いま永田町で内閣改造より注目されているのが、参議院幹事長の交代だ。松山政司参議院議員会長は9月15日、石井準一参議院幹事長を再任しない方針を伝えた。後任には青木一彦参院議院運営委員長を充てる方向で調整されているが、自民党がざわついているのは、これが単なる幹事長交代ではないからだ。

総裁もふれなかった「参院の聖域」
自民党には長年、「参議院は参議院」という独特の不文律がある。参院自民党の幹部人事は総裁が直接決めるのではなく、参院議員会長を中心に参院側で決める。首相・総裁であっても簡単には口を出さない「聖域」とされてきた。
その聖域に高市早苗首相が手を突っ込んだ。高市首相と石井氏の確執は、今年春の2026年度予算審議にまでさかのぼる。政府・与党は予算案の年度内成立を目指していたが、参院審議が長引き、成立は4月7日までずれ込んだ。11年ぶりに暫定予算を編成することになった。
高市首相は参院側の国会運営に強い不満を持ったと報じられてきた。参院側から見れば、衆院で野党との調整を十分に済ませず「荷崩れ」した予算案を送ってきたのが原因だという言い分がある。これは単純な事務的ミスではなく、「国会を誰が仕切るのか」という権力闘争だった。
「参院のドン」だった石井氏
しかも石井氏は単なる実務担当者ではなかった。4月には旧茂木派、旧二階派などを中心に40人以上が参加する「自由民主党参議院クラブ」を立ち上げた。自民党参院議員の大きな部分を束ねる勢力であり、石井氏自身は「派閥ではない」「高市政権を支える」と説明していたものの、官邸側が警戒するには十分な規模だった。
石井氏は立憲民主党や公明党など野党にもパイプを持ち、少数与党となっている参院で国会運営を担ってきた。その石井氏を外すのだから、参院側が平静でいられるはずがない。参議院クラブ所属議員の一人は、今回の人事について「全面戦争だ」と語ったという。
高市首相は「二重権力」を許さなかった
高市首相の立場から考えれば、今回の人事には一応の合理性がある。衆院選で大勝し、国民から政権運営を任されたのは高市首相である。それなのに参院では、野党との「信頼関係」や従来の慣例を重視する別の司令塔が存在し、官邸の思惑通りに国会が動かない。
首相から見れば、これは党内に一種の「二重権力」が存在するようなものだ。これまでの自民党なら、そこは曖昧にして折り合いをつけてきた。しかし高市首相は、その曖昧さを許さなかった。参院の独立性より、官邸と党の指揮系統の一本化を優先したのだろう。
これはかなり危険な賭けでもある。参院では与党だけで何でも決められるわけではない。法案を通すには野党との交渉が不可欠であり、石井氏のような「話のできる政治家」の存在には実務上の価値がある。実際、参院幹部からは「官邸の意向どおりやるのでは少数与党の参議院では機能しない」と懸念する声も出ている。
「聖域」を破った代償はこれから分かる
高市首相は今回、自民党で長く守られてきた参院自治という「聖域」を突破した。これは高市政権の求心力を高める人事になる可能性もある。官邸に逆らえば参院の実力者でも交代するというメッセージは明快だからだ。
しかし逆に、40人規模の参議院クラブを敵に回し、野党とのパイプまで弱くなれば、10月にも始まる臨時国会で手痛いしっぺ返しを受ける可能性もある。
石井氏の交代は一人の幹事長の首が飛んだという話ではない。「参院は参院で決める」という自民党の古い権力構造に、高市首相が正面から挑戦した事件なのである。







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