- 日本の低金利は財政への信認ではなく、国民のゼロ金利の預金を銀行を通じて国債に流す「借りっぱなし」で支えられてきた。
- デフレ期には表面化しなかった負担が、インフレ局面では預金の実質価値低下という「インフレ税」や円安として国民に転嫁されている。
- 今後、国債金利が名目成長率を上回れば債務が不安定化し、日銀による金融抑圧を続ければ、円安・インフレがさらに進むリスクがある。

日本政府は巨大な「政府系ファンド」
日本政府の債務はGDP比で200%を超え、先進国でも突出して大きい。これを「ギリシャより危ない」という政治家がいるが、日本国債の金利は米国や欧州よりはるかに低い。
他方「こんなに金利が低いのだから、日本の財政は心配ない」というのも誤りである。日本の金利が低かったのは、政府債務が安全だったからではなく、国民のマイナス金利の預金を銀行が低金利の国債で運用し、政府が借りっぱなしになっていたからだ。
対外資産を含めた統合政府のバランスシートを見ると、政府には巨額の負債がある一方、外貨準備や年金積立金、政府保有株式など大量の金融資産もある。

統合政府のバランスシート(Chien, Du & Lustig)単位:兆円
つまり日本政府は、安い金利で巨額の資金を調達し、それをさまざまな金融資産で運用している巨大な投資主体でもある。言ってみれば、国全体で巨大なレバレッジをかけた政府系ファンドを運営しているようなもので、純債務は500兆円程度である。
ゼロ金利の預金が国債になる「借りっぱなし」
その安い資金の源泉は、国民の預金である。日本の家計は2200兆円を超える金融資産を持ち、その中でも現金・預金が1100兆円を占める。私たちが銀行に預けたお金は、通常は企業への融資や証券投資で運用する。
ところがバブル崩壊後、企業の資金需要が弱くなった。企業は借金して投資するどころか、借金を返済して内部留保を積み上げた。銀行から見ると、貸したくても十分な貸出先がないので、巨大な運用先となったのが国債だった。流れを単純化すると、
国民の預金→銀行→日本国債→政府
という構造である。政府は海外投資家に高い金利を払わなくても、ゼロ金利の預金を集める金融村から大量の資金を「借りっぱなし」できた。これが日本国債の金利を低く抑えた大きな理由だ。
さらに日銀が国債を買った
そして2013年以降、この仕組みをさらに強力にしたのが日銀の異次元緩和だった。日銀は銀行などから大量の国債を買い上げた。すると、
国民の預金→銀行→国債→日銀
という循環になる。日銀は一時、国債市場の約半分を保有するまでになった。これだけ巨大な買い手が市場に存在すれば、国債価格は上がり、金利は下がる。Robin Brooks氏が指摘しているのもこの点だ。
The Yen keeps falling because Japan's shadow yield – what it'd be without BoJ bond buying – is much higher than actual yields. As long as that's true, the Yen will keep falling. Official FX intervention doesn't change this. It can only slow the Yen fall…https://t.co/RBGWunJVkP pic.twitter.com/sxTSicb0Mr
— Robin Brooks (@robin_j_brooks) August 1, 2026
彼は日銀が国債を買い入れる金融抑圧で金利を抑えているというが、それだけでこれほど大きな差は維持できない。デフレ時代には現金保有の収益率はプラスだったので、そういう貨幣錯覚による貸しっぱなしが今も続いているのだ。
政府が得した分、預金者が損をした
長いゼロ金利政策の間、銀行預金にはほとんど利息がつかなかったので、貸しっぱなしでも損しなかったが、インフレが起これば状況は変わる。
たとえば物価が3%上がっているのに預金金利が1%なら、預金の実質価値は毎年約2%ずつ減る。政府の債務もインフレによって実質的には目減りする。つまり、インフレ+低金利という組み合わせは、預金者の資産価値を減らしながら政府債務を軽くする。これがインフレ税である。
インフレ税は、政府が金融制度や中央銀行を通じて金利を市場水準より低く抑え、国民の貯蓄を実質的に政府債務のファイナンスに利用する仕組みをいう。
増税なら国民にも分かりやすい。特に所得税は国民の激しい抵抗を受ける。だがインフレ税は見えにくい。いま普通預金の金利は0.3%だが、これは実質インフレ率2.5%を引くとマイナス2.2%である。毎年預貯金1000兆円のうち22兆円目減りしているのだあ、気づく人はいない。日本の預金残高は老後の不安で増えている。
なぜ日本では「借りっぱなし」が可能だったのか
この仕組みが長期間続いた背景には、日本特有の条件がある。戦後、日本では財閥が解体され、銀行中心の企業システムができた。社債の発行は禁じられ、政府が預金金利を規制して企業の資本コストを抑え、メインバンクが企業を指導するしくみができた。
これは1980年代の金融自由化で終わったが、その後も企業の資金調達は銀行の圧倒的優位が続いた。その原因はほとんど金利に反応しないで1100兆円の預金を貸しっぱなしにする預金者である。外資に依存する新興国なら、財政不安が高まると投資家が国債を売って通貨が暴落するが、為替リスクを恐れる金融村は国債を買い続けた。
金利に出ないリスクは円に出る
ただしリスクが消えたわけではない。日銀が国債を買って長期金利を抑えれば、本来なら国債金利に表れるはずの財政リスクが表面化しない。では、そのリスクはどこへ行くのか。為替である。
金利が人為的に低く抑えられれば、投資家は円資産を持つ魅力を失う。資金はより高い利回りを求めて海外へ流れ、円が売られる。つまり、
国債金利を抑える→円資産の利回りが低下する→資金が海外へ流れる→円安になる
という経路だ。日本の財政リスクは、国債暴落ではなく円安として現れる。これが最近の円安を考える上で重要な視点である。
国債は暴落しなかったが円が暴落した
これまで何度も「日本は財政危機になる」と言われながら、日本国債は暴落しなかった。そのため「財政赤字を心配する人は何十年も間違えてきた」という批判もある。だが政府債務のコストは、金利という目立つ数字ではなく、低い預金金利、円安、インフレ、そして経済の低迷という形で国民が負担してきたのだ。
しかし現在、30年間続いた仕組みの前提が変わり始めている。デフレは終わり、物価が上昇している。日銀も金融政策の正常化を進め、国債購入を縮小している。長期金利も上昇している。
「国債金利<名目成長率」はいつまで続くか
ここで政府債務の大きさが初めてきいてくる。国債金利が上がれば、借り換えのたびに政府の利払い費は増える。今は新発債が2.9%で既発債との平均利回りは1%程度だが、これを借り替えると、あと3年で3%を超える可能性もある。
ここで重要なのがドーマー条件(r<g)である。国債の名目金利rが名目成長率gより低い限り政府債務は維持できるが、あと3年で逆転するかもしれない。日本の場合、国債の平均残存期間が長いため影響はゆっくり現れるが、逆にいえば10年以上にわたって利払い費が増え続ける。
r>gという状態が長期にわたって続くと、国債の利払い増加率が税収増加率を上回り、元利合計の政府債務が増えると、さらに金利が上がる…という悪循環になって政府債務が発散するおそれがある。
これを政府が金融抑圧で先送りすることはできる。高市首相が植田総裁に言ったように日銀が国債をマネタイズすれば金利を下げることはできるが、それを発表した途端に円は暴落するだろう。このように政府が日銀を財政支配すると、インフレがコントロールできなくなるからだ。
円安の原因は高市首相の「インフレ税」
本質的な問題は、食料品の消費税を減税するかどうかではない。ベッセント財務長官が協調介入という非常手段を使って日本の円安政策を止めろと警告した直後に、減税を強行する高市首相の財政支配と金融抑圧という財政スタンスである。
日本の預金者(その7割は60歳以上)が支えてきた「貸しっぱなし」の資産構成は、金利上昇で変わりつつある。ヘッジファンドが参入してキャリートレードに円を使い始めたので、円安になるとファンドが参入して円売りを進め、さらに円安が加速する。
ベッセントの見方は世界のファンドを代表している:これ以上インフレ・円安を進める拡張的な財政政策を続けると、日本の国債金利はアメリカに近づく。r>gになると政府債務が発散し、円が暴落するおそれがある。11兆円の介入より、高市首相が退陣するのが最大の円安防止策だろう。







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