国債の金利が一時2.93%と30年ぶりの高さになった。こういうとき決まって持ち出されるのが「GDP比で世界一の政府債務」と「金利上昇による利払い急増」である。
利払い費だけで45兆円? 金利が追い詰める高市政権の財政運営https://t.co/1B4yJpymBg
「金利のある世界」が国の財政をじわじわと追い詰めています。国の借金である国債の利払い費が増大する恐れがあるためです。約10年で現在の3倍以上になるとの試算もあります。
— 毎日新聞 (@mainichi) August 17, 2026
「13兆円の利払い」だけを見るのは間違い
財務省によると、2025年末の国の借金は1342兆円、2026年度の一般会計の利払費は13.0兆円である。財務省の「リスクシナリオ」によると、2035年には利払い費は45.2兆円になるという。

毎日新聞
しかし、これだけを見て「日本財政は金利上昇で破綻する」と考えるのは早計だ。この数字は受取利息を無視した国債だけの利払いだが、日本政府は多額の金融資産をもっているのだ。
純利払い費は0.7兆円
内閣府の国民経済計算(SNA)の一般政府を見ると、政府は国債の利子を払う一方、外貨準備として保有する米国債などの金融資産から巨額の利子を受け取っている。2024年度では、支払利子から受取利子を引いた純利払い費は約7000億円にすぎない。
この数字は内閣府が一般政府の所得支出勘定として公表しているが、政府債務1342兆円の0.1%にも満たない。これは政府債務の維持可能性を考える上でも重要である。
国債金利をr、名目成長率をgとすると、r<gになることが政府債務の発散しないドーマー条件とされているが、日本のように政府が巨額の金融資産を保有する国では、rは受取利息を含む実効金利で考える必要がある。これは13兆円ではなく0.7兆円なのだ。
毎日新聞の「リスクシナリオ」はかなり誇張されているが、ここには2つの落とし穴がある。
第1の落とし穴は国債の借り換え
第1は、これから進む国債の借り換えである。日本国債のストックには、ゼロ金利時代に発行された低利率の国債が大量に残っている。このため市場金利が上昇しても、国債金利はすぐには上がらない。
しかし満期を迎えた国債が順次、高い金利の国債へ置き換われば話は違う。財務省も2026年度の利払費増加について、「従来よりも金利の高い国債に置き換わったこと」による影響だけで前年度当初比1.5兆円の増加になるとしている。
さらに金利が想定より1%高くなると、国債費への影響は2027年度0.8兆円、2028年度2.1兆円、2029年度3.8兆円と累積的に大きくなるとの試算もある。したがって現在の低い実効金利をそのまま将来に延長することはできない。
第2の落とし穴は「円高」
そして最大の落とし穴が円高である。日本政府が受け取る巨額の利子の背景には、米国債をはじめとする外貨資産がある。2026年7月末の日本の外貨準備は1.3兆ドル。そのうち外貨は1.1兆ドル、証券だけでも9300億ドルに達する。
現在は円安なので、外国為替特別会計だけでも100兆円近い為替差益があり、米国債の金利が高いため受取利息も大きいが、円高になるとこの構図が逆回転する。
ゼロ金利の円で借りてアメリカ株などを買っていた世界のヘッジファンドが円キャリーを巻き戻し、2024年の「植田ショック」のような大幅な円高が起こり、それがさらに円キャリーの巻き戻しをまねく。

3つの追い風が逆風になるときが危機
現在の日本政府には、実は都合のいい3つの条件がそろっている:円安、アメリカの高金利、日本国債の低い実効金利である。日本政府は200兆円の外貨準備のほとんどを無ヘッジの米国債で保有する世界最大の円キャリートレーダーである。
円安で外貨資産の円換算価値は膨らみ、米国の高金利によって受取利子は増える一方で、日本国債はゼロ金利国債が大量に残っているため、実効金利は低く、純利払い費は驚くほど小さい。問題は、この3条件が永久には続かないことである。今後、
日本国債の借り換えで支払金利が上がる。
米国の利下げで受取利子が減る。
さらに円高で外貨資産の円換算価値が落ちる。
という3つの変化が重なると、日本政府の超ハイリスク運用は裏目に出る。円高に戻る局面では日米金利差も今より縮小(あるいは逆転)しているので、もし日本の金利がアメリカより高くなると、純利払い費は大きく増える。
テールリスクのシナリオ
そのリスクはどれぐらいだろうか。単純化して、9300億ドルの外貨準備をすべてドル建てと仮定しよう。1ドル160円なら円換算で約148兆円だが、これが2024年のように140円になったとすると18兆円の損失が出る。
IMFの計算した円の購買力平価は1ドル約100円なので、そこまでドルが下がるとすると外貨準備の時価は約93兆円で、為替差損は約56兆円である。これは評価損なので、それだけ政府支出が必要になるわけではないが、受取利息は大幅に減り、純利払いは大きくマイナスになる。
これは今のところ、確率の低いテールリスクであり、高市政権が続く限り円安の地合いは変わらないだろう。しかし無謀なバラマキ財政で長期金利が上昇すると、円高に反転する可能性がある。
そのときは世界中のヘッジファンドが一挙に円を買い戻してドルを売るので、大きく円高になる。さらに円キャリーを原資としているAIバブルが崩壊すると、世界金融危機に発展する可能性もある。日本財政の本当のストレステストは、金利上昇で円高になったときに始まるのだ。






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