「腕はいいが、感じが悪い」——その医者を、あなたは選ばない

RyanKing999/iStock

スマホがあるなら、今すぐやってほしいことがある。

近所の大学病院を検索して、口コミを開く。それだけでいい。並んでいるのは、だいたいこういう声だ。

「腕は良かったが、対応が最悪だった」
「看護師の態度が冷たかった。もう二度と行きたくない」
「先生は親切なのに、事務が高圧的で毎回不快になる」

おかしいと思わないか。病院は本来、医者の腕で選ぶ場所だ。命を預けるんだから、当たり前だろう。医療の質。それがすべてのはずだ。

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なのに、みんな受付の態度で決めている。事務員の一言で「二度と行かない」と決めている。まあ、かく言う私もそうなのだが。

要するに、人は中身より第一印象で判断する生き物なのだ。これは商談でもまったく同じ。心理学では初頭効果という。最初に受け取った印象が、その後の評価を全部支配する。冒頭の3分で「この人は信頼できる」と思わせられれば、あとは勝手に進む。逆に最初でコケたら、どんな名提案も届かない。

冒頭の3分が、商談の9割を決める。

言い過ぎだと思うか? 言い過ぎじゃない。

「最初は嫌われたけど、最後に受注できた」の落とし穴

こう言うと、必ず反論が来る。「いや、最初は印象悪かったけど成約できましたよ」と。ドラマでもよくある。序盤で嫌われた営業が、ラストで鮮やかに契約をさらう、あれだ。

たしかに面接研究の類では、後半の振る舞いで評価が上書きされる、というデータもある。あるにはある。

でも、営業成績を安定して上げたいなら、あのやり方は勧めない。冒頭で悪印象を与えて、それでも最後にひっくり返せたとしたら、それは結果論だ。ただのラッキーパンチ。運を前提に戦術を組む? 悪手だ。どう考えても。

世界一の売上を獲得した一つの割り切り

これは筆者(尾藤)自身の話でもある。

20代の頃、私は世界的に有名なコンサルファームにいた。相手は人事部や経営企画部。人間行動学ベースのコンサルが得意だった。

正直に言う。私は背が高くて、圧が強い。万人受けするタイプでは、まったくない。それでも新規開拓は誰にも負けなかった。全世界のコンサルタントで売上1位を取ったこともある。——まあ、アジアパシフィック(要は日本)が売上の7割を占める会社だったから、「日本1位=世界1位」なのだが。それでも当時の私には自信になった。

そのとき腹に据えていたのが、これだ。最初の印象は、変えられない。そして、最初で嫌われたまま最後に受注、なんてことは起きない。

私はたぶん、どこかアンビバレントな——相反する空気を漂わせていたと思う。扱うのは数百万、数千万のプロジェクトだ。高学歴でロジカルなコンサルを好む客もいる。だが、私みたいな常軌を逸した雰囲気で畳みかける人間を好む客も、確かにいた。全員に好かれる必要なんてない。刺さる相手に、最初の一瞬で刺さればいい。そう割り切ったとき、数字が跳ねた。

人は、最初の印象を守るために事実を歪める

なぜ最初の印象はこんなに覆せないのか。面白い理屈がある。

人は「最初の印象」と「後の印象」が食い違うと、それを矛盾として受け取り、ストレスを感じる。自分の判断を一貫させたい、という欲求があるからだ。だから人は、後から入った情報のほうを都合よく捻じ曲げて、辻褄を合わせにいく。アメリカの心理学者が言い出した認知的不協和理論。これだ。

たとえば冒頭3分で「この営業、押しが強いな」と思われたとする。すると、その後どれだけ丁寧に説明しても、「取り繕ってるな」「強引だな」と受け取られる。逆に「頼りないな」と思われたら、いくら説得力ある話をしても「自信がないから口数が多いんだろ」と裏読みされる。理不尽だが、そういうものだ。

一方で——人は「好きな相手」には、笑えるほど甘い。たどたどしいプレゼンでも、いけ好かない奴がやれば不快なだけ。だが好意を持っている営業がやれば、「一生懸命だな」「ちょっと抜けてるのもいい」と、脳が勝手に美化してくれる。

だとしたら。この仕組みを使わない手が、どこにある。

※ここでは、本編のエピソードと、一部に筆者の経験をラノベ調コラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

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