Anthropic著作権訴訟が15億ドルで和解:スキャンは合法だが海賊版は違法

米AI企業Anthropicが、Claudeの開発に書籍の海賊版を利用したとして作家らから訴えられていた集団訴訟で、総額15億ドル、日本円で約2400億円規模の和解が正式に承認された。

米カリフォルニア州北部地区連邦地裁は7月20日、和解内容を「公正、合理的かつ十分」と認定した。著作権をめぐる集団訴訟としては史上最大である。

48万作品に1作品約3000ドル

和解の対象となるのは、Anthropicが海賊版電子図書館Library Genesis(LibGen)とPirate Library Mirror(PiLiMi)から取得した書籍のうち、米著作権局への登録など一定の条件を満たした48万2460作品である。

裁判所の命令によると、2026年4月16日時点で44万490作品について請求があり、請求率は91.3%に達した。分配額は1作品当たり約3000ドルだが、弁護士費用や管理費などが差し引かれるため、権利者が実際に受け取る金額はこれより少なくなる。

原告側弁護士に認められた報酬は約1億156万ドルで、和解基金の約6.8%である。裁判所は、当初請求されていた1億8750万ドルから大幅に減額した。

さらにAnthropicは、LibGenやPiLiMiからダウンロードした原本ファイルと、そこから作成された複製を、訴訟資料の保存義務などを除いて破棄しなければならない。ただし、Claudeのモデル自体を削除したり、購入した書籍のスキャン利用を全面的に停止したりする内容ではない。

秘密計画”Project Panama”

今回、改めて注目されているのが、Anthropicの内部計画、Project Panamaである。裁判資料や米紙の報道によると、Anthropicは数百万冊の中古書籍を大量購入し、背表紙を切断してページをスキャンし、検索可能な社内デジタル図書館を構築していた。

内部文書には「世界中のすべての本を破壊的にスキャンする取り組み」と記され、計画の存在を公にしたくないとの趣旨の記述もあったと報じられている。SNSでは、巨大な書籍倉庫の映像とともに「Anthropicは200万冊以上をAIの訓練に使い、知的財産権の追及を避けるために本を破壊した」とする投稿も拡散した。

和解対象は「裁断した本」ではなく海賊版

しかし、この説明は裁判の内容を正確に表していない。重要なのは、今回の15億ドル和解が、Project Panamaで購入された紙の書籍を裁断・スキャンしたこと自体への賠償ではないという点である。

2025年6月の判決でウィリアム・アルサップ判事は、Anthropicが正規に購入した紙の書籍を1冊ずつ裁断し、紙の原本と置き換える形でデジタル化した行為について、フェアユースに当たると判断した。

紙の本は破棄されたが、代わりに作られたデジタルコピーは社内で保管され、外部に販売・配布された証拠はなかった。裁判所は、コピーの総数を増やさず、保存スペースの削減と検索性の向上を目的とした「形式の変更」だったと評価している。

したがって、「知的財産権の追及を逃れるために本を破壊した」というSNS上の説明を裏付ける認定はない。本の破壊は、背表紙を切り落として高速スキャンする「破壊スキャン」の工程であり、むしろ紙とデジタルの二重保有を避けたことが、裁判所のフェアユース判断を支えた。

これに対し、Anthropicは正規購入とは別に、LibGenから少なくとも500万冊、PiLiMiから少なくとも200万冊、合計700万冊を超える海賊版書籍をダウンロードし、訓練に使わないと決めた書籍まで社内図書館に保存していた。

裁判所は、AI学習が変容的な利用であるとしても、その準備のために購入可能な書籍を海賊版サイトから取得してよいことにはならないと指摘した。購入書籍のスキャンと海賊版の収集は、法的にまったく異なる行為だったのだ。

「AI学習は合法、海賊版調達は違法」の境界線

この訴訟が残した最大の意味は、著作物をAIの学習に利用することと、学習データをどのような方法で入手するかを切り分けた点にある。

裁判所は、書籍をClaudeの学習に使う行為については「極めて変容的」としてフェアユースを認めた。一方、将来AIの学習に使う可能性があるという理由だけで海賊版を収集し、恒久的な社内図書館として保存することは正当化できないと判断した。

なお、15億ドルの支払いは和解であり、Anthropicの侵害責任について判決が確定したことを意味するものではない。和解がなければ、海賊版書籍の取得と保管について、故意の侵害を含む損害賠償が審理される予定だった。巨額の法定損害賠償が認められるリスクを回避するため、Anthropicが和解を選んだとみられる。

Project Panamaの光景には、知識を工業製品のように大量処理するAI企業の異様さがあるが、今回の和解を単純に「本を裁断した罰」と理解すると、事件の核心を見失う。

裁判所が突きつけた原則は明快である。AI学習がフェアユースになり得るとしても、それは海賊版を入手する免罪符にはならない。15億ドルという代償は、AI企業に対して「何を学習したか」だけでなく、「どこから、どのように入手したか」を問う新たな基準となりそうだ。

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