局、保証協会付き融資やプロパー融資より安いのか、高いのか」。

この問いに答えられる社長は、おそらく今の日本にいないだろう。

なぜなら、保証協会1%とプロパー2%という単純な比較すら、実質コストで考えたことがないからだ。

「担保がなくても借りられる」という宣伝文句が隠していること

企業価値担保権もCLO(貸付債権担保証券)も、政策担当者が口を揃えて強調するのは「担保に依存しない」という点だ。

CLOとは、日本政策金融公庫が地域金融機関と連携して行う仕組みで、中小企業への無担保融資を裏付けとした証券化商品である。地域金融機関が貸し付けた債権の信用リスクを日本公庫や機関投資家に分散させることで、金融機関が無担保でも新規融資に踏み出しやすくする制度だ。日本公庫は「担保に依存しない資金繰り支援手法として定着してきた」としている。

不動産がなくても、設備がなくても、技術力や将来性を評価して融資ができる——この物的担保からの解放が、いつも制度の目玉として語られる。

しかし、よく考えてほしい。

物的担保がなくても貸せる仕組みなら、なぜそれがこれほど大きな政策課題として扱われるのか。

世界には、特定の事業や資産から生まれるキャッシュフローのみを返済原資とし、返済が不能になった場合でもその担保の範囲を超えて責任を問わない「ノンリコースローン」という融資手法が存在する。責任財産の収益力から算定される金額を基に融資を行い、その範囲内に返済責任を限定する貸付方法だ。事業そのものの将来性を評価する融資は、理論上はすでに存在している。

もしノンリコース融資が中小企業金融で当たり前の手法であったなら、企業価値担保権がこれほど話題になることはなかったはずだ。

問題は担保の有無ではない。

人的担保——本当に問われるべきは、なぜ経営者保証が必要とされてきたか

中小企業庁は経営者保証をこう定義している。中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となること。企業が倒産して融資の返済ができなくなった場合は、経営者個人が企業に代わって返済することを求められる。

そして中小企業庁自身も認めている。「経営者保証」には、経営への規律付けや資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因となっているという指摘もある。

経営者保証ガイドラインが策定され、保証なしで融資を受けられる条件も整備されてきた。それでも、経営者保証は中小企業金融の現場から消えていない。

企業価値担保権もCLOも、「不動産担保からの解放」を高らかに謳う。しかし経営者保証——人的担保——については、表立って語られることが少ない。物的担保の話ばかりが政策の前面に立ち、人的担保の話は脇に置かれている。

ここで問いたい。

社長は、なぜ自分が経営者保証を求められているのか、その理由を理解しているだろうか。

保証協会1%を喜ぶ社長の延長線上にある問題

保証協会1%とプロパー2%の実質コストを比較しない社長が、なぜ自分が経営者保証を求められているのかを理解しているとは考えにくい。

「担保がなくても借りられる」という宣伝文句に飛びつく前に、確認すべきことがある。物的担保が不要になったとしても、人的担保——経営者保証——が外れるかどうかは別の問題だ。企業価値担保権を使っても、経営者保証が併用されるケースは想定されている。

制度が新しくなるたびに「担保不要」が話題になり、「保証不要」にはならない。この非対称性に気づいている社長がどれだけいるだろうか。

次回への問い

なぜ銀行は、今もなお人的担保を必要と考えているのか。

物的担保の議論がどれだけ高度化しても、この問いに答えが出ない限り、企業価値担保権も結局「担保の一部が変わっただけ」で終わる。

次回はこの問いを掘り下げたい。

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