私は9年前、住宅宿泊事業法(民泊新法)が制定された当時から、アゴラなどのメディアを通じて、民泊のあり方や都市政策について積極的に提言を続け、私が議員を務める中野区の民泊条例の基本コンセプトを作り上げました。それだけに、このテーマにはひときわ強い思い入れがあります。


インバウンドの急回復に伴い、地域経済活性化の切り札として期待される「民泊」。しかし同時に、地域住民の静穏な生活環境を脅かすトラブルも懸念されます。
私が議員を務める中野区において、「守りの住環境維持」と「攻めの地域活性化」をいかに両立すべきか、データ分析に基づく個別具体的なアプローチと、有事の防災リソース化について提言します。

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1. 一律制限は拙速:課題の「3つの分類」と実績データのファクトチェック
民泊をめぐる課題を議論する際、すべての事象を同列に扱い、一律に制限を課すことは極めて拙速と言わざるを得ません。民泊にまつわる懸念は、大きく以下の3つに明確に切り分けて整理する必要があります。
- 無許可民泊(ヤミ民泊):営業に必要な届出や許認可を得ずに行われる違法行為。都内の「民泊禁止マンション」などで行われているとの報道が散見され、違法事業者が合法事業者になりすます悪質なケースも含まれます。
- 合法事業者による違法行為・不適格運営:適切な届出を行っていながら、年間180日の営業制限を超過したり、特区民泊で義務付けられている「最低2泊3日」の条件を無視して運営したりする行為。
- ゲストによる迷惑行為・管理の不行き届き:騒音やゴミ出しルールの不徹底など、宿泊客の行動に起因するトラブル。これは事業者による近隣への事前周知や、適切な管理・即応体制の欠如が主な原因です。
そもそも、管理者が常駐する「家主同居型」の民泊においては、近隣からの苦情やトラブルは極めて少ないのが実態です。また、中野区における直近のデータを見ても、苦情の発生件数は全体の一部にとどまっています。
令和7年度(通年)の中野区内の届出施設は431件で、苦情が発生した施設は35件と、わずか約8.1%です。

2. エリア別の課題分析:ボトルネックに応じた個別具体的な指導を
区が実施したアンケートの結果や苦情内容を分析すると、民泊が立地している「エリア」によって、発生する課題のボトルネックが全く異なることが明らかになりました。
制限区域内(用途地域などによる自主規制エリア)においては、苦情・不安の要因として「平日宿泊(29%)」「騒音(18%)」「住民の不安や不満(18%)」が上位を占めています。
一方、制限区域外においては、「ゴミの問題(38%)」が圧倒的な1位として突出しています。

このように、地域の実情やエリアの違い、事業形態によって、直面するボトルネックは180度異なります。全体を一律の条例や規則で厳しく縛るのではなく、こうした「エリアごとの傾向の違い」を区として科学的に分析し、問題のある特定施設に対して、ピンポイントな「個別具体的な指導・是正」を行うべきです。
3. 攻めの防災活用:1,800床の潜在リソースを災害時の一大拠点に
民泊を単なる「宿泊業」として捉えるのではなく、中野区における深刻な地域課題の解決策へと転換する、まさに「民泊のメリットを最大化する」戦略が必要です。その第一歩が、災害時における貴重な一時避難場所や、復旧要員の宿泊リソースとしての活用です。
現在、中野区職員の区内居住率は約2割にとどまっています。大規模災害が発生した際、区外から発災直後に駆けつけるのは容易ではありません。また、連日連夜にわたり現場対応にあたる職員や、全国からの応援ボランティア、福祉的配慮が必要な要配慮者の滞在場所の確保は死活問題となります。
現在、中野区には458件(令和8年5月末時点)の民泊施設が存在します。1件当たりの平均収容数を4床と仮定すれば、区全体で約1,800床分ものポテンシャルがある計算になります。この莫大なストックを活用しない手はありません。
家主不在型の民泊も含めた網羅的な活用を可能にするため、事前に事業者への協力アンケートを行い、災害時に提供可能な設備・ベッド数をデータベース化すべきです。そして、墨田区の先進事例のように、事業者団体やプラットフォーマーとの間で「災害時における宿泊施設提供に関する協定」を結ぶステップへ進むべきです。
こうした社会的貢献が可視化されること自体が、民泊に対する区民の信頼と理解を劇的に向上させることにつながります。
4. 営業外「残り185日」の空間開放と条例における弾力的特例
住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づき、民泊の年間営業日数は180日以内と定められています。では、営業活動が許されない残りの「185日間」、この空間はどのように使われているでしょうか。ただ閉鎖しておくのは資産の無駄であり、非常にもったいない話です。
先進地域では、この非営業日を利用して、施設を「地域のコミュニティスペース」「子どもの一時的な居場所(学習支援や放課後の居場所)」「多世代の文化交流サロン」として地域に開放する試みが行われています。
このように開かれた民泊であれば、近隣住民にとっても、「中で誰が何をしているか分からない不安な場所」から、「顔の見える親しみやすい地域資源」へと昇華します。中野区においても、協定などの枠組みの中に、こうした平時における「地域開放」を促す仕組みや、協力事業者への何らかのインセンティブ設計を盛り込むことを提案します。
最後に、これらの一大構想を机上の空論に終わらせないために重要なのが、区が今後予定している「民泊条例の改正」における柔軟なルールづくりです。
能登半島地震の際にも、被災者の二次避難先として宿泊施設や民泊がフル活用され、国からも、一時的に宿泊日数の算定方法を柔軟にする、すなわち営業制限日数から除外するなどの通知が出されました。
中野区独自の改正条例においても、有事の際に被災者や復旧要員を無償・有償で受け入れた実績については、「180日ルール」の営業日数のカウントから除外するなど、災害対応に協力した事業者が不利益を被らないための弾力的な特例条項(柔軟な運用規定)を明文化すべきです。
一律の規制から、「良質な民泊を育て、地域の力に変える」賢いガバナンスへの転換こそが、令和の時代における中野区の進むべき道です。







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