米人工知能(AI)企業アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)、米オープンAIのサム・アルトマンCEO、そして米実業家イーロン・マスク氏は12日までに、「私たちはAIモデルの能力向上のペースを遅らせなければならない」と述べ、AIの開発の減速を呼び掛けた。その提案の発足人アモデイ氏は「AIが自ら改善していく能力を高めてきた。AIがより高い能力を持っていけば壊滅的な被害をもたらす危険性が出てくる」と指摘、「6~12カ月後にはAIがインターネット全体を乗っ取る能力を獲得するのではないかと懸念している」と警鐘を鳴らしている。

アンソロピック社創設者のダリオ・アモディ氏、ウィキぺディアから
上記のニュースは、戒めを破った人類が命の木への道に行かないように、神が「ケルビムと回る炎の剣」を置いてそれを防いだ、という旧約聖書「創世記」の話とどうしても重なってくる。AIはもはや人類の道具ではなく、人間の指示や介入がなくても、自ら学習し、判断し、新しいアイデアや行動を生み出すエージェントといわれる。AIの進化が今後も継続されていくと、AIの能力が地球上の全人類の知性を超え、人間の手では制御や予測ができなくなり、社会や人類のあり方が根本から覆る転換点(シンギュラリティ(Singularity / 技術的特異点)が到来する。AI開発に深く精通してきたパイオニアの警告だけに深刻に受け取らざるを得ない。
アモディ氏の「開発の減速」案について、トランプ米大統領は13日、訪問先のアイルランドで記者団に否定的な見方を示している。トランプ氏は「AIを制する者が勝者となる」として、中国との覇権争いで主導権を維持すべきだと強調し、AI開発で最大のライバル、中国への警戒心を吐露している。
トランプ氏の見解はある意味で当然だろう。ビジネス界出身の同氏にとって、自身の有利な条件を自ら放棄するようなことは考えられないからだ。また、アンソロピック社やオープンAI社が自己規制して開発を減速したとしても中国のAI企業、Alibaba、Moonshot AI、DeepSeekなどがその規制を同じように遵守するという保証はないからだ。ライバル社に開発の時間を与えるだけだ、という意見が出てくることになる。
ところで、「創世記」にはもう一つの興味深い話がある。神のようになろうと考えた傲慢な人間が天に届くような高い塔を造り出した。それを知った神は人間の言語を混乱させ、相互に意思疎通できないようにしたという「バベルの塔」の話だ。
ここでいう「言語の混乱」とは何を意味するのだろうか。新約聖書「ヨハネによる福音書」第1章1~3節には、「初めに言があった・・・それによって全てはできた」という有名な聖句がある。AIは情報データによって機能している。世界は情報だ、と言い切る専門家もいるほどだ。その情報(ロゴス)が混乱すれば、AIは機能できなくなる。「多言語翻訳機能を有するAIはその言語の混乱を迅速にリカバーできる」といわれるかもしれない。ただし、忘れてはならない点は、ロゴスは全ての存在の基とすれば、その混乱は意思疎通の問題というより、存在の危機をもたらすことにもなる。ひょっとしたら、「言語の混乱」はAIにとっても大きな障害となるのではないか。
自身のいる場所から離れて神のようになろうとした人類に対し、神は「ケルビム(智天使)と回る炎の剣」で命の木への道を防いだ。それは神にとってあくまでも自己防御だった。しかし、「バベルの塔」での言語の混乱はロゴスの混乱を意味するから、存在の危機をももたらす厳しい措置だったといえるわけだ。ただし、AIは人間ではないから、その存在の危機とはならないが、肝心の情報データが混乱することで、正常な機能を発揮できなくなる可能性が出てくる。
聖書では、「ケルビムと回る炎の剣」と「言語の混乱」という2通りの対応が記述されている。前者はAIへの規制強化、開発の減速などの対応に当たる。そして後者はAIの生命線、情報データに繋がっている言語の混乱、ロゴスの混乱という荒治療だ。ただ、現実はまだそこまではいっていない。
なお、「ロゴスの混乱」を暫く抑えることができたとしても、解決とはならない。最終的には、AIに対抗するためには新しいロゴスの開発者、啓蒙者が求められることになる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年9月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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