「転職は35歳まで」。かつての日本では、こんな言葉が半ば常識のように語られていました。40代になれば会社でのポジションも固まり、50代になれば定年まで残り10年。
多少の不満があっても、退職金をもらうまで会社にしがみつく。それが中年サラリーマンの合理的な生存戦略だったのですが、その常識が崩れ始めています。

40代、50代の転職が増えている
マイナビの「転職動向調査2026年版」によると、2025年の正社員の転職率は7.6%と調査開始以来の最高水準となりました。年代別では20代が12.0%、30代が9.0%と依然高いものの、40代は6.8%、50代も3.8%まで上昇しています。特に40代、50代は2021年以降、転職率の上昇が続いています。
なぜ中年会社員が動き始めたのでしょうか。理由は意外に単純です。「この会社にいても先がない」と気づき始めたからです。
同調査では、転職者の52.6%が前職で自分のキャリアに「停滞感」を感じていました。40代では「毎日同じ仕事内容の繰り返し」、50代では「定年までのキャリア予定を知らされ、この先の役職がわかっていた」といった声が挙がっています。
50歳から定年までが長すぎる
昔なら50歳になれば、多少仕事が面白くなくても「あと10年」と考えることができました。しかし、今の会社員人生はそんなに短くありません。60歳で一線を退いて悠々自適というモデルは崩れ、65歳、場合によっては70歳近くまで働くことになります。
45歳で会社の中で先が見えてしまったとしても、そこからまだ20年以上働かなければなりません。「逃げ切る」には長すぎるのです。
しかも会社に残ったからといって、給料や役職が上がり続ける保証もありません。2025年の転職理由で最も多かったのは「給与が低かった」の23.2%でした。50代では「今後の昇進や昇給が見込めないと思った」という回答も増えています。
若者が会社を辞めるのは「もっといい会社へ行きたい」からかもしれません。一方、中年が会社を辞めるのは、「このままここにいるほうが危ない」と感じ始めたからではないでしょうか。
もちろん50代転職は甘くない
ただし、ここで「中年もどんどん転職すべきです」と単純化するのは危険です。転職後の平均年収は全体では増えていますが、50代では逆に減少する傾向も見られます。
これが中年転職の難しさです。若いうちは「ポテンシャル」を買ってもらえます。しかし50代になれば、企業が見るのは「あなたは具体的に何ができるのですか」という点です。
「大企業で部長をしていました」だけでは足りません。前の会社の看板、肩書、人脈を取り除いたときに、自分自身にいくらの値段が付くのか。それを突然、市場から突きつけられることになります。
本当に危険なのは市場価値を知らないこと
40代、50代の会社員にとって重要なのは、「辞めるか、残るか」を今すぐ決めることではありません。一度、会社の外から自分を眺めてみることです。
転職サイトに登録してみる。エージェントと話してみる。同業他社の求人を見る。自分の経験なら年収はいくらになるのか確認する。
その結果、「今の会社の待遇は意外に悪くない」と分かれば、それも立派な収穫です。反対に、自分の経験を高く評価してくれる会社があるなら、新しい選択肢が生まれます。
一番危ないのは、会社の中でそこそこの肩書と給料をもらい、「自分はまだ大丈夫だ」と思ったまま50代後半を迎えることではないでしょうか。
昔の中年サラリーマンは、会社に残れば逃げ切れました。今の中年サラリーマンは、会社に残るためにも、いつでも会社を辞められる準備をしておく必要があります。皮肉な時代になったものです。







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