パリの夏を味わう。プラザアテネのおもてなし哲学

出口里佐です。

プラザアテネ近く、アルマ橋からのエッフェル塔

パリの夏を象徴するレストランの一つが、ホテル・プラザアテネの中庭に夏季限定でオープンする「La Cour Jardin」です。

ここを訪れるのは今回が4回目になります。最初の2回は約10年前、料理プロデューサー・孤野扶実子さんが手掛ける期間限定メニューを味わいました。その料理があまりにも印象深く、「もう一度あの味くらい美味しい料理に出会えたら」という期待を胸に、久しぶりに席に着きました。

ホテル・プラザ・アテネの中庭にある、「La Cour Jardin」

建物を覆う深いアイビーの緑、鮮やかな赤いオーニング、白いテーブルクロス。街の喧騒を忘れさせる中庭には、パリの夏らしい穏やかな時間が流れています。

蛸とルバーブの前菜。
柔らかな蛸、酸味のあるルバーブが爽やか、ソースに潜むアーモンドがアクセント。

メインのラムショルダー。
ラムはほろりと崩れるくらい柔らかく火入れ、クリスピーでスパイシーなトマトの薄い生地とヨーグルトソース。

前菜はルバーブを合わせたタコ、メインはラムショルダーをいただきました。盛り付けは美しかったものの、正直に申し上げると、味わいは期待していたほどではありませんでした。10年前の記憶があまりにも鮮明だったからかもしれません。

しかし、その印象を一変させたのが、食後のコーヒーとデザートでした。

カフェ・アロンジェ(アメリカンコーヒー)を注文すると、エスプレッソと熱湯が別々に運ばれてきました。自分で少しずつお湯を注ぎ、好みの濃さに仕上げるスタイルは初めての体験です。

カフェ・アロンジェ(アメリカンコーヒー)。銀色の小さなポットは、お湯。自分の好みの濃さにしてくださいというサービス。
奥のクッキーはコーヒーに合うものなので、少しディップしてみてくださいということでした。

添えられた焼きたての小さなクッキーについて、スタッフが「コーヒーにディップして召し上がってください」と勧めてくださいました。試してみましたが、驚くほど焼きたてで、まだ少し柔らかく、そのまま味わいたいと感じられるほど、バターの香りが豊かでした。

塩キャラメルのアイスクリームサンデー。
ディスクの上に塩キャラメルソースをサービススタッフが目の前でかけてくれて、完成。

そして、この日の主役は塩キャラメルアイスサンデーです。

ガラスの器の上には、金箔をあしらった繊細なディスクがのせられています。スタッフが目の前で温かな塩キャラメルソースを注ぐと、ディスクがゆっくりとしなり始めます。完成したデザートを運ぶのではなく、目の前で完成させる演出に、思わず見入ってしまいました。

さらに食べ進めると、ディスクの裏側がダークチョコレートでコーティングされていることに気づきます。

香ばしい生地、ほろ苦いチョコレート、とろりと流れる塩キャラメルソース、冷たいアイスクリーム、サクサクとしたクランブル。メニューには「Various textures(さまざまな食感)」とだけ記されていましたが、その一言が見事に表現されたデザートでした。

今回は、料理だけではなく、周囲を見渡す余裕もありました。

ラグジュアリーブランドのショッピングバッグをさりげなく置くゲストや、上質な装いの家族連れ。普段の私とは少し違う世界です。

それでも、不思議と気後れすることはありませんでした。

スタッフの皆さんは、誰に対しても変わらぬ笑顔で接し、一人ひとりが自然体で過ごせる空間をつくっていました。

その姿を見て、以前、母とコンラッド東京に宿泊した際の言葉を思い出しました。

「高級ホテルほど、着ているものや持ち物でお客さんの扱いを変えないのね。だからリラックスできる。」

当時は何気なく聞いていましたが、今回のプラザアテネで、その意味を改めて実感しました。

レストランを後にするとき、スタッフが笑顔で声を掛けてくださいました。

“Enjoy Paris!”

「またお越しください」ではなく、「パリを楽しんでください」。

その一言が、とても心に残りました。

前菜とメインは期待していたほどではありませんでしたが、このランチは忘れられない思い出になりました。

塩キャラメルサンデーの美味しさはもちろんですが、それ以上に印象に残ったのは、人を自然体で迎え入れ、気持ちよく送り出してくださるおもてなしでした。

13時前には静かな感じでしたが、帰る頃14時過ぎには混み始めてきました。

本当の一流とは、豪華さを見せることではなく、訪れた人に「ここにいていい」と思わせる時間をつくることなのかもしれません。

La Cour Jardin

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