北村さんの指摘された「官僚中心国家」の弊害はおっしゃる通りですが、私の提言は人事システムの話です。「ハローワークに行って庶民の苦しみを共にするのが官僚の再出発の最良の選択」というのは、原則論としてはその通りですが、50代になった官僚がハローワークで職をさがすことは不可能なので、官庁の中に定年まで残るでしょう。彼らがみんな残留したら、大量の「窓際ポスト」を作らなければならない。これによって今でも非効率な役所の意思決定がさらに多重化し、ほとんど麻痺してしまうでしょう。
誤解のないようにいうと、私は官庁の権限をバックにした天下りを続けろといっているのではありません。各省の権限から切り離された官民人材交流センターは、よくも悪くも斡旋機関としては機能しないでしょう。これまでにも同様の人材バンクがありましたが、斡旋の実績は1件しかありません。それでもあったほうがいいのは、官民の対等な人材交流を実現する必要があるからです。
日本経済の最大の問題は、戦後の一時期までは生産性の高かった官庁や銀行や重厚長大産業などに集まった優秀な人材が、そういう部門の生産性が大きく低下した今も、組織にロックインされていることです。中央官庁は、私の世代まではもっとも偏差値の高い人々の行く職場でしたが、もう役所には仕事がないのです。そこに潜在能力の高い人々を閉じ込める人事制度は、日本経済全体にとっての損失です。
官僚が彼らの能力を生かして、民間に再就職することは悪くありません。むしろ日本では内部昇進の経営者によって内向きの経営が行われていることが問題なので、もっと「プロの経営者」が官民を移動するrevolving doorがあってもいい。ところが今は、官から民への移動が原則として禁止され、求職活動もできないため、官僚が民間に転進することが非常にむずかしく、民から官への移動は(私のような例外を除いて)皆無に等しい。
この閉鎖的な人事システムが官も民もだめにしているのです。その官民交流のパイプを完全にふさいだら、事態は悪化するだけです。それよりも官僚に転職のインセンティブを与えれば、彼らは将来のことを考えて今のようなジェネラリスト型のキャリアパスを改め、外部労働市場で売れるスペシャリスト型に変えるでしょう。それは民間企業にも必要であり、交流センターがそういう改革をリードできれば、天下り禁止よりはるかに重要な意義があると思います。