
高市早苗首相が、自身のXでこれまでの「物価高対策」の効果を強調しました。
インフレ率は前年同月比1.7%まで低下し、実質賃金も1.7%上昇。さらにガソリンや電気・ガス料金への支援、子育て給付、年金引き上げなどを挙げ、長期的には「物価上昇を上回る賃金上昇」を実現すると説明しています。
しかし、私はこの説明には大きな違和感があります。
ガソリン代や電気代を補助すれば、その瞬間の家計負担は軽くなります。しかし、それは家計支援ではあっても、物価高の原因そのものを解消する政策とは別です。
まず「インフレ率1.7%」は、物価が下がったという意味ではありません。
2026年6月の全国消費者物価指数は、2020年=100に対して113.6。食料は128.6です。物価全体は2020年より約14%、食料は約29%高い水準にあります。下がったのは値段ではなく、値上がりする速度です。
しかも川上のコスト圧力は消えていません。7月の国内企業物価は前年比7.2%、円ベースの輸入物価は29.1%上昇しています。
補助金で店頭価格を抑えても、原材料や輸入品そのものが安くなるわけではありません。急場の「痛み止め」にはなっても、原因の治療にはなっていません。
さらに問題なのが実質賃金です。
実質賃金は、大まかに言えば名目賃金を物価で割ったものです。したがって、賃金が増えるだけでなく、政府が補助金でCPIを押し下げても改善します。高市氏自身、燃料価格対策でCPIを0.7ポイント、教育無償化で0.3ポイント押し下げたと説明しています。
つまり、政府が公費を使って物価を下げる。その結果、実質賃金の数字が上がる。そして「物価負担を抑えた」「実質賃金も上げた」と二つの成果として示す。これは政策効果を二重に数えているように見えます。
もちろん賃上げ自体も起きています。しかし2025年の実質賃金は前年比1.3%減で、4年連続のマイナスでした。最近数カ月の前年比だけを見ても、それまで失われた購買力が回復したことにはなりません。
そして、補助金を出しても負担は消えません。
政府がガソリン代の一部を肩代わりしても、そのお金は税金や国債から出ています。国民が店頭で払っていた負担を、政府経由に付け替えただけです。
給付金も同じです。「標準世帯で8万円支援した」と言っても、日本全体の富が8万円増えたわけではありません。
より大きな問題は、財政と為替です。
日本は原油、天然ガス、食料、原材料の多くを海外から輸入しています。円安になれば、海外価格が同じでも円建ての輸入価格は上がります。
その状況で、物価対策として財政支出を拡大する。店頭価格は補助金で一時的に下がります。しかし、財政赤字への懸念や金融政策への制約が強まり、円安が進めば、輸入物価は再び上昇します。
政府が補助金を出す→価格を一時的に下げる→財政負担が増える→円安圧力が強まる→輸入物価が上がる→再び物価高対策が必要になる。こうした悪循環になりかねません。
消費税減税も同じです。税率を下げれば、その瞬間には価格を押し下げる効果があります。しかし減収を国債で埋めれば財政拡張です。為替や需要を通じて物価上昇圧力が強まれば、減税効果を別の物価上昇が食い潰します。財政と為替を無視して、補助金や税率だけを見ても物価高対策にはなりません。
高市氏が年金の1.9%、2.0%引き上げも成果として挙げている点にも疑問があります。これは法律で定められた毎年度の改定ルールによるものです。
しかも年金も、現役世代の保険料、税金、積立金などによって支えられています。給付だけを「支援」として示しても、負担の側を見なければ制度全体の評価にはなりません。
そして最も疑問なのが、「価格転嫁から賃上げへつなげ、物価上昇を上回る賃金上昇を実現する」という考え方です。
1000円で仕入れて1200円で売れば利益は200円です。
仕入れ価格が1100円になり、1300円へ値上げしても利益は200円です。
そこからさらに賃金を上げるには、物価上昇以上に値付けを高くする必要があります。
物価が上がったから、賃上げのためにさらに値段を上げる。それを社会全体で繰り返しても、名目額が大きくなるだけです。
本当の意味での賃上げには、生産性を高めるか、より高い付加価値を生み出すか、税・社会保険料などの負担を減らす必要があります。経済成長の結果としてインフレが起きることはあります。しかし、インフレを起こせば経済が成長するわけではありません。
結論。
ガソリン補助や電気・ガス料金支援などは、急激な価格上昇に対する緊急避難として必要な場合はあるかもしれません。しかし、補助金で価格を一時的に下げ、そのCPIで実質賃金を押し上げ、給付額を積み上げても、物価高の原因は残ったままです。
政府の責任は、国民から集めたお金を配り直して目の前の数字を整えることだけではないと思います。財政を安定させ、通貨への信認を守ることです。
ばらまきによって物価高を一時的に隠すことと、物価高を解決することは違います。
今向き合うべきなのは、財政、為替、供給構造という物価高の原因そのものだと私は考えています。
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平尾 正憲
平成生まれ、東京都三鷹市在住。現役世代の負担増と将来世代への責任を軸に、社会保障、税制、行政改革などを論じる。寛容と現実主義に基づく保守本流の言論を目指す。







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