三沢基地に所属する米軍のF16戦闘機が中東に展開し、イラン攻撃に参加したと報じられている。日本から直接攻撃に出撃したわけではないため、政府は事前協議の対象外と説明する可能性が高い。しかし、本当にそれだけで済む問題だろうか。これをイランのアラグチ外相が問題提起したため、SNSであらためて話題になっている。

三沢基地に待機中のF16戦闘機 Wikipediaより
私自身は、1960年の現行日米安全保障条約成立時の政府答弁の内容からすれば、事前協議制度の対象になるはずだ、と考えている。特定の戦争への投入を予定した部隊展開まで「移動」として対象外にできるなら、事前協議制度には何が残るのか。ただし、もちろん事前協議は行われていない。
事前協議制度とは、在日米軍の配置における重要な変更、在日米軍の装備における重要な変更、あるいは日本から行われる戦闘作戦行動のための在日米軍基地の使用の場合に、事前にアメリカが日本と協議し、日本側の意向を確認する制度である。ただし、日本防衛のための日米安保条約第5条に基づく行動は除外される。在日米軍が日本防衛のために使用されるのは当然であり、協議の必要がないと想定されているためである。
事前協議がないまま、アメリカが日本領土内の米軍基地を攻撃に使用すると、日本が知らないまま、日本領土が被攻撃国による正当な攻撃の対象になり得るからだ。今回のようにアメリカによる攻撃の合法性に重大な疑義がある場合、日本が関知しないまま、日本領土内の米軍基地が報復攻撃の対象とされる危険が生じる。日本がどの程度まで米国の軍事行動に関与したと評価されるかという、深刻な国際法上の問題も生じ得る。
したがって、事前協議制度には、主権国家としての日本の存立に影響する実質的な意味がある。イタリアなど一部の欧州同盟国が、自国領域内の米軍基地について、個別の作戦への使用を許可、制限、あるいは拒否できるのは、受入国政府の同意を実質的に必要とする運用がなされているためである。
過去にも、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争において、在日米軍基地は輸送・補給・部隊移動などに使われた。いずれの場合も、日本政府は、直接の「戦闘作戦行動のための発進」には当たらないという説明によって、事前協議制度の適用対象外であるとの立場をとってきた。
これは、安保闘争を引き起こした激しい反対運動もあった1960年当時の日米安保条約に関する説明と、完全に一致しているようには思えない。形式的には当時の政府答弁の枠内にあるとしても、特定の戦争への投入を目的として部隊を日本から展開させ、それを単なる「移動」と位置づける運用が、当時国民に説明された事前協議制度の実質的な趣旨に合致するかは疑わしい。
もっとも、当時からアメリカとの間で「密約」が取り交わされていたとも言われる。
岸信介首相、日米密約を主導 米大使に「熟考尽くす」 米公文書発見 朝日新聞

1972年の沖縄返還時にも、基地の自由使用は大きな議題となった。このときにも「密約」が交わされた。後に佐藤栄作元首相の私邸で発見された「密約」の内容が、日本政府の認める「公式の密約」なのか、あるいはそうではない別のものなのかについては、論争があった。文書自体は実在するが、それが日本政府を法的・政治的に拘束する政府間合意、すなわち「密約」に当たるかについて論争があった。政府は、「公式の密約」ではないので、密約は存在しない、という立場をとっている。沖縄返還交渉で佐藤首相の秘密特使を務めた若泉敬氏は、著書を遺して自死した。
佐藤首相は「本土並みの沖縄返還」と説明した。しかし実際には、本土側の他の在日米軍基地も、返還前の沖縄の米軍基地と同じように、ますます自由に使用されるようになった。そのため、「本土並みの沖縄返還」は、実際には「本土の沖縄化」を意味していた、とも揶揄される。
結果として、1960年の新日米安保条約の成立以降、事前協議制度が実施されたことは一度もない。「骨抜き」になっているとも言われるが、ほとんど「死文化」している状態だとも言えるだろう。
米軍は、作戦行動について日本側に協議を提案しないのはもちろん、通知すらしない。日本側も、それをあえて問題視することはない。万が一、後になって在日米軍が攻撃作戦に従事していたことが明らかになれば、あらゆる手段を尽くして、事前協議制度の対象ではないと主張する――という段取りだけは決まっている。

高市首相とトランプ大統領(日米両首脳による米海軍横須賀基地訪問 2026年10月28日)首相官邸HPより
アメリカによられる在日米軍基地の自由使用は、在日米軍基地が日本領土内にありながら、日本政府による実効的な統制がほとんど不可能なまでに制約された領域になっていることを意味する。これは、少なくとも、政府や議会が個別作戦への基地使用を現実に許可・拒否した実例を持つ欧州の同盟国と比較すると、際立っている。イタリアなど一部の欧州同盟国が、自国領域内の米軍基地について、個別の作戦への使用を許可、制限、あるいは拒否できるのは、受入国政府の同意を実質的に必要とする運用がなされているためである。
イギリスでは、米軍による基地使用は、英政府との共同決定・個別承認が原則である。米国が正式に使用許可を求め、英首相が可否を判断した実例がある。イタリアでは、米軍基地はイタリア側の主権・指揮権の下にあり、作戦での使用には政府の承認が必要となっている。実際にイタリア政府が、アメリカによる米軍基地の使用を許可・制限・拒否した例がある。ドイツでは、アメリカ側の裁量が大きいと言われるが、ドイツ政府は、基地の使用に異議を唱えたり、停止を求めたりすることができる。トルコでも、米軍の展開・戦闘作戦には政府、あるいは議会の承認が必要であるため、2003年に議会が、イラク侵攻のための領土・基地使用を拒否した事例がある。
アメリカ側は、在日米軍基地は実態として自由に使用できる、という認識を持っているのだろう。イラン攻撃それ自体も小さな問題とは言えないが、このような理解が習慣的に確立されていることによって生じる将来的な影響も、決して軽視することはできないと思われる。
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