民主党の公約が修正されるようです。第1は日米FTAの撤回で、これはニューズウィークにも書いたように、まったくナンセンスな政策です。小沢一郎氏はFTAを進めるための戦略として農業所得補償を考えていたようですが、その一部を変更したら戦略として意味をなさない。
第2は成長戦略で、これは「アゴラ」などで私の指摘した問題点を是正するものですが、問題はその内容です。朝日新聞によれば、子ども手当やガソリン税の暫定税率廃止、高速道路無料化などを「可処分所得増大を通じた内需拡大」として成長戦略と称するようですが、こんなものは成長戦略とはいわない。こういうバラマキの財源はすべて税金なのだから、ゼロサムの所得再分配にすぎない。
問題は単にGDPを嵩上げすることではなく、直島政調会長の言及した潜在成長率を引き上げることです。そのためには労働市場や資本市場の活性化、あるいは電波の開放などの規制改革が必要です。こういう政策には、ほとんど予算はいらない。必要なのは、民主党がいつもいう「既得権に切り込む勇気」だけです。
第3は地方分権で、これにはあまり異論がないようですが、実態が不明です。民主党の現在のマニフェストには「国から地方への『ひもつき補助金』を廃止し、基本的に地方が自由に使える『一括交付金』として交付する」と書いてありますが、この一括交付金の財源は何なのか。現在の地方交付金のようなものだとすれば、それは「地域主権」に反する都市から地方への所得移転ではないのか。
地方分権の基本は、財政も含めて地方政府が自立することです。これは成長戦略とも関係があります。前にも「アゴラ」の記事で書いたように、日本の成長率が1970年代を境に下がった一つの原因は、田中角栄以来の「国土の均衡ある発展」政策によって人口の都市集中が止められたことにあります。人口が都市に集中するのは収益の高いビジネスに労働人口が移動するためだから、それを止めたことが(都市の産業への)労働投入量と労働生産性を下げ、成長率を低下させたのです。
地方を自主財源だけにすれば、今のようにくまなくインフラを整備できないので、人口は都市に集中し、成長率を引き上げる効果が期待できます。国土の隅々まで人間が住むのではなく、人口はコンパクト・シティに集め、山間僻地からは引き揚げて自然を保存する。この場合、3大都市圏にこれ以上集中するとインフラがもたないので、道州制のような形で地方中核都市に集中させる自民党の政策のほうが合理的です。この場合も交付金を廃止し、道州を独立採算にして都市間競争を進めることが必要です。
今の地方分権をめぐる議論では、この財源の問題が曖昧にされ、テレビの人気者の知事が「ひものついてない白地の手形をよこせ」と要求しているように見えます。地方が完全に自立したら、交付金なんか必要ない。宮崎県で集めた税金を宮崎県で使い、その一部を国に納めるというドイツのような方式が真の地域主権です。
コメント
>地方を自主財源だけにすれば、今のようにくまなくインフラを整備できないので、人口は都市に集中し、成長率を引き上げる効果が期待できます。
すみませんが・・そういう政策を実行したら国土も人心も荒むと思います。家屋だって人が住まないと荒れます。大地も同じです。
>国土の隅々まで人間が住むのではなく、人口はコンパクト・シティに集め、山間僻地からは引き揚げて自然を保存する。
「自然を保全する」には、本当はその地に人が生きていなくてはいけません。
>この場合、3大都市圏にこれ以上集中するとインフラがもたないので、道州制のような形で地方中核都市に集中させる自民党の政策のほうが合理的です。この場合も交付金を廃止し、道州を独立採算にして都市間競争を進めることが必要です。
東京人に「都市間競争」とイナカの努力を煽って欲しくないです。地域間の競争が激しくなると、没落地域の社会インフラは壊滅的なダメージを受けるので止めてほしいです。すでに県と県、市と市が「自由に使える予算の格差」が、誰の目にもはっきり分かるほど、日本のイナカには格差が生まれています。
ガソリン税の暫定税率廃止と高速道路無料化によって輸送経費が格段に低下します。インターチェンジが増えることによって地域経済の活性化がのぞめます。こういうのを地に足のついた成長戦略と呼びます。道州制は中央官僚の出先機関となり非効率な道州官僚機構を生み出すだけでしょう。
>「自然を保全する」には、本当はその地に人が生きていなくてはいけません。
人間にとって都合のよい「自然」を維持するにはそうする必要があるでしょう。しかし人間の保全を必要とする自然は本当に自然なのですか?
>東京人に「都市間競争」とイナカの努力を煽って欲しくない
私の住んでいるのはどちらかとすればイナカですが、東京人にしてみれば、地方交付税という形で自分に関係のない地域に金をばら撒かれるのはたまったモノではないと思うはずです。受益者負担の原則から言えば、地域のインフラの維持費用はその地域に住んでいる人間が負担すべきです。
「自由に使える予算の格差」は元々存在しているのです。それを都市部に住んでいる人間が負担する構造は到底フェアではありません。
>ガソリン税の暫定税率廃止と高速道路無料化によって輸送経費を低下
高速道路の整備費用は税金で賄おうというのでしょうか。それは文中にもある「都市から地方への所得移転」です。
2008年は急速な円高で再び東京が世界一の物価高と認定された。大阪が2位である。日本の都市の物価高は主として住居費と食費である。この二つは日本の農業の過保護が矯正されれば解決される。東京23区の都心部にも今でも農地は点在するからだ。都市部の農地に宅地並み課税を実施すれば、大量の宅地が供給され地価は一挙に下がる。日本の大都市市民は異常に高価な地価、食費、更に自分達が納めた税金の地方への分配という形で、三重にも四重にも農業ロビーに搾取されている。
日本の消費者運動はどうなっているのか。主婦連というのがあったが、木をみて森を見ずの活動であった。昨今のよう収入は下がっても、食住のコストを3-4割下げることが出来れば生活水準は上げられる。
こういうことを愚妻に論理的に説明しても全く理解できない。帰ってくるのは情緒的反発のみだ。これは農業、食というものが聖域にあり、稲作が日本文化のルーツにある。農民は虐げられてきた弱い存在で守るべきものだ。日本の米、野菜、肉は世界一安全といった神話に支えられたもので、学校教育、マスメディアに洗脳され続けた帰結である。池田さんのお説はごもっともですが、ご自身の奥さんは納得されますか。女房には話すきもしないとは仰らないで下さいよ。
地方分権問題については、私は池田先生の議論に概ね賛成です。
私のブログに対するコメントの中にもありましたが、過疎地には最早お年寄りしか住んでおらず、この方々の安心や安全を守っていく行政コストは膨大なものになりつつあります。この方々に、出来るだけ早い時点で、コンパクトな地方都市、或いはその周辺に移り住んでもらえるような具体策を考えるべきです。人の住まなくなったところは、企業化された農業に委ねるか、自然保護区域とすべきです。
また、別な議論で、お年寄向けに外国人の医師や看護師を大量に導入すべきと言う提言があり、賛否が分かれていましたが、私は、対象をお年寄りに限らず、「特区」を設けて導入し、効果を測るべきと思います。何事によらず、「食わず嫌い」は良くありません。
「道州制」については、官僚の食い物になると言う反対論がありますが、私はそうは思いません。総理大臣は一人ですが、道州の長は複数なので、誰かが思い切った改革をやり、これが人気を集めれば、国政にも影響を与える可能性があります。また、各道州が競争して合理化を行えば、全体としての行政コストは下がる筈ですし、出遅れた道州は言い訳が出来なくなり、自立が促進されるでしょう。
知事会は、民主党よりも、自民・公明両党のマニフェストの方が地方分権政策に関して、優れていると評価しました。
このことは、民主党などに政権交代が行われるよりも、自民・公明の現在の連立与党体制が維持される方が、「地方主権」が進むことを意味しています。
政権交代など愚挙にすぎないのです。
>各道州が競争して
各州の存立基盤に違いがありすぎるので「機会の平等」がはかられない。範囲が広いということは他人事になりやすいので知事選挙以上にポピュリズムの争いになる。結果、官僚がつけこみやすくなる。
県単位であれば近県との比較もしやすい。財源と権限が移譲されれば政策の違いもより見えてくるだろう。奥州連合とか九州連合のように、各県が広域で協同していけばいい。地域それぞれに政策課題に応じて、それこそ国の手を離れて。