
図 東京の住宅街が浸水し、太陽光パネルに接続された接続箱やインバーターから出火する状況のイメージ(AI生成)。
9月24日、千葉県成田市大竹の太陽光発電施設で火災が発生した。台風25号による印旛沼の堤防決壊で、一帯が冠水していた場所である。炎と黒煙が上がり、断続的な発火や爆発音が確認された。報道によると、消防隊員は感電の恐れから現場に近づけず、消火活動を行わずに自然に火が消えるのを待った。火は通報から約2時間半後に自然に消えたという※1)。
しかし、火が消えでも、設備の安全は確保できなかった。事業者側の9月29日の発表によると、排水によって水位が低下した後、28日夕方から、再発火や感電を防ぐための配線切断などに着手した。日中はパネルの発電に伴う高電圧・感電のリスクがあるため、作業は薄暮の時間帯に限って実施しているという。火災発生から安全処置への着手まで、数日を要したことになる※2)。
なお、経済産業省は9月29日の記者会見で、現場の安全は既に確保されている、と説明した。だが、感電による二次災害を避けるため、消火や安全処置が制約された、という事実は重要だ※3)。
もしも住宅地で太陽光パネルが広域的に浸水したら
今回の事件の不幸中の幸いは、人が普段は住んでいないメガソーラーだったことだ。
だが、太陽光発電を設置した住宅が多い地域で、大規模な水害が起きた場合には、どうなるのか。住宅から出火し、延焼する一方で、住民の救助や復旧が急がれる状況にならないか。
東京の江東5区、すなわち墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区では、大規模水害のリスクがあるとされる。葛飾区のハザードマップ解説では、荒川と江戸川が同時に氾濫するような場合、江東5区のほとんどが浸水し、2週間以上にわたって水が引かない地域もある、と説明されている※4)。
多数の住宅の太陽光発電が同時に浸水したらどうなるのか。救助隊、住民、復旧作業員が活動できる状態にするまで、どれほどの時間がかかるのか。
東京都のQ&Aでは、通常の火災であれば、東京消防庁は放水方法や距離、防護装備などによって隊員の安全を確保し、消火活動を行っている、と説明されている。だが、大水害という状況では、このようなわけにはいかないことが、今回の一件ではっきりした。そもそも、被災した住宅に近づくこともままならないのだ※5)。
屋根より低い接続箱やパワコンが浸水し事故を起こす
「住宅のパネルは屋根の上にあるから、洪水でも滅多に水に漬かることはない」。そう思いがちかもしれない。しかし、太陽光発電はパネルだけではない。今回の印旛沼の火災についても、発電した電気を集める「接続箱」が浸水し、水位低下で露出した際にショートして出火した可能性がある、と報じられている※6)。
住宅用の太陽光発電にも接続箱がある。また、パネルの直流電力を交流に変換するパワーコンディショナー、いわゆるパワコンもある。接続箱とパワコンが一体になった製品もある。いずれにせよ、これらは太陽光パネルよりも低い位置に設置されることが多い。パワコンは重いので、耐震性の観点からは、高い位置よりも低い位置に取り付ける方が好ましい。また、メンテナンスが容易という点も、低い位置にパワコンを設置する理由になる※7)。
設置高さは機種や施工条件によって異なり、全体像はよく分かっていないようだ。足下にあることもあれば、普通の人の背の高さや、1階の天井に近い高さに設置されることもある。防災の観点から重要なことは、屋根の上まで水が達しなくても、低い位置に取り付けられた機器やその配線は浸水し、事故を起こすことがある、という点である※8)。
じつは、この問題は以前から知られており、筆者らも度々指摘してきた。太陽光発電協会は、「浸水したパワコンでは直流回路が短絡し、パネル側が通電可能な状態であれば、短絡電流による発熱などが生じる可能性がある」と注意喚起してきた。屋根にあるパネルが発電を続ける一方で、その下の機器が浸水し、事故を起こす、という組合せである※9)。
経済産業省も、今回の事故後の9月25日、水が引いた後であっても、接続箱やパワコンの内部に残った湿気や汚損によって発火する可能性がある、と注意喚起した※10)。
太陽光発電協会の住宅向けリーフレットも、パネルだけでなく、接続箱、パワコン、蓄電池それぞれの設置高さを確認するよう求めている。そしてシステムの一部でも浸水した場合には、そのまま使用することはせず、手を触れずに、販売店・施工店へ連絡するよう案内している※11)。
東京都はまだこの太陽光パネルの問題を無視するのか
筆者は2022年6月12日のアゴラ記事「東京都の太陽光パネルは大水害時に感電事故の懸念」で、江戸川区などの水害想定を取り上げ、太陽光発電設備による二次災害の可能性を論じた。その際に挙げたのは、感電事故だけでなく、復旧が遅れることはないか、という問題だった※12)。
同年には東京都へ請願を提出し、その回答を受けて再質問した経緯を、キヤノングローバル戦略研究所のホームページにも掲載した。東京都は、「浸水した太陽光パネルには近寄らずに専門家を呼ぶように」と答弁したが、筆者は、「大洪水で多数の設備が浸水するときに、いったいどこの専門家がいつ来ると言うのか。現実的でない」と疑問を述べたが、まともな答弁は無かった※13)。
東京都の2026年4月版Q&Aには、「太陽光発電協会から、水没・浸水による感電事故等の事例はないと聞いている」との記載があった。だが、まだ起きていないから、対策を考えなくてよいというのは、リスク管理の初歩に反する、恐るべき考え方だ※14)。
東京都は太陽光発電の導入を停止し、点検せよ
東京都では2025年4月から、一定規模以上の住宅供給事業者を対象に、新築住宅等への太陽光発電設備の設置を義務づけている※15)。
だが、浸水に伴う感電や火災の危険は以前から注意喚起されてきた。その危険が、今回、印旛沼の事件ではっきりと顕在化した。
東京都は、太陽光発電の導入をいったん停止し、既存の太陽光発電についての安全性を点検すべきだ。大水害が起きて、多くの家が水没して、火災が発生したり、感電事故が起きたり、復旧が不可能になってからでは遅すぎる。
【脚注】
※1)産経新聞「成田の太陽光発電施設火災、感電恐れで消火活動できず 専門家「審査の厳格化必要」」、2026年9月29日(JAPAN Forward掲載)。
※2)セナリオ広島GHD株式会社「成田市大竹地区の太陽光発電所における火災発生につきまして(※9/29更新)」、2026年9月24日掲載、同年9月29日更新。
※3)経済産業省「赤澤経済産業大臣の閣議後記者会見の概要」、2026年9月29日。
※4)葛飾区「葛飾区水害ハザードマップ【解説編】(多言語版)」、2024年4月1日更新(2022年7月発行の情報)。第7章の江東5区大規模水害に関する説明。
※5)東京都「太陽光パネル設置に関するQ&A」、2026年4月1日。47頁、Q22-1「火災リスクについて①」。練馬区ウェブサイト掲載PDF。
※6)毎日新聞「水没したソーラーパネルから発火、爆発音も 千葉・印旛沼氾濫」、2026年9月24日。
※7)パナソニック「パワーコンディショナ・接続箱 仕様」、掲載日記載なし。「マルチストリング型パワーコンディショナ」の接続箱一体型製品を参照。
※8)Qセルズ「太陽光周辺機器設置と離隔距離について-KPシリーズ-」、2020年3月6日。資料番号HQJT17086A3、2頁。屋外用KPV-A55-J4(-HQ)/KPV-A55-SJ4及びKPW-A55-J4/KPW-A55-SJ4の設置離隔。
※9)一般社団法人太陽光発電協会「太陽光発電設備が水害によって被害を受けた場合の対処について」、2015年9月11日。2頁「4.パワーコンディショナの取り扱い」。
※10)経済産業省「水没した太陽電池発電設備による感電やショートによる火災の防止についてのお願い(周知)」、2026年9月25日。
※11)一般社団法人太陽光発電協会「太陽光発電システム(屋根上設置)の設備浸水・水没時の注意点」、発行日記載なし。機器の設置高さの確認、浸水後の接触・再使用を避ける注意事項。
※12)杉山大志「東京都の太陽光パネルは大水害時に感電事故の懸念」、アゴラ、2022年6月12日。
※13)杉山大志「小池都知事に「太陽光パネル義務化反対」請願した学者に、東京都が行った「驚きの回答」」、キヤノングローバル戦略研究所、2022年11月9日掲載。初出:現代ビジネス、2022年10月26日。
※14)東京都「太陽光パネル設置に関するQ&A」、2026年4月1日。44頁、Q20「災害リスクについて」の水害に関する説明。練馬区ウェブサイト掲載PDF。
※15)東京都「太陽光パネルの設置を義務付ける制度が2025年4月から始まります」、広報東京都、2025年3月号。
東京都「太陽光パネル設置に関するQ&A」、2026年4月1日。6頁、Q2「太陽光パネルの設置義務者について」。







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