ネパールと中国の関係は意外にも蜜月である

ネパールの氷河崩落で、嫌中派の人たちは、上流の中国の水力発電所とかメガソーラーのために起きた事故のように騒いでいるが、崩落した氷河はネパール側だし、中国側の人口はこの地域には観光業者と国境管理関係者以外にそれほどいない。

後で詳しく説明するが、トリシュリ川(吉隆蔵布)の上流に難路を25kmほど行くと、少し開けて吉隆鎮などの都市があるが、人口はせいぜい数千人であり、大規模な開発が行われている地域ではないから濡れ衣である。

ネパール土石流のようす Wikipediaより

ネパール外交の最大目標は「インドに呑み込まれないこと」

また、ネパールはインドに近く、アーリア人やヒンドゥー教徒が多いので、インドと親密な国だと誤解している人がいるが、実際にはインドに呑み込まれないようにするのが最大の外交目標であり、かつては英国と、現在は中国に接近してバランスをとっている。


『国家の興亡史からわかる現代地政学――西欧の衰退』(清談社)

ネパールはかつては王制だったが、皇太子がインド人との結婚に反対されて、ビレンドラ国王をはじめ一族を皆殺しにした。生き残った国王の弟が即位したが、評判が悪くて王制廃止になったほどだ。


『英国王室と日本人:華麗なるロイヤルファミリーの物語』(小学館)

中国との関係を深めるネパール

一帯一路にも参加しているし、青蔵鉄道の延伸をインド依存を下げる決め手として熱望している。ただ、あまりにも費用が大きく、中国側の援助や借款に頼らざるを得ないので思案中なのである。

そもそもネパールの人口は、だいたい6割がアーリア系、4割がチベットなどのモンゴロイドだ。ネパール生まれの釈尊もモンゴル系という人もいる(日本でだけ人気のある説で、インドは強く否定しているが)。ネパールの国家としての最大目標はインドに呑み込まれないことだ。

習近平主席とシャルマ・オリ ネパール前首相 中国共産党新聞より

圧倒的に強い隣国インドにさまざまな面で頼っているなかで、独立を保つためにどこの国とでも仲良くしたい。英国にもグルカ兵を提供するなどして親密だったので独立を保てた。そして、いまは中国と組むことでインドを牽制している。幸い、ネパールと中国には大きな国境紛争もない(小規模な牧草地などの紛争はあるが)。

ネパールのバレンドラ・シャハ首相(中央) 同首相Xより

ラサとカトマンズを結ぶ鉄道計画

最大のプロジェクトが、ラサから吉隆経由でカトマンズへ至る鉄道計画だ。中国チベット自治区のシガツェからヒマラヤ山脈のキドン・ラスワ国境(まさに今回の被災地である)を経て、ネパールの首都カトマンズに至る。距離は約630kmで、このうちネパール内は約70km。

中国はすでに青海省からラサまでの青蔵鉄道を完成させ、ラサから西のシガツェまでも開通した。しかし、このルートは時間がかかるので、成都と結ぶ川蔵鉄道が着工している。これをシガツェから吉隆まで延ばすことは莫大な費用がかかるが、さらに、ネパール側でカトマンズまでの鉄道工事を行うのはネパールにとってたいへんで、中国から借りるしかないが、債務の罠も警戒している。2017年には中国とネパールが鉄道計画を含む一帯一路の協定を締結したが、今回の事故はこの鉄道が通るルートだったので影響は大きい。しかし、復興を通じて絆は深まるだろう。

カトマンズからインドのラスクルまでの鉄道も計画はあるが、目途は立っていないのである。カトマンズは深い渓谷の奥にあるので、こちらも難工事なのである。

氷河崩落はネパール側で中国の開発とは関係ない

現場付近の地形と国境は複雑だ。トリシュリ川(吉隆蔵布)は、下流から吉隆・ラスワガディ国境検問所付近までは北に進む。ここで本流は北西に進み、これも国境だが、東側は北東に進むレンデ川(東林蔵布)に向かう。

つまり、中国側の吉隆口国境検問所は、ちょうど京都の出町柳の鴨川と高野川の合流点のように、Y字のような地形の三角形の頂点のような形でネパール側に突き出している。この合流地点からしばらくは険しい渓谷なので、中国側の人口はほとんどいないが、かなり上流には、東林蔵布(レンデ川)では普蘭という村などに1000人ほど、トリシュリ川(吉隆蔵布)側には25km先に吉隆鎮(ジロン)という町もあって、こちらの流域の人口は数千人ほどだ。

氷河が崩壊したのは、この合流地点からレンデ川を少し上流に行ったネパール側だが、合流地点までの人口はあまり多くないので、死者は合流点の両国の検問所付近とネパール側の下流である。

中国が多くの死者を隠しているという噂もあるが、このあたりは国境検問所関係者と観光業者しかいないので、行方不明が数百人というのは、それほど極端な過小評価ではないと思う。また、写真で見る限り、合流点付近は一気に流されているので、死者の発見も難航しているのではないか。


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