
(前回:日本のタクシーはなぜこんなに高いのか:ソウルとの公式料金比較で見えた制度差)
前回、東京とソウルのタクシー料金を比較し、日本のタクシーがかなり高いことを見た。

だが、もっと深刻なのは料金ではない。
高いのではない。来ないのである。
しかも消えつつあるのはタクシーだけではない。路線バスも減便・廃止が続いている。
国土交通省によれば、2024年のタクシー運転手の平均年齢は60.5歳。全産業平均44.1歳に対して16歳以上高い。バス運転手も55.3歳だ。
これは一時的な採用難ではない。
人を運ぶ供給基盤そのものが細っている。
バス減便は「田舎だけ」の話ではない
バスがなくなるというと、山間部の過疎地を想像しがちだ。
しかし横浜市は、利用者減少と運転手不足により「都市部においても減便等が実施」されていると明記している。市はバスネットワーク維持のため、連節バス導入や運転士への住宅支援まで始めた。


つまり、「人口が少ないからバスがなくなる」だけではない。
客がいても、運転する人が足りない。
交通供給そのものが縮み始めている。
タクシーも代行もない夜
地方ではさらに厳しい。
タクシーがない。
運転代行もない。
すると自家用車で飲食店へ行けば酒が飲めない。
これは交通問題だけではない。
飲食店の売上まで削る。
宿泊施設でも同じだ。
素泊まり客を増やしたい。地域の居酒屋やレストランにも客を流したい。
しかし夜のタクシーがなければ、客は町へ出られない。
客は乗りたい。宿は送りたい。飲食店は来てほしい。車もある。
それでも需要と供給が簡単には結び付かない。
需要がないのではない。需要と供給をつなぐ仕組みが足りない。
登山口までの「最後の10km」
この問題は生活交通だけではない。例えば登山だ。
鉄道で最寄り駅まで行けても、そこから登山口まで10km、20km離れていることは珍しくない。
バスがなければ自家用車かタクシー。バスがあっても1日数本なら、山行全体を時刻表に合わせることになる。
相模原市では、三ケ木以西で運行する13系統のうち11系統が2027年3月末で廃止される予定だ。

その一方、藤野駅から陣馬山や生藤山方面へ向かう路線には、春と秋の週末を中心に多くのハイカーが集中する。
市は、生活交通用の乗合タクシーをハイカーが利用すると地域住民の足を圧迫しかねないとして、藤野駅から陣馬山登山口、鎌沢入口、和田方面を結ぶ登山バスを別枠で実証運行している。

生活交通と観光交通が、同じ少ない車を奪い合っているのである。
ここにオンデマンドの相乗り交通があれば、選択肢は大きく広がる。
駅からA登山口へ入り、山を越えてB登山口へ下り、別の駅から帰る。
バス時刻に山行を合わせるのではなく、移動手段を山行に合わせられる。
これは単なるバス代替ではない。固定路線では拾えなかった需要を、新しく拾う仕組みである。
「需要がない」のではなく、行けないから行かない
交通縮小には厄介な循環がある。
交通が減る。行きにくくなる。利用者が減る。「需要がない」と判断される。さらに減便される。
しかし本当は、需要そのものが消えたのではない。
行けないから、需要が数字に現れなくなっただけかもしれない。
飲食店も、宿も、山も同じだ。
交通空白とは、移動できない人がいることだけではない。
交通手段がないため、最初から選択肢から外された目的地が存在するということでもある。
湯沢では5,075回使われた
新潟県湯沢町は分かりやすい。
冬になると観光客が増え、既存タクシーだけでは需要をさばけない。このため2025年3月に日本版ライドシェアを導入した。
開始から2026年1月末までの利用は5,075回に達した。北陸信越運輸局も、導入理由を冬季観光客の増加による「タクシー不足」と明記している。
客がいないのではない。
客はいるのに、運べなかったのである。
ただし日本版ライドシェアは、一般人が自由に営業する制度ではない。
国土交通省の制度では、タクシー事業者の管理下で、自家用車と一般ドライバーを使って不足分を補う。
安全管理には合理性がある。
しかし地方では、その管理主体であるタクシー事業者自身が縮小している。
供給不足を解消する制度の入口を、供給不足に苦しむ事業者だけに置いて持続するのか。
ここは検証が必要だ。
バスを守るか、タクシーを守るかではない
これから必要なのは、「バスを守るか」「タクシーを守るか」という業態別の発想ではない。
大量輸送ならバス。需要が薄く目的地が散らばるなら小型車。時間帯によって需要が変わるならオンデマンド。駅から登山口のような散発需要なら相乗り交通。
重要なのは、業態を守ることではない。
行きたい人を、行きたい時間に、行きたい場所へ運べることだ。
タクシーが来ない。バスも減る。代行もない。
それでも地域には車も、運転できる人もいる。
ならば次に問うべきは、その余力をどう安全に交通サービスへ組み込むかである。
次回は「安全」を考える。
通信型ドラレコ、GPS、アルコールチェッカー、顔認証、クラウド運行管理まで使える時代に、安全管理は本当に既存タクシー会社の中でしか実現できないのか。
そこを検証する。
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