旧暦のカレンダーによると、6月は「水無月」(みなづき)と呼ばれる。梅雨が明け、田んぼに水を入れる時期であることから「水の月」という意味で「水無月」と呼ばれるようになったという。古語の「無」は、「の」を意味する表音文字だった。ところで、欧州では6月以来、猛暑日が続く一方、雨が降らない。暦では8月半ばだが、雨が降らない日々が続く。干ばつで最も苦しむのは農家の人々だ。トウモロコシ畑で一人の農家の人が溜息をつきながら天を仰いでいる姿がテレビで放映されていた。水がない月という意味の「水無月」が欧州では続いているのだ。

干ばつに悩まされるオーストリア、オーストリア農林省公式サイトから
長期にわたる乾燥した天候は、アルプスの小国オーストリアの農業にも大きな試練をもたらしている。気象条件が大幅かつ持続的に改善しない限り、2026年は観測史上最も乾燥した年になる恐れがあるという。初期の予測では、穀物の収穫量は前年比で平均約20%減少すると見込まれている。特に深刻な状況にあるのは牧草地で、多くの飼料生産地では最大50%の減収となる可能性があるというのだ。トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、テンサイ、カボチャなどの作物でも、甚大な収穫減が懸念されている。一部の地域では、すでに家畜をアルプスの放牧地から早期に下ろさざるを得ない状況にあり、飼料や水の不足に加え、牛の緊急売却や緊急屠畜といった事態も発生し始めている(オーストリア農林省公式サイトから)。
ストッカー首相とトツニク農林相は、農業がこの危機を乗り越えるための共同の取り組み、資金繰りの確保、収穫の保全、農家への支援――農業者のために結束して立ち向かうという。ストッカー首相は「長期にわたる記録的な干ばつは、多くの家族経営農家に大きな困難をもたらしている。連邦政府として、私たちは農家の皆様を全面的に支援する。資金繰りの維持から被害への補償に至るまで、必要とされるあらゆる面で農業部門を支えていく」という。具体的な支援策については、農林相が財務相と調整の上、発表する予定だという。
雹害保険会社代表が10日公表したところによると、長期間する干ばつでオーストリアの農業関係者を受けた推定被害額は現時点で10億ユーロに達する。これを受け、支援資金をめぐる政治的な駆け引きが生じている。トツニク農林相(国民党)が被災者全員への迅速な支援を約束する一方、国の財布を握るマルターバウアー財務相(社会民主党)は、逼迫する予算状況を指摘し、支援策をめぐっては、政策的な余地はほとんどないことを示唆している。現時点では、財務省は農業省からの支援策要請に関し、国民党側からの具体的な提案を待っている段階という。干ばつ対策も、農業者を支持基盤する国民党と、一般労働者の権利を擁護する社民党では、決して一致しているわけではない。具体的には、支援資金を巡ってここでもホットな政治的な駆け引きが始まっているのだ。
トツニク農林相は「単に農業予算内で資金を組み替えるだけでは不十分だ。異常事態には異例の措置が必要であり、それは予算面でも同様だ」と主張。そして今回の危機の規模を理由に挙げ、総額2億3000万ユーロの被害が出た2018年の猛暑の例を挙げて、「当時、被害の影響を緩和するために6000万ユーロが支給されたが、今回も同様に、保険の補償範囲を超える支援を行うことを目指す。例えば、営農に必要な資材購入のための融資などを検討している」と述べている。
雹害保険会社によると、長期にわたる干ばつによる農業被害総額は現在約10億ユーロ(約1836億円)になる。同社が補償するのはそのうち約4億ユーロに留まる。あらゆる地域や作物が影響を受けており、特に牧草地では推定45%の収穫減が見込まれている。ちなみに、現在、オーストリアの耕作地の約80%が干ばつ保険に加入しているのに対し、牧草地の加入率はわずか40%。2025年には、連邦政府と州政府が保険料の55%に相当する約1億6000万ユーロの補助金を拠出した。
政治面では、与党第1党の「国民党」が、迅速かつ「異例の」措置を講じるよう求める一方、国民党のジュニアパートナー、社会民主党はも野心的な気候変動対策法の制定を要求。リベラル派政党ネオスは「事後補償より予防を」というスローガンを掲げ、土壌保護の強化を訴えている。極右政党で野党第1党の自由党は、マルターバウアー財務相の姿勢を「優柔不断だ」と激しく批判する一方、国民党に対しても批判の矛先を向け、「特にトツニク農林相から何ら強い懸念の声が上がっていないと不満を明らかにしている、といった具合だ。
環境政党の「緑の党」の農業担当報道官は「この夏は例外的な事象ではない。干ばつ、猛暑、水不足は、今後恒久的に私たちの農業のあり方を左右することになるだろう」と指摘し、「連邦政府が以前からリスクを認識していたことは特に懸念すべき事態だ。今求められているのは、単なる短期的な救済策以上のものだ」と強調している。
ストッカー首相とトツニク農林相は「農家の皆さんは日々、高品質な地元の食料を供給してくれています。私たちはこの異常事態において、あなた方をしっかりと支えていきます。この極度の干ばつによる影響への対処を、あなた方だけに任せるようなことは決してしません」と表明している。なお、現在、農林省では連日、状況に関するブリーフィングが行われ、そこで得られた情報は、連邦首相府の危機管理室や、省庁横断型の専門作業部会での検討に直接反映されるようになっている。これにより、状況を継続的に把握し、必要な支援策を迅速に準備することが可能となるという。
最後に、「干ばつ」と言えば、旧約聖書の「創世記」第41章に記述されている「ヨセフの夢解き」の話を思い出す。エジプト王のファラオの夢をヨセフが解き明かし、飢餓の危機を乗り越えるという話だ。ファラオの夢は、7年間の大豊作の後、すべてを食い尽くすほどの強烈な「7年間の大飢饉」がやってくるという内容だった。ヨセフはファラオに豊作の時に、その収穫の一部を保存し、その後の飢饉に備えるべきだと助言した。事態はヨセフの夢解きのようになった。
干ばつに襲来されている現在、私たちは豊作の後にやってくる飢餓の年に対応するために備えをしてきただろうか、と考える。未来のために必要な準備、備えを怠ったならば、そのツケは現世代と次期世代が背負っていくことになる。”21世紀のヨセフ”の登場が願われる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年8月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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