
2027年、東京で「運転手のいないタクシー」が走り始める。
米Alphabet傘下のWaymo、日本交通、タクシー配車アプリGOの3社は9月15日、東京都内でレベル4の完全無人タクシーを商用化する方針を発表した。段階的に100台規模まで増やす計画だ。
技術的には大ニュースである。
だが、私が気になったのは「無人」であることではない。
報道では、運賃は現行のタクシー料金を基本とするとされている。公式発表では具体的な料金はまだ示されていないが、もし現行水準が維持されるなら、一つ素朴な疑問が浮かぶ。

運転手はいなくなる。それでも料金はほとんど変わらないのか。
無人化による生産性向上の利益は、誰のものになるのだろう。
運転手が消える意味
タクシーは典型的な労働集約産業だ。
車1台を営業させるには、基本的に乗務員1人が必要になる。24時間走らせるなら交代要員もいる。
無人運転は、この前提を壊す。
もちろんコストがなくなるわけではない。自動運転車両、センサー、通信、遠隔監視、保険、整備、Waymoへの技術対価など新しい費用が発生する。
それでも「車1台につき運転手1人」という制約から解放される意味は大きい。
アゴラでは今回の発表について、すでに「無人タクシーは認めるのに、なぜ一般ドライバーによるライドシェアは自由化しないのか」という疑問が提示されている。
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池田信夫氏も、現行料金体系を基本とするなら、無人化による利益が利用者よりタクシー会社側に残るのではないかと問題提起している。
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企業が利益を得ること自体は当然である。
私が気になるのは、生産性向上の一部が値下げや供給増という形で利用者にも返る市場になっているかだ。
アプリ化しても安くならなかった
この疑問を持つ理由がある。
日本では、タクシーがデジタル化しても価格競争はあまり起きなかった。
配車アプリは便利だ。現在地まで車を呼べる。行き先を入力できる。支払いもアプリで終わる。
だが、便利になったからタクシーが安くなったわけではない。
GOでは乗車運賃や迎車料金とは別に、AI予約や「優先パス」などの手配料金が設定されている。優先パスは300〜980円で、エリアや需給状況によって変動する。

アゴラでもGOの上場時、迎車料金や配車をめぐる利用者側の不満、乗務員側の不満が取り上げられた。
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特に興味深いのが優先パスだ。
周囲に空車が見つからない場合でも探車を続け、空車が発生すると優先パス利用者から順に手配する。
利用者から見れば、「普通に探しても来ない」ときに、追加料金を払えば優先して探してもらえる仕組みである。
追加サービスに料金を取ること自体はおかしくない。
問題は、その料金が供給そのものを増やす仕組みになっているかだ。
追加料金を払ってもタクシーは増えない
Uber型のサージ料金では、需要が急増すると料金が上がる。
その高い報酬を見て新たなドライバーが稼働すれば、価格上昇が供給増につながる。
GOの優先パスは性格が違う。
すでに存在する車両に空きが出るまで探し、有料利用者から順に手配する。
追加料金を払ったからといって、タクシーが1台増えるわけではない。
GOの規約では「手配料金」はGOが提供する機能への対価とされている。決済方法によって請求権がタクシー会社へ譲渡される場合はあるが、公開情報からは、優先パス料金がそのまま担当乗務員の追加報酬になる仕組みは確認できない。
利用者が「タクシーが足りないから」と追加料金を払っても、それが乗務員に「今なら稼げるから営業に出よう」と思わせる仕組みにはなっていない。
これは供給不足を解消するダイナミックプライシングというより、限られた供給の中で優先順位を販売する料金に近い。
ライドシェアでもタクシー会社
供給不足なら一般ドライバーを増やす方法もある。
日本は2024年、「日本版ライドシェア」を始めた。
しかし、海外で一般的なライドシェアとはかなり違う。
国土交通省の説明では、自家用車と一般ドライバーを使うものの、「タクシー事業者の管理の下」で、タクシーが不足する地域、時期、時間帯の不足分を補う制度である。
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一般ドライバーを使う場合もタクシー会社。今回の無人タクシーでも、日本交通が運行管理、GOが配車、Waymoが自動運転技術を担う。
運転手がいてもタクシー会社。運転手がいなくてもタクシー会社。
技術は大きく変わるが、市場の構造はあまり変わらない。
安全管理や事故対応の責任主体を明確にする意味はある。それと、利用者が技術革新の利益を受け取れるかは別の話だ。
「100台」より見るべき数字
自動運転政策では、導入台数が分かりやすい目標になる。
だが、100台走った、1000台走ったという数字だけでは利用者にとっての成果は分からない。
見るべきなのは、平均待ち時間、配車不能率、深夜・早朝の供給、実質運賃、有人タクシーと比較した事故率、そして無人化による生産性向上がどれだけ料金低下や供給増に反映されたかだ。
「完全無人タクシー100台導入」はアウトプットにすぎない。
利用者が以前より安く、早く、安全に移動できるようになったか。それがアウトカムだ。
運転手がいなくなっても料金だけ残るのか
無人タクシーには期待している。
人手不足に左右されにくくなり、深夜や早朝にも供給を増やせる可能性がある。高齢化するタクシー業界にとっても重要な技術だろう。
だからこそ、単なる新技術のお披露目で終わらせてはいけない。
配車アプリが普及しても価格競争はあまり起きなかった。タクシーが不足すると、有料の優先配車が登場した。一般ドライバーを使う日本版ライドシェアも、タクシー会社の管理下に置かれた。
そして今度は、運転手そのものがいない車まで既存制度の中で走ろうとしている。
2027年、本当に見るべきなのは、東京を走る無人タクシーの台数ではない。
運転手がいなくなったことで、料金がいくら下がり、待ち時間がどれだけ短くなり、これまで移動できなかった人がどれだけ移動できるようになったのか。
無人化の利益は誰のものなのか。
自動運転の社会実装は、車の性能試験だけではない。
日本のタクシー制度が、本当に利用者のためにできているのかを試す実験でもある。







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