陸上競技の三段跳(トリプル・ジャンプ)競技をご存知だろう。助走をつけてからホップ、ステップ、ジャンプと三回連続飛躍して水平距離を競う競技だ。そしてトランプ米政権は対イラン政策でその三段跳戦略を実行しているのだ。

イランのガリバフ国会議長、ベッセントベセント財務長官の発言を嘲笑し、「ピエロの日だった」と述べた。IRNA通信、2026年8月26日
トランプ米政権はイラン問題の解決のために今年2月28日、イスラエル軍と連携してイランへの軍事攻撃を開始した。そしてイラン最高指導者アリ・ハメネイ師を含む多くの軍事指導者を殺害した(ホップ)。その後、パキスタンやオーマンの調停を受けてテヘランとの外交交渉を開始した。ワシントンとテヘランは6月14日、パキスタンの仲介により枠組み合意に達し、その後60日以内に平和条約を締結する予定だったが、ホルムズ海峡の支配権をめぐる対立から、7月中旬には戦闘が再燃した。米軍はイランの港湾に対する封鎖を再開した(ステップ)。そして今、トランプ氏はイランに対して「これまでになった経済制裁を行う」と表明し、イランの国民経済の完全な停滞を予告している(ジャンプ)。
ベセント財務長官が24日、イランおよび同国との貿易相手国に対する新たな制裁措置を発表した。発表前までは「経済的D-デイ(決戦の日)」、「経済的のけ者(Economic Outcast)」作戦という名所が付けられるほど、米国側には軍事的雰囲気が漂っていたが、発表時にはそれらの表現は姿を消し、現在、メディアでは「経済的追放作戦」と呼ばれている。
ベセント氏の発表によると、イランの軍事活動や核・ミサイル開発、石油取引などを支援したとして、約60の個人や団体、船舶を新たに制裁対象に指定した。同時に、イランとの取引を続ける第三国の企業や金融機関などに二次制裁を科す方針を表明。デジタル資産や海運など5分野に二次制裁の適用対象を拡大し、イランを国際的な金融・貿易網から孤立させる「経済的追放作戦」を開始した。
制裁対象には、イランの核・ミサイル開発に必要な物資の調達や、米国の重要インフラを狙ったサイバー攻撃、石油・石油化学製品の輸出による資金獲得などに関与した個人や企業が含まれる。国務省も、米軍などへの攻撃を指揮したイラン軍幹部や、攻撃目標の選定に必要な情報収集に関与した組織などを制裁対象とした。
ベセント氏によると、トランプ大統領は各国首脳に電話し、イランとの取引を停止するよう直接要請している。財務省や国務省なども各国政府と協議し、問題視する取引を停止するまでの期限を示しているという。期限内に対応しなければ「財務省の権限でわれわれが行動する」と述べ、応じない国の企業や金融機関に二次制裁を発動する考えを示した。ベセント氏は「イラン政権を支えるあらゆる経済的生命線を断ち、テヘランを孤立させることが目的だ」と繰り返し強調。イランとの経済関係を続ける企業などに対し、「米国の力が及ぶことになる」と警告した。ベセント氏とトランプ大統領は以前、各国に対し、米国側につくか、さもなくば主要企業がドル建て金融システムから締め出されるリスクを負うかの選択を迫っていた。ベセント氏は先週、この動きを「史上最も厳しい制裁」と表現した。
ワシントンの発表に対し、イラン経済省は「米国にとっての新たな敗北」を予測し、制裁に対抗するための「2カ年計画」が策定されていると述べた。アリ・マダニザデ経済相は国営テレビで、「米国はイラン国民と指導部の決意を試すためにあらゆることを行ってきたが、そのたびに失敗してきた」と語った。
米国は過去、主に石油収入やイラン革命防衛隊の管理下にある企業を標的として制裁を科してきた。ここ数カ月間、財務省はイラン産原油を購入した中国の独立系精製業者に対しても制裁を科している。さらに抜本的な措置としては、イラン関連の取引を処理する中国やその他の国の銀行に制裁を科すことが考えられる。しかし、米国政府はこれまで、北京の指導部との貿易摩擦が激化するのを避けるため、この措置に踏み切ることは控えてきた。9月末には、ワシントンでトランプ大統領と中国の習近平国家主席の会談が予定されている。
ちなみに、ベセント財務長官の対イラン制裁での日本企業への影響について、欧米メディアは「日本企業に対してもドル決済網からの排除リスクやサプライチェーンおよび海運ルートの混乱という大きな影響を与える可能性がある」と指摘している。
ところで、イランのメディア報道によると、パキスタンは新たな仲裁外交を始めている。パキスタン軍のアシム・ムニール司令官が日にテヘランに到着した。トランプ米大統領と個人的な関係を築いているムニール氏は、地域の平和と安定を促進するため、イランの最高指導者ハメネイ師の側近らと会談する予定だと報じられた。
テヘランの政府は、米国の新たな発表に先立ち、経済戦争が続けば湾岸地域からの石油輸出をすべて停止すると表明した。イランはまた、テヘランに対する米国の経済的圧力に同調する国々に対し、「報いを受けることになる」と警告した。イラン外務省のエスマイル・バガエイ報道官は、「イランに対する米国の攻撃的な措置の実行に加担すれば、間違いなく報いを受けることになるだろう」と述べている。
「軍事・外交・経済」の三段跳戦略の最後のジャンプに入っている。11月に中間選挙を控えているトランプ政権は失敗は許されない。トランプ氏としては三段跳の最後のジャンプでテヘランを参ったといわせるほど、遠くまで飛んで着地したいところだろう。そのためには、米国の経済制裁に対し国際社会の支持、特に、ロシア、中国、インドといったイラン周辺国家との連携が不可欠となる。また、イランの「物流の聖域」と呼ばれている「カスピ海ルート」の監視強化が重要だ(「イランの『物流の聖域』カスピ海ルート」2026年8月11日参考)。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年8月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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