ハンガリー国民議会は11日、新大統領にアンドラーシュ・バカ氏(Baka Andras)を選出した.4月の国民会選挙でオルバン政権を打倒したマジャル首相が率いるTISZA党(ティサ党)が5月憲法改正を通じて、オルバン氏の盟友である現職の国家元首タマーシュ・シュヨク氏を解任したため、それを受けて後任の新大統領の選出が必要となっていた。
元最高裁長官、欧州人権裁判所判事などを歴任したバカ氏には対抗候補者はなく、議会の3分の2の議席を有する与党ティサの支持(140票)を得て勝利した。反対は当初ボイコットを表明していた極右政党「ミ・ハザンク(Mi Hazank)」の6議員だけ。事前の予告通り、フィデス(Fidesz)党およびその同盟政党であるキリスト教民主人民党(KDNP)の議員らは投票を棄権した。

ハンガリーの新大統領に選出されたアンドラーシュ・バカ氏、ハンガリー大統領府公式サイトから、2026年8月11日
バカ氏は選出後、就任の宣誓を行い、民主主義と法の支配を守ると誓った。また、オルバン前政権時代に言及し、「そのような体制が再び定着しないようにすることは、我々全員の責任だ」と語り、「説明責任は問うが、報復はしない」と述べ、政治的中立を約束し、国民の団結を訴えた。
アンドラーシュ・バカ氏は1952年にブダペストで生まれた。1978年にエトヴェシュ・ロランド大学法学部を卒業し、1989年までハンガリー科学アカデミーで憲法学の研究を行った。1991年から2008年まで、ストラスブールの欧州人権裁判所でハンガリー人として初の判事を務めた。2008年から2009年まではロンドン大都市控訴裁判所の判事を務め、2009年から2011年まで最高裁判所の長官を務めたが、早期解任された。その後、教皇庁の首席判事を務めた。
基本法第11条第6項に基づき、元大統領の任期が早期に終了した場合、後任大統領は大統領選出から8日後に就任する。これに基づきバカ氏は2026年8月19日より国家元首としての職務と権限を全面的に行使する。
ちなみに、ハンガリーでは大統領は一種の名誉職的立場で、その職務は主に儀礼的なものが多い。その限られた権限には、法案の再審議を求めて議会に差し戻すことや、法律の審査を憲法裁判所に付託することなどが含まれる。
なお、バカ氏は2011年、任期満了を3年残した段階で、オルバン政権によってハンガリー最高裁判所長官の職を解任された。当時この解任は、バカ氏がオルバン政権および同政権が進めていた司法改革を批判したことへの報復措置と見なされた。バカ氏の任期途中の解任につぃて、欧州人権裁判所は2016年、「ハンガリーがバカ氏の権利を侵害した」との判決を下している。
マジャル首相はバカ氏を、「民主的な法の支配と憲法上の原則への献身を体現する模範」と称賛した。ティサ議員団によるバカ氏の指名に関する声明によれば、「バカ氏は常に権力分立の原則を最優先し、一貫して法の支配と司法の独立を擁護してきた人物」という。
シュヨク氏の解任は、「オルバン体制」の解体を掲げるマジャル新政権の重要な目標の一つだった。当時、大統領(シュヨク氏)はオルバン氏の「操り人形」であるという見方が一般的だった。オルバン氏率いるフィデス(FIDESZ)党とその同盟政党であるKDNPは、シュヨク氏の解任を「専制的」かつ「非正当」だと強く反発した。シュヨク氏の解任後、議会には30日以内に後任を選出することが求められていた。
マジャル首相は、政治的変革を急速に展開。ハンガリー議会は7月下旬、オルバン政権時代の汚職疑惑の調査と国有資産の回収を担う新たな資産回収機関を設置した。これと並行して、管轄の検察当局は、数名の元高官に対する刑事訴追の手続きを開始している。また、オルバン氏の干渉を受けていた公共放送制度を改革したほか、オルバン氏の政権復帰の可能性を防ぐ憲法改正や法制定を行った。また、検察、警察、軍の要職からもオルバン氏に近い人物が排除された。
参考までに、新大統領の名前が「バカ」だということから、新大統領名を書く時、日本人にとって少々滑稽さを感じるかもしれない。元最高裁長官であり、ハンガリーの新大統領が日本語で「馬鹿」を意味する「バカ」氏だからだ。過去には、第58代フィンランド首相はエスコ・アホ氏(Esko Aho)と呼ばれた。1991年から4年間余り若くして首相に就任した。フィンランドの欧州連合(EU)加盟への道を切り開いたやり手の政治家だ。その名前が「アホ」だった。ちなみに、「Baka」は、スロバキアにある地名や、ハンガリー語で歩兵などを意味する言葉などに由来するとされている。
【一口解説】
最高裁長官のバカ氏がハンガリーの新大統領に選ばれた。議会での採決風景を撮ったロイター通信の写真を見ていて感じたことがある。与党ティサは議会の3分の2を占める大政党だ。憲法改正も可能だし、大統領選出もティサが擁立したバカ氏を問題なく選んだ。元与党でオルバン氏が率いていたフィデスらの議員は採決をボイコットしたので、その席は空席だった。3分の2の議員が起立する一方、3分の1の議席には誰もいない。そして事案はスムーズに次々と決まっていく。
民主主義だから議席の3分の2を獲得することは合法的だが、少なからず一党独裁的な雰囲気を感じさせる。一方、欧州の多くの国では3党、4頭と多数の政党が参加した連立政権が多い。これまた民主主義では合法的だ。ただ、多党連立体制では政権内の結束が難しく、重要法案などを採決することは難しい事態が多い。その結果、改革や刷新といった抜本的な政策が実行できなくなり、有権者の国民には不満が溜まる。
選挙は民主主義の要だ。国民が自身の意向を政治に反映させることが出来る合法的な機会だからだ。しかし、ハンガリーの政界の動向を見ていて、民主主義の脆弱さを感じる。オルバン前政権も議会の3分の2を支配し、16年間政権を維持してきた。そのオルバン政権を打倒したマジャル現政権も4月の選挙で圧勝し、議会の3分の2を獲得、前政権の負の清算に乗り出している。
ハンガリーでは、少数派政党、野党勢力のプレゼンスが薄い。健全な民主主義を育成するためには野党の踏ん張りが必要だ。ハンガリー政界には、与野党間の活発な政策論争が決定的に欠けているのを感じる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年8月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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