不動産は経営資源である

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空き家、空き地、遊休地が社会問題として語られる機会が増えている。人口減少や産業構造の変化を背景に、かつて住宅や事業を支えていた不動産が、次第に役割を失いつつある。

しかし、問題の本質は不動産という「モノ」にあるのではない。問題は、その不動産が生活、事業、地域、承継のいずれの文脈においても、明確な機能を与えられていない点にある。この視点は、個人が保有する土地や住宅に限らず、企業が保有する不動産にもそのまま当てはまる。

企業は本社、工場、倉庫、店舗、社宅、賃貸ビル、貸地、農地、低利用地など、多様な不動産を保有している。これらは会計上、固定資産として一律に計上される。しかし、固定資産という会計上の分類は、その不動産が企業価値にどう貢献しているかを説明しない。

本社は経営管理や意思決定、採用、対外対応、ブランド形成を支える場である。工場や物流施設は、製品やサービスを生み出す事業基盤そのものである。賃貸ビルや貸地は、安定収入や財務余力を生む投資不動産になり得る。あるいは、農地や低利用地も、建て貸しなどの手法によって、他者の事業を支える投資不動産へ転換できる可能性を持つ。

一方で、使われなくなった社宅、閉鎖された事業所跡地、将来用途のない土地、低収益のまま放置された不動産は、固定資産としては存在していても、経営資源としては十分に機能していないことが多い。重要なのは、その不動産が「ある」ことではなく、「何に役立っているか」である。

この機能不全の背景には、不動産判断が事業判断から切り離されているという構造的な問題がある。管理部門は修繕や契約を見る。財務部門は簿価や税金を見る。事業部門は使い勝手を見る。経営者は、最後に保有か売却かを判断する。

この分断構造のもとでは、不動産が事業、財務、人材、承継に与える複合的な影響を、誰も一体として把握できない。工場の立地は生産効率や物流コスト、人材採用、災害リスクに影響する。店舗の立地は売上や顧客導線を左右する。本社の機能は組織文化そのものに影響を与える。にもかかわらず、これらの判断が個別最適の積み重ねとして処理される限り、不動産が経営全体に与える影響は見えにくいままである。

この構造は、企業だけの問題ではない。事業承継の場面でも、同じ分断が起きる。含み益の大きい土地や、本業と関係の薄い不動産を多く保有する会社では、株式評価や資産整理が複雑になりやすい。後継者にとって必要な不動産であれば引き継ぐ意味があるが、役割の曖昧な不動産まで引き継がせることは、次世代の経営を重くする。個人が相続した土地や農地についても、扱いを決めるのは単なる資産管理ではなく、次世代にどのような収益構造とリスクを残すかという経営判断である。

企業不動産(CRE)戦略とは、こうした分断を解き、不動産判断を事業戦略、財務戦略、承継戦略の中に統合し直す考え方である。不動産を固定資産の一覧としてではなく、経営判断の対象として扱う視点と言い換えてもよい。持つか持たないかではなく、何のために持ち、どう機能させるかを問う姿勢が、その出発点になる。

不動産を経営資源として捉え直すには、問いを変える必要がある。いくらで買ったか、いくらで売れるか、賃料はいくら入るか。これらは重要だが、それだけでは不十分である。

本当に問うべきは、その不動産が現在の事業に不可欠か、将来の成長に貢献するか、資本効率は合理的か、人材や組織に役立っているか、承継後も意味を持つか、といった問いである。売却、賃貸化、建替え、用途転換、建て貸しなど、より良い選択肢はないかという問いも、そこに含まれる。

不動産に機能を与えるとは、単に建物を建てることではない。その不動産が誰のために、何のために、どのような価値を生むのかを定めることである。そして、その機能が時代や事業環境に合わなくなったときには、役割を見直すことである。

空き家や遊休地が問題になるのは、不動産そのものが悪いからではない。問題は、その不動産が果たすべき役割を失っていること、あるいは、そもそも与えられていないことにある。企業不動産も、同じ構造的な問題を抱えている。

不動産は、所有しているだけでは経営資源にならない。事業に貢献しているか、財務を支えているか、人材や組織に役立っているか、承継後も意味を持つか。これらを説明できて初めて、不動産は経営資源となる。

不動産は持つものではなく、経営の中で機能させるものである。その視点に立ったとき、不動産は単なる土地や建物ではなく、企業と地域と次世代を支える経営資源へと変わる。

不動産を経営資源として活かすか否かは企業経営者の責務であり、社会的課題を解決する使命をも担っている。

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