黒坂岳央です。
SNSでは「AIを使って楽になるはずが、仕事が増えて余計に忙しくなっている。なぜ??」といった反応を見ることがある。こうしたテーマに多くの反響が寄せられている。だが、個人的にはなんら不思議ではないと感じる。
今後もAIの進歩は著しいが、この構図は変化がないと考えている。むしろAIの性能が上がるほど、この傾向は強くなるだろう。持論を述べたい。

AIで仕事の期待値が上がる
AIが仕事を効率化すると聞けば、多くの人は「同じ仕事を短時間で終えられるようになる」と考えるが、確かにこれ自体は正しい。資料作成や議事録、情報収集などは圧倒的にAIを使うほうが早い事が多い。
筆者がサラリーマンをしていた時代、議事録作成は新人の仕事で2時間の会議の議事録にはその半分くらいの時間がかかることもあったので、大変な仕事だった。それが今では新人が作るより遥かに精度が高く、本当に「一瞬」でできてしまう。自分は現在、サラリーマンではないが仕事の打ち合わせでAI議事録は大変役に立っている。
だがここで浮いた時間は「今日は2時間早く帰ってください」とはならない。むしろ現実の職場では、「それなら次の仕事もできるよね」と間を埋められる。
たとえば、これまで1日10件の仕事を処理していた人が、AIによって20件処理できるようになったとする。会社からすれば、20件できるなら20件やってもらいたいと考えるだろう。さらにAIの操作に熟練すれば、「どうせなら30件はできないか」となる。
AIを使えるのが世界で自分1人だけなら、間違いなく楽になる。だが、今やあらゆるトレンドは「AI一色」であり、「生き残るために使わざるをえない」という状況だ。この「労働生産性の引き上げ」は全員が強制参加させられてしまう。むしろ、AIを使わずこれまで通り仕事をしていた人は「仕事が遅い」と悪い評価にすらなりかねない。
優秀な人ほどAIで忙しくなる
そして、この影響を特に強く受けるのが、AIを使いこなせる人である。
仕事のできる人は、仕事を単なる「時間の切り売り」と考えていない。仕事を通じて実績を作り、経験を積み、市場価値を高め、より大きな仕事につなげていく。そうすれば次の転職で年収が上がり、出世もしていく。だから彼らはAIで高めた労働生産性を使い、余った時間で別の仕事をする。
彼らが労働生産性を高めれば、周囲も追従せざるを得なくなる。そうなるとAIが登場したことで「期待される労働生産性」の基準がグッと引き上がる。
冷静に考えればこれは当たり前のことだ。今どき、「これ調べておいて」と頼んで何日も待たされる人、「議事録出して」で何時間もかかる人に需要はない。AIの方が速くて低コストだからだ。
早く終わっても早く帰れない
SNSを見ていると、「AIで仕事が半分の時間で終わるなら、半日働いて帰ればいい」という意見を出す人がいる。これ自体は正論に思えるが、実際はそうではない。なぜなら彼らは時間を売るサラリーマンだからである。
会社員という立場は、仕事を一件終わらせるごとに報酬を受け取る出来高制ではない。労働時間と報酬が強く結びついた雇用契約の中で働いている。だから、AIによって同じ仕事を半分の時間で終えられるようになっても、「やることがないので帰って下さい」とはならない。仮にそれが許されても早退扱いになるだけだ。
これは経営者が強欲で社員を道具のように考えているから、と解釈するのは浅い。No Work, No Payの原則で考えるとむしろ契約通り当然のことで、その代わり会社はその人が研修期間で一切、会社に貢献していなくても売上がゼロでも満額給与を出している。
「困った時は給与を満額出し、早く終われば早く帰す」なんてことをしたらどこの会社も生き残れない。そんな労働形態は存在せず、企業が利益を追求する組織である以上、当然の経済合理性である。
この原則を考えると、AIによる生産性向上は、そのまま労働時間の短縮にはつながらない。
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AIによって人間の能力が拡張されるほど、人間に求められる能力もまた拡張される。AIは仕事を楽にするのではない。仕事をする人間の「普通」を引き上げるのである。そして、その変化から最も逃れにくいのは、皮肉にもAIを最も上手に使える人たちなのだ。
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「Z世代を甘やかすな」(著:黒坂岳央)







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