日本病のカルテ(13) 雇用慣行を変えないと「経済氷河期」がやってくる

  • 就職氷河期は、不況だけでなく、既存の正社員を守る一方で新卒採用を絞る日本的雇用慣行によって、若者に長期的な不利益を集中させた。
  • AIで革命でホワイトカラーの削減が進む中、企業が「既存の正社員は守り、新卒を採らない」という雇用慣行を変えないと、生産性が落ちて日本経済が氷河期に入る恐れがある。
  • 再発防止には、解雇ルールの法制化と金銭救済、中途採用の拡大、再訓練支援を進め、「会社の中の雇用」ではなく「次の仕事へ移れる人」を守る制度への転換が必要だ。

バブル崩壊後の1990年代に大学や高校を卒業した世代は就職氷河期世代と呼ばれる。当時の完全失業率は低かったが、大卒就職率は急激に下がった。企業がすでに雇っている正社員を守り、新卒採用を絞った結果、就職率は55%まで下がったからだ。

文部科学省「学校基本調査」

不況のとき失業が増えるのは当たり前だが、日本のように新卒だけ45%も職を失うというパターンは珍しい。これは正社員を解雇できないので、新卒採用で雇用調整したためだ。その原因は雇用慣行だから、これを変えないと、AIでもっと深刻な「経済氷河期」がやってくるだろう。

解雇できないのは「解雇規制が強い」からではない

これをいまだに「小泉・竹中改革のせいだ」という人がいるが、小泉内閣ができたのは2001年で、氷河期が始まってから10年近くたっていた。非正規労働者が増えた原因のようにいわれる労働者派遣法の改正は1999年で、むしろ氷河期で正社員が減ったため、それを補充するものだった。

その後も非正規は増え、労働人口の4割になった。これは先進国では異常な高さだが、景気が回復してもほとんど減らない。正社員の雇用調整のバッファになっているからだ。これを正社員に登用しろという議論も多いが、これは企業のインセンティブを無視した議論である。

労働基準法では1回の雇用契約は3年までで、雇用期間が合計5年を超えると(本人が希望したら)無期雇用に転換しなければならない。そうすると企業は4年11ヶ月で雇い止めするだろう。現にそれが起こっていることだ。

これに対して労働者が「雇い止めするのは違法だ」と訴訟を起こす場合があるので、企業は「クーリング期間」を置くようになった。雇い止めしたあと6ヶ月以上あけて再雇用すると、雇用期間がゼロにリセットされる。

こんな法律と企業のいたちごっこが続いているのは、「正社員」だけが正しい雇用形態で、非正規は「救済」しないといけないと厚労省が思い込んでいるからだ。裁判所にもそういう温情主義が強いため、雇用リスクが高まると、雇用契約なしのアルバイトが増える。

このように非正規が増える原因は、正社員の解雇が実質的に不可能だからである。よく「日本は解雇規制が強い」といわれるが、それは逆である。実定法で解雇規制と呼べるのは労働契約法16条の「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という曖昧な規定しかない。

法律では解雇自由だが、整理解雇の4要件という1979年の判例で決まったまま変えられない。これは実質的に会社が倒産するときしか解雇できないという判例である。このように解雇規制が曖昧だから人員整理に予見性がなく、非正規を雇うようになったのだ。

解雇ルールは特殊な問題ではない。日本の大企業は、正社員は解雇できないという前提で人事制度ができているため、これを変えると雇用慣行や人事を根本的に変えないといけない。逆にいうと、人事制度を変えないと解雇ルールも変えられない。

かつて日本的雇用には、会社の中で仕事を教え、配置を変えながら長く働いてもらう強みもあった。高度成長期に急成長しているときは、熟練工にやめられては困るので、社宅や福利厚生施設を充実させ、企業年金や退職一時金などで従業員を社内に囲い込んだ。

しかし産業そのものが変わると、配置転換や出向・転籍だけでは対応できない。ある仕事の需要が減り、別の企業や産業で人手が必要になる。このとき必要なのは、労働者が会社を移っても経験や技能を生かせる外部労働市場である。

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