・でも本題はタイムじゃない。いくらで、何時間、何種類の仕事ができて、誰が何百万台作るのかである。
・中国のヒューマノイド出荷は2024年2,400台→2025年約1.8万台。2026年は6万台超の予測。すでに量産フェーズに入っている。
・一方の日本は、2040年に労働供給が1,100万人分足りないという予測。政府は同じ2040年までにロボット1,000万台を入れると言っている。桁が同じ。偶然じゃない。
・つまり日本は「ロボットを使うかどうか」を選べる立場にない。選べるのはどこの国から買うかだけ。
・レアアースは材料、石油はエネルギー、半導体は頭脳。AIロボットは労働力そのもの。ここを一国に握られると、輸入が止まった瞬間に日本の「働ける量」が落ちる。
・正直な但し書き:この分野は推計の数字が出所によって2倍以上ブレる。本稿では出所を全部明記した。信じる/信じないはあなたの判断でどうぞ。
ちょっと前まで完全な人型の汎用ロボットにはあと100年必要と言われていた。
しかし2026年8月22日から26日まで、北京の国家速滑館で第2回世界ヒューマノイドロボット運動会が開かれていた。666チーム、2,056台、16カ国。もはや運動会という規模ではない。あの進化をみてかなり早まった印象がある。
で、8月25日。北京人形機器人創新中心(X-Humanoid)の「天工」が、大型組100m競走の準決勝で8.86秒を出した。ウサイン・ボルトの世界記録は2009年ベルリンの9.58秒だから、数字だけ見れば人間より速い。ちなみに去年の第1回大会の100mは21.50秒だった。1年で12秒以上縮んでいる。これがこの業界のスピード感です。
ただ、ここで「中国のロボットが人間より速い!」で終わると、ただの技術ニュースになる。工場で100mを8秒台で走る必要なんかどこにもない。
経済にとって本当に重要なのは、こっちです。
1日に何時間働けるのか。
何種類の仕事をこなせるのか。
人間の仕事の何%を代替できるのか。
そして、誰が何百万台作るのか。
とはいえ、高速二足歩行そのものが無意味かというとそうでもない。姿勢制御、バランス、関節制御、センサー処理、リアルタイム計算、転倒回避、バッテリー、軽量化、機械強度。これを全部同時に成立させないと8秒台は出ない。自動車メーカーがモータースポーツで技術を鍛えるのと同じで、陸上競技は身体性能の極限テストなんですね。
それでも、走れるロボットと働けるロボットはまったく別物。ここを混同した記事が多すぎる。時速300キロを超えるレースカーと大量輸送のトラックは別ものだが、共通する技術革新はたくさんある。
中国がヒューマノイドを国家的な重点産業にしている理由は、技術競争だけじゃない。中国自身が少子化と高齢化に直面しているからです。かつて最大の武器だった「巨大で安い労働力」は永久には続かない。だから中国にとってロボットは、次世代の輸出産業であると同時に、自国の人口減を埋める労働力でもある。日本と動機がけっこう似ているのが面白いところ。
金額の話。Reutersが2025年5月に出した記事によると、直近1年間だけでヒューマノイド関連に200億ドル超の政府支援が割り当てられたとされる。1ドル150円なら約3兆円。ただしこれはReutersが公式発表を独自に集計したもので、内訳も積算根拠も公開されていない。一次資料に遡れない数字だという点は正直に書いておきます。
よく「中国はAI・ロボットに1兆元=20兆円出す」と紹介されるファンドもある。これは国家創業投資引導基金のことで、2025年3月に国家発展改革委員会が発表、同年12月に正式始動した。ただし中央政府の出資は約1,000億元で、1兆元というのは「地方政府と民間資本を呼び込んで最終的に1兆元近くを動かす」というレバレッジ後の目標値です。しかも対象はAI・量子・水素・バイオ製造・6Gなど先端技術全般。ヒューマノイド専用の20兆円ではまったくない。ここを盛って書いてる記事、多いですよね。
地方政府はもっと生々しい。深圳は2025年2月に100億元(約2,000億円)のAI・ロボティクス産業基金を発表。北京は2023年8月に100億元規模のロボット産業基金と、1社あたり最大3,000万元の技術支援。武漢に至っては2025年6月の正式版で、完成品メーカーへの支援上限を最高6,000万元まで引き上げた。
中央政府+地方政府+政府系ファンド+政府調達+国有企業+民間VC+巨大IT企業。この重ね掛けなので、「国家予算いくら」だけ見ても全体像は絶対に出てこない。
中国の産業政策が本当に強いのは、補助金を配ることじゃない。政府自身が買うことです。
Reutersが数百件の入札文書を精査した集計では、政府によるヒューマノイドおよび関連技術の調達額は、2023年の470万元から2024年に2億1,400万元へ増えた。約45倍。さらに中国の業界団体の報告では、2025年の公開調達は292件・18億1,000万元超まで膨らんでいる(集計範囲が違うので単純比較はできませんが)。
新産業でいちばん難しいのは最初の顧客を見つけることです。そこを政府・自治体・国有企業が買う。売上が立つ→生産量が増える→単価が下がる→現場データが集まる→性能が上がる。
EVと太陽光パネルでやったことと、まったく同じ。もう手口が確立されている。政府が購入してくれるなら最初から多額の投資ができて大量生産ができる。日本の骨太は金を広範囲に役所の希望通りに薄くばら撒くだけ。総額は莫大だが成果が出るわけがない。
高工機器人産業研究所(GGII)によると、中国国内のヒューマノイド出荷台数は2024年が2,400台、2025年が約1万8,000台。1年で7.5倍。2026年は6万2,500台という予測が出ています。

ここで正直に書いておきたいことがあって、この業界の数字は出所によって恐ろしくブレます。
2026年上半期の中国出荷は、中国人形機器人与具身智能百人会の報告では「4万台超」。業界団体HRAAでは「3万台超」。一方でSmart Analytics Global(SAG)の推計では「約1万8,500台」。2倍以上の開きがある。
よくネットで見る「中国が世界シェア97%」という数字はSAGのもので、SAGの世界総出荷は約1万9,100台。つまり「中国が4万台」と「世界シェア97%」を同じ文の中で並べると、算数が破綻する。並べて書いてある記事は疑ってください。ちなみにSAG推計のメーカー別では智元(AgiBot)が約8,400台で首位、Unitreeが約5,900台で2位です。
それに出荷台数の多くは、まだ研究・教育・実験・データ収集用。人間の代わりに働いている台数ではない。ただし本当のポイントはそこじゃなくて、中国企業が他国より先に量産の経験値を積んでいるという一点。これが後で効いてくる。
中国の代表的メーカーであるUnitree(宇樹科技)は、2026年8月19日に上海STAR市場(科創板)へ上場した。発行価格150.80元、調達額は約60億9,900万元=約9億ドル。
初値は1,100元。発行価格の6.3倍で、この時点の時価総額が約4,449億元=約660億ドル(約9.9兆円)。終値は845元まで落ち着いて、時価総額約3,418億元=約506億ドル。ロボットメーカー1社にこれだけの資本が集まっている。
しかもDeepSeekがこのIPOに1億4,076万元(約2,080万ドル)を出資している。狙いは明確で、AI+ロボット、いわゆるフィジカルAIです。テンセント傘下や中信証券も戦略投資家として入っている。
EVメーカーも一斉に入ってきた。Xpeng(小鵬)のロボット部門は2026年8月24日、初回ラウンドだけで9億ドル超を調達。ポストマネー評価額は63億ドル超。中国のエンボディドAI業界で単一ラウンド最大の民間調達だそうです。人型ロボット「IRON」は2026年末に量産入り、2027年に正式発売・納車という計画。何小鵬CEOは3月の決算説明会で「年末の月産能目標は1,000台超」と言っており、8月の決算電話会議では「2027年に月産数千台まで引き上げる」と述べている。
奇瑞(Chery)系のAiMOGAも、2025年1月設立ながらすでに3,000台超を納入。うち約2,000台は60カ国・地域以上の海外市場へ。2027年は1万台が目標で、IPO準備にも入っている(Reuters独占、2026年8月19日)。
なぜ自動車会社が一斉にロボットへ入るのか。答えは簡単で、EVとヒューマノイドは部品と技術がほぼ共通だからです。バッテリー、モーター、インバーター、パワエレ、カメラ、センサー、精密加工、AI制御、そして大量生産設備。
つまり中国は、EVで作り上げた巨大な産業基盤をそのままロボットに転用できる。ここが一番怖い。
ヒューマノイドの議論では「人間と同じことが100%できるのはいつか」と考えがち。でも経済的にはもっと重要な問いがあります。
人間の仕事の30〜50%しかできない安いロボットが、いつ大量投入されるか。
工場なら、部品を持つ→5メートル歩く→機械にセットする→元の位置に戻る。これを一日中繰り返せればいい。雑談する必要も、料理を作る必要もない。床は平らで照明も一定、物の置き場所は固定。工場と物流がロボットにとって最高に都合がいい環境なのは、そういう理由です。
では、いくらなら安いのか。いま中国では研究・教育向けなら100万円台後半〜200万円前後のヒューマノイドも存在する。ただし200万円=人間1人を代替できる、ではまったくない。実用機は本体のほかにAI、ソフトウェア、保守、現場設定、通信、周辺設備が要る。
それでも量産が進めば、2030年前後に300万〜500万円、2035年前後に150万〜300万円という価格帯は十分あり得ると思っています(ここはわたしの見立てで、根拠のある予測ではありません)。ここまで下がると、人間との比較が始まる。

300万円のロボットを5年使うと、本体だけなら年60万円。保守・修理・AI・電気・保険・ソフト込みで年間160万円かかるとして、年4,800時間働けば1時間あたり約333円。
もちろん乱暴な単純計算です。でも人間側には給与のほかに社会保険、採用費、教育費、有給、夜勤手当、管理費が乗る。300万〜500万円でそこそこ働けるロボットが出てきた瞬間、「人を採るか、ロボットを買うか」の比較が現実に始まる。
そして本当の指標は価格そのものじゃない。ロボット価格 ÷ できる仕事の種類です。100万円でも1作業しかできなければ用途は限られる。500万円でも掃除・運搬・配膳・品出し・簡単な組み立て・積み下ろしまでできれば価値は大きい。この数字が急に下がった瞬間、普及が一気に加速する。
建設現場は工場と正反対です。元ヤンの新人の見習いですら、車を運転し、荷物を積み降ろし、建材を運び、階段を上り、工具を使い、組み立て、掃除し、ゴミを分別し、親方の指示を聞く。しかも現場は毎日変わる。資材の置き場所も天候も違う。段差があってコードがあってトラックが来る。
親方が「この石膏ボードを2階に持っていって、田中さんに置き場所を聞いて、帰りにゴミを持ってきて」と言う。人間なら普通にできる。ロボットは、認識→持ち方の判断→人を避ける→階段→田中さんを探す→会話→理解→設置→ゴミ識別→回収、と多段処理になる。
おまけに建設現場は99%成功でも危険。100回に1回でも建材を人の上に落とすロボットは使えません。
飲食も同じ。高校生のバイトでも、開店、掃除、注文、配膳、ビール、簡単な調理、下げ膳、洗い物、客の質問、こぼした水を拭く、箸を落とした客に新しいのを渡す。これを全部同時進行でやる。運んでる途中に「ビールもう一杯」と言われ、別の客が箸を落とし、子供が通路に飛び出し、厨房から指示が飛ぶ。人間は瞬間的に優先順位を組み替える。この能力、めちゃくちゃ高度です。
だから「ロボットが料理を運んだ」と「ロボットが店員になれる」の間には、とんでもない距離がある。1つの定型作業と、店全体を見ながら複数業務を切り替えることは別物。
ただし飲食店の省人化に、万能ロボットの完成を待つ必要はまったくない。注文はタブレット、会計はセルフ、配膳は配膳ロボット、床は清掃ロボット、洗い物は業務用食洗機、電話はAI、簡単な調理は自動調理機。分解して機械化すれば、人間5人→人間2人+複数の機械にできる。
で、ここで容赦ない構造が出てきます。大手チェーンが圧倒的に有利。1,000店舗で同じ厨房、同じメニュー、同じPOS、同じ動線。一度システムを作れば全国展開できる。開発費10億円でも1,000店舗なら1店舗100万円です。
一方、個人の焼き鳥屋やラーメン店は厨房もメニューもテーブル配置も作業順も店主のやり方も全部違う。ロボットにとって最悪の環境。しかも仮に300万円まで下がっても、設定・保守・修理・ソフト・店内改装が要る。専任のIT担当者なんているわけがない。
そこで効いてくるのがRaaS(Robot as a Service)。500万円で買うのではなく月5万〜15万円で借りる。本体もAIも保守も交換もアップデートもメーカー持ち。そうすると経営者は「バイト1人=月25万円」対「ロボット=月10万円」で比較できる。普及のハードルは一気に下がります。
それでも経営者が高齢で対応できない小規模店は導入しないか、遅れる。その間に人手不足で時給が1,200円→1,800円→2,500円と上がっていったとき、差はどんどん開く。現在ファミレス1,000円・個人店1,500円だったものが、将来は高度に自動化されたチェーンが1,200円、人間が調理・接客する個人店が2,500円みたいな世界になり得る。チェーンの価格が下がるというより、人件費が上がっても値上げを抑えられるということです。つまり高齢経営者の小規模飲食店はことごとく消えてなくなります。
これ、製造業とまったく同じ構図。大量生産品は安く、職人の手作りは高い。サービス業でも「人間がやること自体が付加価値」になる。焼き鳥、寿司、割烹、バーは生き残る。一番危ないのは安いだけの小規模店です。
製造・建設・飲食以上に、日本でロボット化が必要になるのが介護です。そして介護は飲食よりはるかに難しい。皿を落として数千円で済む世界と、高齢者をベッドから車いすへ移す途中で失敗して骨折・頭部外傷・死亡事故になり得る世界では、要求される安全性が桁違い。
介護士の仕事は朝のミーティングに始まり、起床介助、移乗、トイレ介助、オムツ交換、入浴、着替え、食事介助、配膳、服薬確認、夜間巡回、転倒防止、認知症対応、家族との連絡、介護記録、体調変化の発見。力仕事+判断+コミュニケーションを同時に要求される。1台で全部やるのは無理筋です。
だから国の方針も「万能介護ロボット」ではなく分解して自動化。厚労省・経産省は2024年6月に重点分野を改訂し、名称も「介護テクノロジー利用の重点分野」に変わって9分野16項目になりました(2025年4月から運用開始)。移乗支援、移動支援、排泄支援、見守り・コミュニケーション、入浴支援、介護業務支援、機能訓練支援、食事・栄養管理支援、認知症生活支援・認知症ケア支援。
いちばん早く採算が合うのは夜間の見守りです。従来は夜勤職員が施設内を歩いて全部屋を確認していた。それをベッドセンサー・赤外線・カメラ・呼吸センサー・離床センサーに置き換えると、異常のある部屋だけ見に行けばよくなる。
厚労省の実証事業では、見守り機器を全床(100%)導入した施設で、夜勤職員1人当たりの対応可能利用者数の増加割合が平均134.0%(=約34%増)。業務時間側も、導入率100%を相関式に当てはめると約26.2%減と推計されています(令和2年度「介護ロボットの導入支援及び導入効果実証研究事業」報告書)。令和6年度の別の実証では、老健で見守り機器を100%導入した場合に巡回移動時間が33.3%減という推計も出ている。
100床の施設で夜間巡回に合計20時間使っていたとして、25%削れば毎晩5時間。年間1,825時間。事業者負担込みの労働コストを時給2,000円と置けば年間約365万円分です。見守りシステムに数百万円かけても、数年で回収できる可能性がある。単純計算ではありますが。
次に効くのが移乗支援。介護士の腰痛の主因です。株式会社FUJIの「Hug」シリーズはすでに実用化されていて、公式価格は在宅向けHug L1-02が103万円、施設・病院向けHug T1-02が108万円、入浴支援の防水型Hug L1WPが168万円(いずれも非課税)。累計で約5,500台が出ている。
100万円と聞くと高い。でも介護士1人の年収350万円でも事業者負担は400万円超。100万円の機械を5年使えば年20万円です。しかも目的は職員を1人クビにすることじゃない。二人介助を一人にする、腰痛を減らす、離職を防ぐ。これだけで十分に価値がある。
さらに在宅なら介護保険レンタルが使える。テクノエイド協会のデータでは、Hugの貸与価格は最頻月27,000円。1割負担なら月2,700円程度(事業所により異なります)。施設向けにも補助金があって、令和8年度の「介護テクノロジー定着支援事業」では移乗支援・入浴支援・インカム等が1台あたり上限100万円、補助率4/5。ICT等をまとめて入れるパッケージ型は400万〜1,000万円の範囲で都道府県が設定。100万円の機械が実質20万円台になるケースもあり得る。ここまで来ると費用対効果はかなり良い。
つまり介護業界を最初に変えるのは二足歩行ヒューマノイドじゃない。見守りセンサー+AIカメラ+スマホ+記録AI+移乗支援装置+車輪型の搬送ロボットです。リネン、食事、薬、洗濯物、ゴミの運搬なんて人型である必要がゼロ。車輪のほうが安くて安定して省電力。
それでも長期的には人型が要る。理由は単純で、住宅も介護施設も人間用に作られているから。ドアノブ、ベッド、トイレ、浴室、服、食器、階段、車いす。全部が人間の手足を前提にしている。設備を全部作り替えるより、人間と同じ手足を持つロボットに既存設備を使わせるほうが安いことがある。
ただし入浴と排泄の完全自動化はかなり先。水、滑り、裸の人体、安全性が同時に絡む。排泄はさらに羞恥心、尊厳、拒否、認知症という人間的問題まで乗る。認知症の方が「会社へ行かないと遅刻する」と言ったとき、介護士は「あなたは退職しています」と正論を返したりしない。性格と記憶を理解して安心させ、会話を別方向へ持っていく。生成AIが会話相手になれることと、安全な認知症介護ができることはまったく別です。
現実的な着地は「介護士10人→ロボット10台」ではなく、「介護士10人→介護士7〜8人+複数の機械」。見守りで夜勤負担を削り、移乗で二人介助を減らし、搬送で物を運び、記録AIで事務を減らし、清掃ロボで掃除を減らす。それぞれ10〜30%ずつ削っていく。これが最初の介護ロボット革命の姿だと思う。そして浮いた時間を、会話・判断・家族対応・終末期ケア・体調の微妙な変化といった人間にしかできない仕事に回す。ロボットは介護士の価値を下げるんじゃない。上げる方向にしか使えない。

ここから日本の話。
令和4年版厚生労働白書によると、20〜64歳人口は2020年の6,938万人から2040年には5,543万人まで減る。20年で約1,400万人減です。東京都の人口とほぼ同じ規模の働き盛りが消える(この推計は平成29年推計ベースなので、最新の令和5年推計だともう少し緩やかになる可能性はあります)。
労働力人口そのものも減る。JILPT「2023年度版 労働力需給の推計」では、2040年の労働力人口は成長実現・労働参加進展シナリオで6,791万人、成長率ベースライン・労働参加漸進シナリオで6,536万人、一人当たりゼロ成長・労働参加現状シナリオで6,002万人。基準年2022年の6,902万人と比べると、悪いシナリオでは900万人減です。
そしてリクルートワークス研究所「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」(2023年3月28日)の推計。2030年に341.5万人、2040年に1,100.4万人の労働供給不足。これは単なる人口減の話じゃなくて、必要な仕事量に対して働く人が1,100万人分足りないという意味です。

一方、政府は2026年3月26日に「AIロボティクス戦略」を決定した(AIロボティクスに関する関係府省連絡会議)。そこに書いてあるのが「2040年までに1,000万台規模のAIロボットを国内に導入する」。対象は製造業、造船、物流、建設・土木、建築、インフラ保守、小売、宿泊、飲食・食品製造、医療、介護、警備、農業、林業、廃棄物処理、災害対応、警察活動、防衛の18分野。
労働供給不足1,100万人、ロボット導入目標1,000万台。1台=1人分ではないにせよ、桁が同じというのは象徴的すぎる。
外国人で埋まるかというと、埋まらない。JILPTの推計では外国人労働力人口は2020年の約180万人から2040年に414万〜453万人。2倍以上に増やしてもまるで足りない。
とどめが医療・福祉です。令和4年版厚生労働白書によると、2040年に必要な就業者数1,070万人に対し、確保できるのは974万人。差は約96万人。医療・介護だけで100万人足りない。だから介護ロボットは「未来の便利商品」じゃなくて、社会保障制度を維持するためのインフラになる。
悲観だけしても仕方ないので、日本側の数字も。
経済産業省の令和8年度当初予算には、「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」に3,873億円(新規)が計上された。これは国内AI関連事業としては最大級です。2026年6月にはNEDO経由の委託先としてNoetraと産総研が採択され、2026〜2030年度の事業として動き出している。
NEDOも「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の枠で、ロボティクス分野の生成AI基盤モデル向けデータプラットフォームに2025〜2029年度で205億円。委託予定先はAIロボット協会(AIRoA)。
産業基盤も弱くない。日本ロボット工業会の統計では、2025年のロボット受注額は1兆456億円(前年比+25.7%)、生産額9,453億円(同+21.0%)。どちらも3年ぶりの増加です。
ただしここ、正直に書きます。この数字は輸出を含む総額で、国内向け出荷は2,041億円、前年比▲10.8%と減っている。「日本のロボット産業は好調」と書くのは簡単だけど、国内では売れていない。ここを飛ばして「日本も伸びてます」と言うのは、ちょっと違うと思うわけです。
企業単体では、ファナックが2023年8月に産業用ロボット累計出荷100万台を達成。主力のR-2000シリーズだけで35万台以上。2025年12月の国際ロボット展以降、2026年5月13日時点でフィジカルAI関連に1,000台以上を出荷したと発表しています。安川電機のMOTOMANも2021年2月に累計50万台を達成済み(その後の更新値は公表されていません)。
ロボットを大量生産して世界中で何十年も動かし続けた経験は、日本にしかない資産です。勝負は終わっていない。
日本が負けるとしたら、人型汎用ロボットを安く大量生産する速度です。ここだけ差がついている。
AIロボットでは台数そのものが競争力になる。100万台が働けば100万台分の現場データが集まる。1台が新しい作業を覚える→クラウドへ送る→AIモデルを改善→100万台へ配信。人間の熟練工の経験を翌日に100万人へコピーすることはできませんが、ロボットならできる。
台数が多い→データが多い→AIが賢くなる→商品価値が上がる→さらに売れる→さらに安くなる。スマートフォン以上に先行者が強くなる産業かもしれない。だから初期シェアが致命的に重要なんです。
さて2040年。政府目標は1,000万台。労働供給不足は1,100万人超。もしそのうち500万台が中国製だったらどうなるか。
1台0.5人分なら250万人分。1台1人分なら500万人分。これは輸入機械の話じゃなくて、外国から労働力を輸入するのとほぼ同じです。しかも相手は中国。データは中国のクラウドサーバに送られます。
レアアースは材料でした。しかしロボットは、モーター、永久磁石、バッテリー、センサー、AI、OS、クラウド、ソフトウェア、交換部品、学習データまでがセット。中国が新規輸出停止、部品供給停止、クラウド停止、AIアップデート停止をやれば、ロボットが買えないどころか、日本の労働供給能力そのものが落ちる。
しかもヒューマノイドは歩き回る巨大なIoT端末です。カメラ、マイク、位置情報、深度センサー、力覚センサーを積んで、工場、倉庫、病院、介護施設、建設現場、そして家庭の中を移動する。工場なら生産工程・新製品・生産量・設備が見える。介護なら顔、声、健康状態、服薬、排泄、睡眠、会話まで見える。最も機微な個人データを集める機械になる。
そして従来のIoT機器との決定的な違いは、ロボットには身体があること。物を持ち、扉を開け、人を支え、機械を操作する。サイバー攻撃を受けたとき、情報が抜かれるだけでなく物理的な行動に影響が出る。重要インフラなら、これは完全に安全保障の問題です。頭の足りない首相が中国にイキった発言して全ロボットが停止したらすべての産業や医療、介護が停止する。核兵器より怖い。
じゃあ中国製を全部禁止しろという話かというと、それは違う。中国製250万円・日本製500万円なら、人手不足で苦しんでいる企業は安いほうを選びます。当たり前です。
重要なのは依存度を管理すること。分野ごとにルールを変えればいい。
防衛 → 国内製
原発 → 国内・同盟国製
介護・医療 → 厳格なデータ基準
工場 → データ国内保存が条件
一般小売 → 中国製も普通に使う
供給源も分散すべきです。日本30%、米国20%、韓国・欧州30%、中国20%なら、一国に止められても社会全体は止まらない。中国製80%になったら話は別。
石油はエネルギーを外国に依存する問題でした。半導体は計算能力を依存する問題。そしてロボットは労働能力を依存する問題になる。将来はエネルギー自給率と同じように、ロボット労働力の対外依存度という指標が要るようになるかもしれない。
あと、ロボットが進歩すると必ず「もう外国人労働者はいらない」という議論が出てきます。2030年代ではまだ無理。工場の単純作業は早く自動化できても、建設・飲食・ホテル・介護・農業は複雑すぎる。日本は長期間、日本人+外国人+AI+ロボットの全部乗せでやるしかない。
生成AIはChatGPT以前にも存在した。でも「普通の日本語で頼めば、いろいろやってくれる」ようになった瞬間に爆発した。ロボットでも同じことが起きる可能性がある。個別プログラムじゃなく「今日は店を手伝って」「倉庫の整理をして」「○○さんを朝食へ連れてきて」で通じる世界。
Unitreeの王興興CEOは2026年8月20日、北京の世界ロボット大会で「われわれはエンボディド・インテリジェンスのChatGPTモーメントに向かって行進している」と述べ、その到来を「楽観シナリオなら2〜3年、遅くとも5〜10年」と予想した。彼の定義する転換点は、見知らぬ家庭に置かれたロボットが、音声かテキストの指示だけで日常タスクの約80%をこなせる状態です。
同時に彼は「AIによる意思決定が業界最大のボトルネックで、フィジカルAIモデルの実応用ではUnitreeは出遅れている」とも言っている。上場翌日に自社の弱点を言う経営者、けっこう信用できると思うんですけどね。
普及の順番は、おそらくこう。2026〜2030年に製造・物流・研究の定型作業。2030〜2035年にスーパー、大手飲食、ホテル、食品工場。2035〜2040年に建設、医療補助、介護、複雑なサービス。2040年代に小規模事業者と家庭。(ここはわたしの見立てです)
アメリカでは「ロボットが仕事を奪う」が大問題になる。日本は違います。2040年に1,100万人分足りないんだから、導入初期は「人を解雇してロボットにする」より「人が採れないからロボットを入れる」ケースのほうが圧倒的に多い。
むしろ賃金上昇がロボット普及を加速させる。時給1,000円なら300万円のロボットは高い。時給2,500円なら一気に採算が合う。人手不足→賃金上昇→ロボット投資の採算改善→導入増→大量生産→価格低下→さらに導入増。この循環はもう始まっている。
だから中国のロボット陸上競技で本当に見るべきなのは、100mのタイムじゃない。
2030年代に中国が200万〜300万円の汎用ロボットを何百万台作れるのか。そして2040年に1,100万人分の労働供給不足に直面する日本が、そのロボットをどこの国から買うのか。
必要なのは「中国製を禁止するか」という単純な議論じゃなくて、中国が供給を止めても日本社会が止まらないロボット供給網です。調達先を日本・米国・韓国・台湾・欧州へ分散する。重要インフラは国産・同盟国製。AIとOSを一国に依存しない。データは国内保存。クラウドが止まっても最低限動く設計にする。重要部品を複数国で確保する。
つまりロボット版のエネルギー安全保障。これを2030年代に入る前に設計しておかないと、2040年に慌てても遅い。産業競争は、その前に決着がついているからです。
本稿の数値は各社・各省庁の一次資料および元報道に当たって確認しています。ただし中国のヒューマノイド出荷台数は推計主体によって2倍以上の開きがあり、Reutersの政府支援額・調達額は同社の独自集計で原データが公開されていません。日本の20〜64歳人口の推計は平成29年推計ベースです。それぞれ本文中に明記しました。
ヒューマノイドロボットの基礎理論を、第一線の研究者がまとめた名著の改訂版。昨今の災害等により見えてきた課題を踏まえたその後の研究開発を大幅増補。
本書は、ヒューマノイドロボットの基礎理論を、第一線の研究者がまとめた名著の改訂版です。昨今の災害等により見えてきた課題を踏まえたその後の研究開発を100ページ近くにわたって大幅増補するとともに、今後の予測される動向を踏まえて、内容の再整理を行っています。
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年8月26の記事より転載させていただきました。









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