
株式会社ゲオホールディングス プレスリリースより
あなたは何者? 何をしてる人? すぐ答えられる人はあまりいない。けれど、ゲオの社員は即答できる。「リユース品を売っています」と。
” セカンドリテイリング(株式会社セカンドリテイリング) ”
ゲオ(株式会社ゲオホールディングス )の新社名である。中古を意味する”second-hand”。小売業を意味する”retailing”。新社名が表すのは事業領域(ドメイン)そのものだ。わかりやすくて好ましい。だが、名が災いをもたらすこともある。
「名はこの世で一番短い呪(しゅ)」
聞いたことがある人も多いだろう。小説『陰陽師』のセリフである。「呪」。なにやら物騒だが、特段スピリチュアルな話ではない。名がつけられると、その名の意味に縛られてしまう、ということだ。
名は人を縛る
先生と呼ばれれば、人に教えを請いづらくなる。警官になれば、信号無視を躊躇する。小説家は自身の作品に縛られる。例えば、ハードボイルド作家「北方謙三」氏だ。氏は、「北方謙三」的振舞い、すなわち自身の作品の主人公的振る舞いが求められるという(同業者である大沢在昌氏談)。
バーに入れば「バーボン、ストレート」。一気に飲み干し「おかわり」。たとえ熱中症寸前でスポーツドリンクが飲みたくても、だ。カフェに入れば「ブラック」。たとえ胃痛でミルクを入れたくても、だ。いかなるときもハードボイルド。「北方謙三」はブランド。イメージを損ねるわけにはいかない。
名はクラシックを縛る
このようなイメージが付くことを恐れ、命名を放棄したのがクラシックだ。楽器で演奏されるクラシック曲の多くは名前(タイトル)が付いていない。
「愛を語るより口づけをかわそう」
「さよなら夏の日」
のようなわかりやすいタイトルは無い。代わりにあるのは番号だ。例えば「K.183」。誰もが聞いたことがある名曲だ。CDには「モーツァルト 交響曲 第25番」と書かれている。だが、これで曲が思い浮かぶ人は少ないだろう。人に伝えるときは「映画『アマデウス』の冒頭でかかった曲」と言うか、それでも伝わらないときはもう歌うしかない。
モーツァルト:交響曲 第25番 ト短調 K. 183(オーケストラ・アンサンブル金沢)
なぜ、こんな不便を強いるのか。タイトルのイメージで聴いてほしくないからだ。愛なんて語っていない。夏との別れなんて表現していない。そもそも、ことばで伝えられないのが音楽だ。作曲家たちは、ことばに縛られることを嫌った。名前の「呪」を恐れた。だから、あえてタイトルを付けなかったのだ。
名は企業を縛る
話をビジネスに戻そう。
マーケティング・マイオピアという理論がある。60年前に経済学者セオドア・レビット氏が提唱した古典的論文である。マイオピアは近視眼と訳されるが、この場合、狭視眼と言った方が近い。自社のドメイン(事業領域)を狭め過ぎてはいけませんよ、という理屈だ。
「わが社は鉄道事業者である」。かつて、こう定義づけた米国の鉄道会社は、その定義が狭すぎたため、自動車・航空機に押され衰退してしまった。もし事業領域を「運輸業」と広く定義していれば、こんなことにはならなかったはずだ。
「わが社は映画制作会社である」。こう定義づけたハリウッドの映画会社は、テレビを脅威とだけとらえ、活用することができなかった。もし事業領域を「エンタテインメント業」と広く定義していれば、さらに飛躍できたはずだ。
新社名はゲオを縛るか
では、ゲオ(改めセカンドリテイリング)はどうか。
祖業はビデオレンタル店だが、いまや売上の6割を「2nd STREET」「OKURA」「GEO」などが扱うリユース商品が占めている。加えて、リユース商品市場は、2450億ドル(2026年)から、1兆ドル(2036年)に拡大することが見込まれている。この広大な市場で「トップを目指す」という決意を、新社名「セカンドリテイリング」に込めた。
「リユース品を売る会社」
分かりやすく明快だ。だが、社員も顧客も「中古品」だけしか見なくなる、というリスクも孕む。
広げ過ぎるとぼやけてしまう。狭め過ぎれば窮屈だ。「とかくドメインは決めにくい」。自社の事業領域は、名づけ方次第で呪にも祝福にも成り得る。ゲオ新社名は「呪」から逃れ、「祝福」とすることができるだろうか。







コメント
「ファーストリテイリング」という会社があったような気が、しないでもないが。