数年先を見て人を育てる会社はなぜ少ないのか --- 山中 真琴

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数年先の事業を見据え、その時に必要な人材を想定して能力開発をしている企業は、従業員300人以上でも14.2%、9人以下では8.0%にとどまります。厚生労働省が9月29日に公表した令和8年版(2026年版)労働経済白書に載っている数字です。

白書はここに、経営戦略と人材戦略の連携の弱さを読み取っています。私は、その手前で詰まりやすいところがあると見ています。経営者の頭の中にある数年後の事業の姿が、現場の仕事の言葉になっていないのです。

もとになっているのは、労働政策研究・研修機構の企業調査(2025年)です。冒頭の数字は、従業員の人材育成・能力開発の方針を尋ねた設問で「数年先の事業展開を考慮して、その時必要となる人材を想定しながら能力開発を行っている」と答えた企業の割合です。300人以上の企業でも、7社に1社程度です。

ただし、9割の企業が人を育てていないという意味ではありません。同じ設問には、今いる人材の能力をもう一段階上げるための能力開発、当面の仕事に必要な能力を身につけるための能力開発、人材育成・能力開発について特に方針を定めていない、という選択肢もあります。少ないのは、先の事業から逆算して育てている企業です。なお、規模が小さい企業ほど、そもそも人材戦略を定めていない割合が高いことも、白書の概要は注記しています。

AIの導入と人への投資を切り離さない

白書はこの調査結果を、AI投資と人的資本投資を結びつける議論の中に置いています。OECDが2025年にまとめた日本のAIと労働市場に関する報告書をもとにした図では、企業からの訓練提供と本人の学び直しの両方があったAI利用者の83.6%が、AIの利用前後で仕事のパフォーマンスが「改善した」または「少し改善した」と答えています。どちらもなかった利用者では46.6%です。

ここでの数字は利用者自身の回答です。訓練に力を入れる会社は、もともと業務の見直しにも熱心なのかもしれません。この差をそのまま訓練の効果と読むのは早計です。

訓練の機会そのものにも、海外との差があります。AIと協働するための訓練などを企業から提供されたと答えたAI利用者の割合について、白書は、日本、米国、英国、ドイツの4か国を比べると、日本は金融・保険業と製造業のどちらでも20〜30ポイント程度低い水準にあるとまとめています。AIの導入を進めるなら、それを使う人への投資も同じ計画に入れるべきです。

将来像は仕事の言葉になっているか

白書のAIの章は、AIの技術革新を経済成長につなげるには、経営戦略と人材戦略を連携させつつ、AI関連の人的資本投資をより一層推進していくことが重要だと結論づけています。この方向に異論はありません。ただ、従業員100人の会社が何から手をつければよいかという具体的な手順までは、この章は示していません。

私の見立てでは、連携が弱いとされる会社でも、経営者が数年後の事業の姿を持っている場合はあります。詰まりやすいのは、その姿が「そのとき、どんな仕事を誰が担っているか」という言葉に置き換えられないまま、人事や現場の管理職に届いていないところです。仮に経営者が数年後に新しい事業の柱を立てるつもりでいても、現場に届く指示が来期の採用人数だけなら、誰を何に向けて育てるかは決まりません。

増える仕事と減る仕事を書き出す

最初の一歩として、数年後に増える仕事と減る仕事を、経営者と、人事担当者や現場の管理職とで1枚の紙に書き出してみることを勧めます。AIを入れる予定の業務があれば、その業務で人に残る判断は何かも書き添えます。次に、今いる社員の誰がその仕事に近いのか、足りない部分を社内で育てるのか外から採るのかを話し合います。整った人材戦略の文書にまとめるのは、その後で構いません。

白書が引くOECDの報告書は、従業員がAIと協働するための社内ルールやガイドラインを定めることや、導入したAIが安心で信頼できるものだと従業員が思えるようにすることも重要だと指摘しています。研修に大きな予算を割く前に、AIを使ってよい範囲を決めて社員に説明することなら、規模の小さな会社でもすぐに取りかかれます。

数年後に自社で増える仕事は何で、それを誰が担うのか。社長と現場の管理職が別々に書き出したとき、同じ答えになるでしょうか。

【出典】

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山中 真琴
株式会社DroR代表取締役CEO。組織開発の実務家として、従業員50〜300人規模の企業で、経営者や人事とともに組織の課題の原因を整理する支援をしている。

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