
高市首相 首相官邸HPより
高市首相は「台湾有事は日本有事」の発言にみられるように、対中強硬政策が自分の外交的な使命であると思っているようです。高市氏が師と仰ぐ安倍元首相は2006年10月、首相就任からわずか2週間後に中国を電撃訪問しました。深刻な対立状態に陥っていた日中関係を改善するのが国益になるとの判断からです。
安倍氏は首相就任直後に、悪化していた対中関係の改善に取り組むべく、初の訪問国として米国でなく中国を選んだのに、高市氏は就任早々から対中敵視、強硬政策をとってきました。真逆です。長期的視点が感じられません。
安倍訪中のお膳立てをしたのが、2005年1月から3年間、外務次官を務めた谷内正太郎氏です。同氏は第2次安倍政権(2012年~)下の2014年1月に初代国家安全保障局長に就任し、安倍政権の外交戦略を支えました。その谷内氏が日経新聞の名物連載「私の履歴書」に登場、なかなか示唆に富む記事です。
安倍元首相の電撃訪中に学べ
7月1日から始まったばかりの連載第2回はいきなり「安倍首相の電撃訪中実現」です。あれっ、と思いました。日中関係は長期的視野に立って改善していくのが国益になる。それなのに高市首相は対中敵視、強硬外交のほうが国益になると錯覚しています。その高市氏にまず読ませたいと谷内氏は思ったに違いない。
谷内氏はこう書いています。「今世紀最大の日本の外交的課題は中国との関係であると私は考えていた。日本は同盟国の米国と、重要な隣国である中国との間に入って、いかに安定的かつ戦略的な関係を構築していくべきか。それが日中間の根源的な課題である」。そうした歴史観に立って、谷内氏は次官就任以来、極秘裏に対中関係の改善の地ならしを繰り返し、安倍訪中を実現させたのです。
高市首相はアベノミクスをはじめ、安倍元首相の政治、経済政策の継承者であることを自称しているようです。高市氏は師匠から何も学ばなかったのか。首相就任後初の首脳会談の相手として米国を選び、イラン戦争(2026年2月28日~)を始めたばかりのトランプ大統領に向かって、なんと「世界の繁栄と平和をもたらすことができるのはドナルドだけだ」と褒めました。驚きの言葉としか言いようがありません。
有害無益なイラン戦争を始めたのはトランプ
多くの専門家が「無意味な」というイラン戦争をトランプ氏は開始し、原油価格を高騰させ、世界経済を混乱の渦に巻き込み、朝令暮改の外交を続け、いまだに停戦なのか、戦争継続なのかわからない状態を作り出しています。高市氏は「戦争を始めたトランプ氏しか戦争を止められない」という意味で言ったのか、「イランの無条件降伏が世界の繁栄と平和をもたらす」と本気で信じていたのか。後者の意味だったのではないかと思えてきます。筋の通らないトランプ氏に対する礼賛でした。
次に、高市氏はインドを訪問し、日印首脳会談で日本企業による対インド投資の拡大で合意しました。150社以上の日本企業が同行し、130件の日印間の協力協定を結びました。日本企業はインドの将来に期待をかけていることを意味します。日本での国内投資は将来性に乏しいと分かっている。
それなのに、高市政権は「17業種で15年間、370兆円の官民投資を実現する。国内の製造拠点を回復させる」計画を発表しています。「官民挙げて」は威勢のいいようにみえても、失敗のほうが多い。日本国内に期待が持てないから、海外に生産拠点を設けるというのが企業側の考えです。だから150社も対インド投資に関心を持っている。企業の考えのほうが正解です。
国内投資より海外投資を優先する企業
日米相互関税交渉の流れで、日本はトランプ政権下で80兆円の対米投資を約束しました。無茶な約束のようでもあり、日本国内投資より対米投資のほうが儲かると考えている企業もあるのでしょう。
日中間の政治、外交的対立をよそに、日本企業は中国との関係を断ち切るつもりはありません。日中関係の安定は筋の通った考え方です。高市氏は違います。対中敵視こそ国益だと錯覚している。
円安が1ドル=163円に迫ったところで、米国の金利引き上げ観測の後退からか、160円台まで円高に戻しました。また円安に戻るでしょう。市場は「高市政権は財政規律に関心がなく、日銀の利上げを嫌っている」として、160円台〜170円台の円安が長期化するとみています。
40年ぶりの円安で、40年前には世界第2位だったGDPが3位、4位へと後退し、近くインドにも抜かれ5位への転落が避けられません。高市氏には目先の税収が円安で史上最高に達していることしか関心がない。長期的、戦略的に筋の通った政策は眼中にないようです。
編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2026年7月3日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。







コメント
いろいろと頓珍漢な論理が目につくのですけど、ここでは最後のフレーズについてみることといたしましょう。
> 40年ぶりの円安で、40年前には世界第2位だったGDPが3位、4位へと後退し、近くインドにも抜かれ5位への転落が避けられません。高市氏には目先の税収が円安で史上最高に達していることしか関心がない。長期的、戦略的に筋の通った政策は眼中にないようです。
まず、GDPですけど、インドや中国は、日本の10倍以上の人口を抱えております。だから、GDPが日本の10倍であっても一人当たりの稼ぎは日本に及ばないのですね。例えば、以下のURLを参照すればご理解いただけると思います。https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=NGDPDPC&s=1980&e=2026&c1=IN&c2=JP&c3=CN&c4=&c5=&c6=
実際のところ、日本人の一人あたりGDPは、中国の二倍以上、インドの10倍以上もあるのですね。抜かれたという議論はあまり意味がありませんし、インドの一人あたりGDPが少ないということはインド国内における人件費が低いということ。労働力多消費型の産業立地には、インドは圧倒的に有利ということでもあります。日本企業がこれを利用しない手はないのではないでしょうか。
もちろん、日本企業がみんな海外に出てしまったら、日本人は働く場を失ってしまいます。では、日本国内では、どのような仕事をすればよいのでしょうか。結局のところ、他国では困難で、日本人ならやってのけるような仕事、そしてそれ相応に高い収入が得られる仕事を日本国内では狙わなくてはいけません。
では具体的には何かといえば、技術的に高度な産業で、今後の伸びが期待されている分野、たとえばTBSによりますと、以下のような分野を狙うべきだということでしょう。
> 分野ごとに見ると、▼「AI・半導体」について、ロボットが自律的に動く技術、「フィジカルAI」に2040年度までに10.5兆円。「半導体」に68兆円を投資するとしています。
> ▼また、“次世代のエネルギー”として期待される「核融合発電」では2030年代の発電実証を達成するとして、3.1兆円の投資を想定。このほか、▼「人工衛星」に6.4兆円、▼「海底ケーブル」に2.4兆円、▼「植物工場」に4.6兆円投資するなどとしています。
中村氏は政府のこの試みを否定されているのですが、その理由がおかしい。一つには、インドに投資する一方で日本にも投資するのがおかしいというのですが、その中身が違うのですね。インドへは労働集約型の産業で、日本へは知識集約型の産業というわけです。まあ、これをはっきり言ってしまうとインドの方には失礼になるかもしれないのですが。また、「『官民挙げて』は威勢がいいだけ」とおっしゃりたいのでしょうが、成功したプロジェクトだってないわけではありません(どころか、たくさんあります)し、そもそも始めなければ何物も生まれないのですね。
その他、税収が史上最高に達していることは、財政規律が求められている昨今、大いに喜ぶべきことで、それが円安によるといわれるなら、円安様様と言わなくてはいけない。高市憎しとおっしゃりたいことは理解できますが、あらゆることにケチをつけていては、全体の説得力を失ってしまいます。どうでもよいことかもしれませんけど。
記事の指摘は価値があり鋭く本質をついている。
筆者が谷内正太郎氏の言葉を引きながら「日本は米国と中国の間で、いかに安定的かつ戦略的な関係を構築するか」という外交の本質を問うている点には、大いにうなずけます。
## 1. イラン戦争の評価:そもそも「実質的な戦争状態」は続いていた
まず、トランプ大統領を「有害無益なイラン戦争を始めた張本人」と断じる点ですが、これは中東情勢の全体像を見誤っています。
トランプ+イスラエル陣営とイラン+その支援するプロキシ(代理勢力)軍団との間では、ここ数年、ミサイル攻撃や海上での妨害行為、代理勢力を通じた衝突など、実質的に「ずっと戦争状態」と言ってよいほどの応酬が続いてきました。
2026年2月に始まったとされる「イラン戦争」は、ある日突然トランプ氏が火を点けたのではなく、長年くすぶってきた対立が表面化したものと見るべきです。
この構造が見えていないと、「トランプが世界を混乱させた」という単純な悪玉論に陥ってしまいます。
視野が狭いです。
## 2. 対中外交:「2006年の成功体験」をそのまま当てはめる危うさ
筆者は、安倍元首相が2006年に電撃訪中して関係改善を図ったことを引き合いに、高市首相を「師から何も学んでいない」と批判します。
しかし、安倍氏の対中姿勢と高市氏の姿勢を「真逆」と断じるのは、時代背景の違いを軽視した議論です。
2006年当時、中国の国防費は現在の数分の一であり、「経済的相互依存を深めれば中国も国際協調路線に組み込める」という関与政策への期待が国際社会に生きていました。
ところが2026年現在、台湾周辺での軍事的圧力、レアアースなどの輸出規制、南シナ海・東シナ海での現状変更の試みは常態化しています。
当時の安倍氏が関係改善を優先したのは、それが「当時の国益」に適っていたからです。
同じ人物であっても、状況が変われば取るべき戦略は変わります。
安倍氏から継承すべきは「訪中という行動」そのものではなく、「その時々の国益を冷徹に見極める姿勢」のはずです。
視野が狭いです。
もっとも、記事のように「高市首相は対中敵視だけで動いている」と決めつけるのも、それはそれで雑だと感じます。
日本側だけが友好ムードを演出すれば関係が安定する、という時代ではありません。
必要なのは「対中融和か対中強硬か」の二択ではなく、抑止と対話を同時に進めることです。
高市外交にその複眼的視点があるかどうかこそ、本来問われるべき論点でしょう。
## 3. 国内投資論:「企業が海外に行くから国内は無駄」は極端すぎる
「企業は日本国内に期待していない、だから370兆円の国内投資計画は失敗する」という論理は、2010年代までの古いグローバル資本主義の視点にとどまっています。
そもそも海外投資と国内投資は対立しません。
企業は市場を取りに行くために海外へ出る一方、国内では研究開発、高付加価値製造、半導体、AI、エネルギー、防衛産業などに投資する余地があります。
近年、世界はパンデミックや地政学的分断を経て、「効率性の追求」から「強靭性の確保(サプライチェーンの安定)」へとシフトしました。
半導体や重要鉱物を特定の一国に依存し続けることは、有事に国家の息の根を止められかねないリスクです。
視野が狭いです。
政府主導で国内製造拠点を復活させる(リショアリング支援)ことは、単なる産業振興ではなく「経済安全保障」そのものであり、デフレマインドを払拭する呼び水としても意義があります。
「企業の考えのほうが正解」と断言する筆者こそ、皮肉にも自らが求める「長期的・戦略的視点」を経済面で欠いているように映ります。
## 4. GDP転落論:円安と高市政権に責任を押し付けるのは乱暴
最後に、日本のGDP順位低下をすべて円安や高市政権のせいにするのは乱暴です。
順位低下の背景には、人口減少、生産性の伸び悩み、デジタル化の遅れ、規制改革の停滞、高いエネルギーコスト、企業の新陳代謝不足といった、何十年もかけて積み重なってきた構造問題があります。
外交姿勢や為替だけを槍玉に挙げても、問題の核心には届きません。