
(前回:10校受けて、10校落ちた。偏差値で高校は決めなくていい)
15歳の筆者(尾藤)に、夢はなかった。
高校受験の面接で「将来の夢は?」と聞かれて、何を答えたかは覚えていない。たぶん、その場で作った。作った答えは、まあ、伝わらない。10校受けて全部落ちた理由は内申書だが、あの面接が加点されたとも思えない。
だから、この質問には恨みがある。先に言っておく。
その疑問に、まっすぐ答えている本があった。
中学生の相談で多いのが、これらしい。「特に大きな夢がないのですが、どう答えたらいいですか」「将来やりたいことが、まだ決まっていません」
本書に、その答えが書いてあった。立派な夢がないといけないわけではない。
そうだよな、と思った。というか、15歳で人生の方向が確定しているほうが珍しい。決まっていない人のほうが多い年齢だ。それなのに面接では、さも決まっているのが前提のように聞かれる。あの構造、誰が始めたのか。
大切なのは、立派な答えを用意することではない。「今の自分なりにどう考えているか」を言葉にすること。これに尽きる。
志望動機も同じだ。その学校に入りたいと思った理由。ただし「家が近いから」「なんとなく」では、先生も判断のしようがないだろう。そこは仕方ない。
だから調べる。パンフレットを見る。ホームページを見る。オープンスクールに行く。そこで気づいたことが、そのまま志望動機になる。
「説明会で先輩たちが楽しそうに学校生活の話をしていて、自分もここでがんばりたいと思いました」
これでいい。十分だ。むしろ、この程度の等身大の言葉のほうが、作り込んだ夢より伝わる。将来の夢を聞かれたって「まだはっきり決まっていませんが、高校で学びながら見つけたいです」でいい。高校は夢を完成させる場所じゃない。見つけていく場所だ。
ただし、準備しなくていいという話ではない。ここは別だ。
ぶっつけ本番でいくと、言葉が足りない。内容も浅くなる。こう聞かれたらこう答えよう、と事前に整理しておくだけで当日の落ち着きがまるで違う。
著者は、20年以上、中学生の模擬面接を見てきた人だ。よくある失敗として、こんな例が挙げられていた。
「高校で何をがんばりたいですか」
「部活をがんばりたいです」
以上。終わり。
いや、間違いではない。ないのだが、面接ではほぼ確実に「なぜですか」と重ねて聞かれる。そこで「好きだからです」だけだと、どうにも物足りない。
「好き」は立派な理由だ。そこは譲らない。ただ、もう一歩だけ考える。どんなところが好きなのか。続けてきて何を感じたのか。高校ではどう成長したいのか。
「チームで一つの目標に向かってがんばることが好きだからです」
「うまくいかないときも練習を続けて、できるようになった経験があるので、高校でも続けたいです」
言葉を足しただけ。中身は同じ。それでも伝わり方は変わる。
そして、ここからが本当の話なのだが。
面接で語れる中身は、それまでに何を見て、何を感じてきたかで決まる。同じものを見ても感じ方は人それぞれだが、何も見なければ、何も感じようがない。
中学に入る前に見ていた景色と、いま見る景色は、たぶん少し違って見えるはずだ。以前は気にならなかったことが気になる。「きれいだな」と眺めていただけの向こう側に、人の暮らしが見えてくる。
面接対策とは、要するに、それまでの日々を振り返る作業だ。付け焼き刃で夢をでっち上げる作業ではない。
もう一つだけ。当時、本書が家にあったら、私はもちろん、途方に暮れていた両親も、ずいぶん救われただろうと思う。知っているだけで背負わずに済む不安は、思っているよりずっと多い。
夢がないなら、ないと言え。それも、立派な答えだ。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
■
『中学からの勉強は、こう変わる。はじめての自学自習のキホン』(野英利香 著)すばる舎
■ 採点結果
【基礎点】 42点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】 20点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】 20点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア 【82点/100点】
■ 評価ランク ★★★☆ 水準以上の良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
テーマの普遍性と切実性:「偏差値や点数だけで志望校を決めなくていい」という主張は、毎年新しい中学生と保護者が同じ地点で立ち止まる問題を扱っている。時流に左右されず、読者が入れ替わっても価値が減らないテーマ設定である。
読者に対する姿勢の一貫性:「立派な夢がないといけないわけではない」「今の自分に正直に答えるほうが自然」など、追い詰められがちな受験生を一貫して肯定する立場が崩れない。多くの受験生と親にとって励みになる書き方であり、この点は明確に評価できる。
20年の指導経験に基づく事例:模擬面接で「部活をがんばりたいです」で終わってしまう生徒の描写など、現場を見てきた者でなければ書けない具体性がある。抽象論に流れずに済んでいる要因はここにある。
【課題・改善点】
実態への踏み込み不足:本書の最大の物足りなさはここにある。内申書の運用実態、面接での不合理な扱い、学校側の事情といった、受験生と保護者が本当に困る領域には触れていない。制度の説明はあるが、制度が現場でどう作用しているかの照射が弱い。
想定読者の分散:中学生本人に語りかける文体でありながら、進路選択の長期的影響など保護者向けの内容が混在する。どちらに軸足を置くかを明確にすれば、訴求力はさらに高まったはずである。
事例の踏み込みの浅さ:「偏差値を20近く上げた生徒」の存在は語られるが、何をどう変えてそうなったのかは書かれていない。読者が再現できる水準まで開示すれば、説得性は一段上がった。
■ 総評
受験を控えた中学生と保護者にとって、確かな励みとなる一冊である。偏差値という一つの数字に人生を採点させないという姿勢が全編を貫き、単願と併願、安全校と挑戦校といった実務情報も過不足なく整理されている。20年の指導経験に裏打ちされた事例が抽象論への流出を防いでおり、実用書としての完成度は水準以上と評価できる。
ただし欲を言えば、内申書の運用実態や面接現場の不合理といった、読者が本当に困る領域へもう一歩踏み込んでよかった。制度の説明にとどまらず、その制度が現場でどう作用しているかを照射していれば、本書は単なる励ましを超えた武器になり得た。惜しさの残る良書である。








コメント