百田尚樹氏の批判した電波利権

池田 信夫

百田尚樹氏の「沖縄の新聞をつぶせ」という発言がマスコミの総攻撃を浴びているが、どのメディアも問題にしないのは、彼のその前の発言だ。東京新聞によれば、彼はこう発言した。

議員A マスコミを懲らしめるには、広告料収入をなくせばいい。われわれ政治家、まして安倍首相は言えないことだ。文化人、あるいは民間の方々がマスコミに広告料を払うなんてとんでもないと経団連に働きかけてほしい。

百田氏 本当に難しい。広告を止めると一般企業も困るところがある。僕は新聞の影響は本当はすごくないと思っている。それよりもテレビ。広告料ではなく、地上波の既得権をなくしてもらいたい。自由競争なしに五十年も六十年も続いている。自由競争にすれば、テレビ局の状況はかなり変わる。ここを総務省にしっかりやってほしい。

彼の主要な批判対象は「広告料ではなく地上波の既得権」なのだ。UHF帯だけで30チャンネル以上とれる周波数で実質的に7局の寡占体制が続いている。この帯域をBS局や通信業者に開放すれば、数十チャンネルが競争するので(アメリカのように)放送法の「政治的中立」という規定なんか必要なくなるのだ。

ところが百田氏の雑談に大騒ぎするテレビも新聞も、この問題にはふれない。それどころか、これを批判すると出入り禁止になる。おかげで私は『電波利権』という本を出してから、「朝まで生テレビ」と「そこまで言って委員会」以外の地上波の番組には出演できなくなった。

自民党の勉強会で、この程度の雑談はいくらでもある。それを大手メディアが騒げば大事件になるが、百田氏が問題にした電波利権は(系列の新聞社も)黙殺する。批判したら、スポンサーより恐い総務省に意地悪されるからだ。これこそ組織的な言論統制である。

しょせんテレビ局なんて、役所の守ってくれる利権にぶら下がって商売している規制産業だ。こういうときだけ「言論の自由」を振り回して、正義の味方を気取るのはやめてほしい。