
「猛暑だから脱炭素」はどこへ行った
東京では連日の猛暑がようやく一服し、いくぶん涼しくなっている。一方、関西や九州では、なお厳しい暑さが続いているようだ。
ところでひとつ、意外なことが起きている。
今年もテレビや新聞は、連日のように猛暑を報じている。だがそこから直ちに、
猛暑だから脱炭素を急げ
猛暑は気候危機の証拠だ
再生可能エネルギーを増やさなければならない
と結び付けるような報道が、まったく見当たらない※1)。
朝日新聞、毎日新聞、NHK、共同通信などの最近の報道を調べたが、国内の猛暑を日本の脱炭素政策の強化へと短絡させる記事はほとんどなかった※2)。
どうやら、「猛暑だから脱炭素」という、一昔前のお決まりの論法は、大手の報道からほぼ姿を消した。
なぜだろうか。
「猛暑だから脱炭素」という気候詐欺のからくりが、さすがにバレてきたからであろう。
日本が脱炭素しても効果は0.006度
数字を確認しよう。国連IPCCは、人類が約2兆トンのCO2を排出し、それによって約1度の気温上昇があった、としている※3)。
この気温上昇がどこまでCO2に起因するのかは議論の余地があるけれども、ここでは、このIPCCの数字をひとまず信じて使うことにしよう。
日本の年間CO2排出量は、おおむね10億トンである。これを2050年まで直線的にゼロにすると仮定する。
現在の排出量をそのまま続けた場合と比べ、2050年までに減る累積排出量は、およそ120億トンとなる。先ほどのIPCCの比例関係を使うと「累積1兆トンで0.5度」だから、次のようになる。
120億トン ÷ 1兆トン × 0.5度 = 0.006度
日本が2050年にCO2排出をゼロにしても、何もしなかった場合と比べた2050年の世界平均気温は、わずか0.006度低くなるにすぎない。
0.006度など、人間が体感できるはずもない。
日本が脱炭素しようがしまいが、来年の猛暑にも、2050年の猛暑にも、何の違いもない。
「猛暑を止めるために日本の脱炭素が必要だ」という話は、数字を完全に無視した政治宣伝であり、まさに気候詐欺である。
東京を暑くした都市化と日射の増加
では、最近の東京が暑くなっているのはなぜか。
その年の猛暑を直接もたらすのは、太平洋高気圧の張り出しや、フェーン現象などの気象条件である。
これに加えて、都市化の影響も大きい※4)。
土や草地、水田だった場所が、アスファルトやコンクリートで覆われると、熱を吸収して暑くなる。また雨がすぐ流れて乾燥するようになり、水の蒸発による冷却も失われる。住宅が建て混んでくれば風が通らなくなって暑くなる。
隣の林が駐車場になった、周囲の水田が住宅地になった——それだけで、局所的な気温は何度も変わる。
もう一つ、ほとんど報道されない重要な変化がある。東京の日射が強くなったことだ。
気象庁の観測では、東京の年間平均日射量は1975年ごろと比べて3割強くなっている。8月だけに絞って見ても、2025年の日射量は1975年より26.4%多かった。

気温は風通しのよい日陰で測る。しかし人間は道路や駅前、運動場などで、強くなった日射を直接浴びる。道路、建物、自動車も日射によって熱せられる。これによって体感温度が上がる。
日射が増えた理由には、自然変動に加え、公害対策によって大気がきれいになったことや、工場・ばい煙が減ったこともある。
だが、日射を減らすために、もう一度ばい煙を出して大気を汚染しようという人はいないだろう。空気がきれいになるのはよいことであり、その結果として日差しが強くなるなら、それには適応するしかない。
猛暑への答えは脱炭素ではなくエアコンである
猛暑への対策として、現実にできることはいくらでもある。
都市化自体を止めることはできないにしても、町づくりの方法を変えることは出来る。街路樹や緑地を増やす。日陰をつくる。水が染み込む舗装や保水性舗装を採用する。風の通り道を確保する。水田や水辺を残す。建物の断熱や遮熱を改善する。
そして何よりも、エアコンを使うことである。
屋外では日傘や帽子を使い、日陰に入る。屋内では無理をせず冷房をかける。高齢者や低所得者も安心してエアコンを使えるよう、電気を安価で安定的に供給する。
猛暑の最中に「エアコンを適切に使ってください」と呼び掛けながら、その一方で、脱炭素政策によって、安定した火力発電を減らし、再エネを導入して電気料金を引き上げるのは矛盾している。
「猛暑だから脱炭素」といわれたら、ぜひ聞き返してほしい。
それで気温は何度下がるのですか。
日本が2050年までにCO2をゼロにしても、答えは0.006度である。
ひょっとすると、この数字がよく知られるようになったことで、猛暑と脱炭素を強引に結び付ける報道が無くなったのかもしれない。
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※1)なお、「今年のこの猛暑は温暖化がなければ起こらなかった」と大げさに言い立てるいわゆるイベント・アトリビューション研究なるものの報道はあった。この研究とは、気候モデルの中で「人為的温暖化がある世界」と「それがない仮想世界」を比較し、猛暑の発生確率が何倍になったかを計算する。その結果を使って、「温暖化がなければ事実上起こり得なかった」などと発表する。
これは小さな平均気温の変化を、確率表現によって巨大な効果に見せるまさに針小棒大なやり方である。その問題点は以前、詳しく書いたので参照されたい。
熱波が30倍も起こり易くなったという気候詐欺のカラクリを教えます
ちなみにこのイベント・アトリビューション研究をすべて受け入れたとしても、日本の脱炭素によって猛暑は0.006℃しか下がらない(本文参照)。
※2)なお毎日新聞は7月12日の社説「欧州の熱波と気候変動 脱炭素の流れ取り戻す時」で、欧州の熱波を取り上げ、脱炭素の国際協調を求めた。だがこれは欧州の熱波を扱った社説で、日本の猛暑報道ではない。
※3)国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書によれば、1850年から2019年までの世界の累積CO2排出量は約2兆4000億トンだった。またIPCCは、CO2を累積で1兆トン排出するごとに、世界平均気温が最良推計で約0.45度上昇するとしている。
※4)都市熱についてのデータの例は下記を参照
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