何を見た?選んだ?入力した?「メタ」従業員監視の顛末

META 公式YouTubeチャンネルより

誰もが考える。「わが社の仕事をAIに学習させれば、人はいらなくなるのでは?」。誰もが打ち消す。「浅はかだ」と。だが、巨大IT企業は違うらしい。

26年1月、メタ社のCEOマーク・ザッカーバーグ氏は、ハワイの別荘で、側近らとプランを練った。

・自社の業務データをAIに学ばせ、「仮想ワーカー」化し、日常的な業務を担わせる。
・「仮想ワーカー」は少数精鋭の人材が監督する。
・一部チームの人員規模を最大60%縮小する。

業務データは従業員から収集できる。収集したデータの加工(ラベリング)は、専門チームに従業員を異動させればいい。チーム編成もぬかりない。すでに、データラベリング企業「Scale AI社」に140億ドル出資し、同社CEOのアレクサンドル・ワン氏を専門チームのトップに登用済みだ。

Scale AI社は、顧客にOpen AI、Google、Microsoft、NVIDIA、トヨタなどを抱える、データラベリング企業の雄だ。そのCEOであるワン氏は、AI向けの学習データ作成を熟知している。いわば、今回の措置は、外部から優秀な工場長を招聘し、従業員を工員化して、自社内工場を建設するようなもの。社内で作った高品質データをAIに学習させれば、大幅な人員削減もできるだろう。

このプランは順次実施された。

実施されたプラン

26年4月、米メタ社が、従業員のマウス操作・キー入力・表示画面などを記録収集するソフトウェアを導入すると報じられた。翌月には、新設した専門チームに6,500人が異動し、8,000人が解雇された。

かくしてメタ社の従業員は2つに分けられた。自分の知識や創意工夫を、AIの「教材」として差し出す者。そして、その「教材」を加工する者。どちらもAIに従属することに変わり無い。

前者の従業員を待ち受けていたのは「監視」だった。どこを見たか。どれを選んだか。何と打ったか。PCの作業が記録され、仕事のやり方としてモデル化される。モデル化されたその後は、異動か解雇が待っている。従業員たちは戦々恐々となった

後者の従業員は、より悲惨だった。専門チームの業務「ラベリング」は、データを分類し、テキストデータにタグを付与し、画像データの該当箇所に印をつける、といった「地道」な作業である。異動した職員の大半が、

「魂がすり減る(soul-crushing)」

Meta’s months-old AI unit is a soul-crushing gulag, say the engineers stuck inside it | TechCrunch

と感じたという。後に、この部門は「強制収容所」というあだ名が付けられた。

「うまくいった」のはここまでだった。社内の反乱が起こったのだ。

メタの誤算

まず、PC操作の記録収集に従業員たちが猛反発した。

「AIのトレーニング目的で、我々のデータを収集してはならない」

こう記した請願書(※)には1,800名の署名が集まった。壁やトイレに抗議の張り紙が貼られ、社内コミュニケーションツールに怒りの投稿が殺到。士気は低下し、社内の雰囲気は暗くなり、従業員満足度は74%から55%へ低下した。メタの経営陣は士気低下について以下のように述べている。

「おそらくこれまでで最悪の水準の一つだ」

Business Insider Japan

技術的な誤算もあった。AIは、思ったほど賢くなかったのだ。

たしかに、AI利用により社内ソフトウェアのコード変更は220%増加した。だが、新機能・機能改善はわずか36%に留まった。さらに、サービス障害・データ漏洩(の可能性)といった重大な事故が40%増加し、その対策に費やす時間は70%増加した。

「労多くして功少なし」。メタ社が思い描いたのは皮算用に過ぎなかったのだ。

ザッカーバーグ氏自身も、社内会議で「AIエージェントは予想ほど急速には進歩していない」と認めた。正月にハワイの別荘で練られたプランは失敗に終わり、残ったのは従業員との険悪な関係だった。

小手先の関係修復

現在、メタの経営陣は関係修復に躍起だ。

追加で実施する予定だったリストラを断念。データ収集ソフトウェアは一時停止。異動した従業員の一部を元のチームに戻し、福利厚生を改善(出張や懇親会の支出増額)すると公言し、印象改善のためイメージビデオまで作っている。ビデオで訴えるのは「人」だ。

「私たちは『人』に賭けている」
「あらゆる活動の中心には常に『人』が存在し続ける。」

22年は11,000人、23年は10,000人、今年は既に8,000人解雇された。そんな中、唐突に経営陣から発せられた「人」の尊重。従業員は問いたいはずだ。

「その『人』に私は含まれていますか」と。

事業は人なり

事業は「人」なり。松下幸之助氏の言葉だ。「松下電器は人をつくっています。電気製品もつくっていますが、その前にまず人をつくっているのです。社会からお預かりした貴重な『人財』を育て、活かすことが経営の根幹です」。幸之助氏は、会社が小さかったころから、このように従業員に説いていたと言う。

きれいごと。理想論。そうかもしれない。だがメタが喧伝する「人」よりも、はるかに伝わるものがある。

【参考】

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