
ボーナスで社員が壊れる話をしよう。いや、マジで
結論から言う。ボーナスは、やる気を殺す。
……いきなり何を言ってるんだと思っただろう。わかる。金をもらって嫌な顔をする人間なんていない。そう信じていた時期が、私にもありました。
『チームは「仕組み化」でうまくいく 組織力を高める行動経済学』(橋本之克 著)祥伝社
ある広告制作会社の話だ。20~30代が中心の制作部で、みんな「インパクトのある広告を作ってやる!」と燃えていた。いい職場じゃないか。
そこへ部長の登場である。「健全な競争を促そう」。はい出た、健全な競争。納期遵守に案件数。指標を細かく決めて、順位を可視化して、上位には特別ボーナス。
結果? 提案は減った。細部へのこだわりも消えた。クオリティは落ちた。
部長、泣いていい。
これにはちゃんと名前がある。「アンダーマイニング効果」。好きでやっていたことに報酬をくっつけると、かえってやる気が下がる現象だ。名前がカッコいいのが、余計に腹立たしい。
たとえば、楽しそうにお手伝いをする小学生がいたとする。かわいい。そこで親が「偉いね」とお小遣いを渡し始める。これが毎回になると、どうなるか。
お手伝いは「家族が喜ぶ楽しいこと」から「お小遣いをもらう作業」に変わる。そしてある日、その子は言うのだ。「お小遣いくれないなら、やらない」。
……いや、それ完全に大人の会話だろ。
玉川大学脳科学研究所の実験でも、金銭報酬を約束されたグループのほうが、自発的な取り組みが著しく落ちた。動機づけ研究の大家、エドワード・L・デシの実験でも同じ結果が出ている。つまり、気のせいじゃない。
で、本当に怖いのはここからだ。
経済学者のウリ・ニーズィーとアルド・ルスティキーニが、イスラエルの保育園10ヶ所で試したのが、お迎えの遅刻への罰金。最初の4週間は様子見。5~16週目に6園で「10分以上遅れたら罰金」。17週目以降は撤廃。
遅刻、減ったと思うでしょ?
増えた。
しかも罰金をやめても戻らない。最初の4週間より多いまま。
「先生に迷惑をかけちゃいけない」が「金を払えば遅れてもいいんでしょ」に書き換わった瞬間、もう元には戻らないのだ。セーブデータを上書きしたら、前のデータはロードできない。要するに、そういうことである。
仕事柄、いろんな会社の評価制度を見てきた。制度をいじって空回りした会社は、だいたい同じ顔をしている。「こんなはずじゃなかった」という顔だ。
報酬で動く組織は、報酬を上げ続けないと動かない。その先に何が待っているかは……まあ、言わなくてもわかるだろう。
※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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