相続税がない国の落とし穴

年齢がそうさせるのかもしれませんが、相続とか遺言といったことが妙に気になるようになりました。最近もご縁があった強度の認知症の方がお亡くなりになったのですが、遺書がなく、その残資産の清算に非常に苦労しているようです。お亡くなりになった方の様々な契約解除や未払いの清算、更には家族を探し、その分配をする作業ですが、正式な流れで決められた方がその遺産管理人になります。費用もかかるし、国をまたいで家族を探すので容易ではなく、ましてやお亡くなりになった方の過去なんて案外本人しか知らないこともあるものなのです。それこそ「墓場まで持っていく誰にも明かせない秘密」はこんな時、実に面倒なことになるわけです。

kazuma seki/iStock

遺言を書け、というのは私がまだ50代半ばぐらいの頃から様々な方に言われていました。私は実はそれを長年、勘違いしていたのです。いくら弱小零細企業とはいえ、将来の会社の運営が困るからだろう、ぐらいにしか思っていなかったのです。

ところがそうではなく、カナダの税制は相続に関して、日本と全く発想が違う点に気がついたのです。日本は本人が死ねば相続人が一旦引き継ぎ、その税金を支払う義務が生じますが、カナダでは死んだ本人が税を払う義務があるのです。つまりしっかり準備していないと死んでも死にきれない、それがカナダであり、小さい会社であっても経営している人には絶対に避けて通れない問題なのです。

では具体的に何が問題か、簡単にご紹介しましょう。ある方が起業して日本食レストランを開業しました。大盛況で2店目、3店目と成長させ、10億円の価値がある飲食店経営の会社になったとします。自分で起業したのだから資本金は仮にゼロとします。この方がある日、交通事故で亡くなったとします。さぁ、大変です。まずこの方のキャピタルゲインは10億円。それに対してざっくり1/3程度の税金がかかりますから3億3千万円を納税しなくてはいけません。誰が?本人は死んでいます。でも税務当局は本人に取り立てに行くので最終的に会社の資産が没収される可能性があるわけです。

実際には遺言執行者ないし遺産管理人が死んだ本人代わって納税を含めた代執行します。納税は特に重要でそれが終わり完済した証明(Clearance Certificate)がなければ遺産相続人に分配など引き渡せないような仕組みになっています。

そのために自分が死んだ後の始末を自分で準備しておかねばならないわけです。その始末の方法はいくつかありますが、その際、遺書がないと何もできない完全フリーズ状態になってしまうのであります。すると会社そものが行き詰まる可能性すら出てくるわけなので遺言を書けというわけです。

実はいま、人生最後となるはずの会社のリストラをしています。日本語のリストラは後ろ向きのニュアンスがありますが、私がやっているのは会社の構築を変えるという文字通りの意味です。そのプランニングを会計士と半年に渡りやり取りし、自分でもいろいろ調べて極めて大きな会社組成の変更をします。新たに専門の弁護士を雇い、2人の鑑定士と契約しました。2人の鑑定士とは会社の鑑定評価と不動産鑑定です。このあたりは私が会社買収の際にやったプロセスなのでよくわかっています。

何をしようとするのか、というとあまり種明かしは出来ないのですが、新たにホールディング会社をつくり信託運営にしたうえで自分が現在持つ今日時点の資産をホールディング会社が発行するたった1株の優先株にすべての資産を凝縮させ、自分のキャピタルゲインを現時点で確定させるのです。その上で自分にかかるであろう将来、死んだ際の税金を計算し、その資金を生命保険で担保するというもの凄い剛腕なプランであります。

何をいっているかわからないとおっしゃるでしょう。端的に言えば20年後か30年後に死ぬ際の税額を、確定させ、その準備をしようとしているのです。そんな裏技、カナダではできるんです。何故そんなに急ぐのか、と言われるとその確定される死亡時に払う税額を準備するのに10年はかかるから、であります。つまり、これから10年は身銭ではなく、死んだ際の税金のために働かねばならないということです。あーバカバカしい、ですが、これに早く気がついてよかったとも言えます。

相続税がないカナダはいいな、と思っているでしょう。そりゃそうです。相続を受ける人には税金がない分、死んだ相続を提供する人が応分の税金を払っているのですからものは言いようです。先進国はどこも国家運営にものすごくお金がかかるのです。なのであの手この手で税金を徴収しようとします。日本もそうですが、カナダだって同じなのです。死んだ人ほど取りやすいものはないのです。

今年の初めに私は教育財団を作りました。この発想のきっかけは北米で一定規模の事業をしている会社は財団を持っているところが結構あるからなのです。またなぜ、アメリカの成功者は寄付を多くするのか、という点とも結びつきます。結局、死んだらお金を墓場にもっていけないのです。身内に残すと言っても身銭にならないケースを嫌というほど見てきてました。なのでお金はあまり残さず、使う、そして不必要なほどには貯めこまない、その発想が根底にあるのでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年6月28日の記事より転載させていただきました。

アバター画像
会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント