AIブームが、ついに米国債市場まで揺さぶり始めた。米財務省は8月19日、10~30年の長期国債について、買い戻し額を従来の1回最大20億ドルから少なくとも40億ドルへ倍増すると発表した。9月9日から11月4日まで実施する。直前には30年国債利回りが5.34%まで上昇し、2007年以来19年ぶりの高水準をつけていた。
なぜ米国債がここまで売られているのか。その一因として急浮上しているのが、AI投資をめぐる巨大な資金需要である。

AI企業が国債と資金を奪い合う
AIのデータセンターには、半導体だけでなく土地、建物、送電網、発電設備まで巨額の設備投資が必要になる。これまでGoogleやAmazon、Metaなどの巨大IT企業は豊富なキャッシュフローで投資を賄ってきたが、投資額があまりに膨らみ、社債市場からの調達が急増している。
Alphabet、Amazon、MetaなどAI関連企業による2026年の社債発行額はすでに約2200億ドルに達し、2025年通年の約1080億ドルの2倍を超えた。しかも20年、30年といった長期債が多い。
ダラス連銀は今年2月、AI関連の投資適格社債発行が2026年に約3000億ドルとなり、金利リスクを10年債換算すると最大3600億ドルに達する可能性があると試算した。これは米国債が市場に供給する金利リスクの約8分の1に相当するという。
つまり債券投資家から見れば、米国債だけを買う必要はない。財務内容の良いGoogleやAmazonが高い利回りで長期債を大量に出すなら、そちらを買う選択肢が生まれる。AIバブルが米国政府の資金調達と競合し始めたのである。
AI投資が長期金利を押し上げる
これは典型的な資金のクラウディングアウトである。AI企業が何千億ドルもの資金を市場から吸収すれば、債券の供給が増える。すべてを投資家に買ってもらうには価格を下げる必要があり、利回りは上昇する。
ロイターによると、米30年物の実質金利は約3%と18年ぶりの高水準に達している。BlackRockも、AI投資による「資本の希少化」が債券利回りを押し上げていると指摘している。
しかも借金しているのはAI企業だけではない。米政府も巨額の財政赤字を抱え、大量の国債を発行している。イラン情勢による国防支出やインフレ懸念も重なり、米政府とビッグテックが同時に世界の貯蓄を奪い合う構図になっている。
米財務省が自分の国債を買い戻す異例の措置
そこでベッセント財務長官が打ち出したのが、長期国債の買い戻し拡大である。長期債を財務省自身が市場から買えば価格を支え、金利上昇を抑える効果が期待できる。発表後、30年金利は5.3%台から5.2%前後まで低下した。
ただし、これはFRBの量的緩和(QE)ではない。財務省は国債を買い戻しても財政赤字そのものを消せるわけではなく、その資金を別の年限の国債発行などで調達する必要がある。
買い戻し額も今四半期で最大830億ドル程度で、32兆ドルを超える米国債市場から見れば小さい。したがって、これは金利上昇を根本的に止める政策というより、市場の流動性を支える応急措置に近い。
AIバブルが自分自身を締め上げる可能性
もちろん最近の米長期金利上昇をすべてAIのせいにするのは乱暴だ。財政赤字、インフレ、イラン情勢、FRBの政策への不信など複数の要因が重なっている。Goldman Sachsは、AI関連の社債発行が米国全体の金利を押し上げる効果は現時点では5bp程度にとどまる可能性があるとみている。
それでも構造的な変化は無視できない。これまでAIバブルは「株価が上がりすぎている」という株式市場の問題として語られてきた。しかし現在起きているのは、AI企業が巨額の設備投資を借金で賄い始め、その資金需要が世界最大の債券市場である米国債市場にまで波及する現象である。
皮肉なのは、AI投資が金利を上げれば、最終的にはAI企業自身の資金調達コストも上がることだ。AIバブルを支えるために借金を増やし、その借金が金利を上げ、米財務省が国債を買い戻して金利を抑える。AIブームはついに、金融政策ならぬ「国債管理政策」まで動かし始めたのかもしれない。







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