EU危機は統合の世紀への反逆

2016年06月27日 06:00

経済連携TPPはご破算も

欧州連合(EU)からの英国離脱で、「よもや」、「まさか」が現実になりました。予想可能な「連続的な変化の時代」から、予想不可能な「非連続的な変化の時代」に入ったようです。われわれの常識を支えていた世界の枠組みが突然、常識を覆して過去へと逆流してしまう時代になりました。

非連続は、これまで蓄積してきた過去からの断絶を意味します。これまでさまざまな次元で、統合が連続的に進行してきました。その一つがEUであり、米国が主導しようとした環太平洋経済連携(TPP)でありました。犠牲を払って統合しても、共通市場をもうけても、犠牲以上の果実を生み出してくれる余裕が地球や世界には、なくなったのかもしれません。

国家や民族の主権を削いできた統合に対して、「やはり主権を取り戻すべきだ」がじわじわと、世界的な動きになるのでしょう。「自国でコントロールできる国家体制、国家規模に戻ろう」になるのではないですか。「世界はこうあるべきだ」という理想論ではなく、「世界はこのようにしかならない」というリアリズムが力を帯びてくるのでしょう。

常識が壊れる時代に

「世界経済と秩序の混乱拡大防げ」という社説(日経)は日本のメディアの大勢でしょう。常識的すぎる認識です。これまでの常識に沿って「秩序の混乱」を嘆いても得るものはありません。EU問題では、多くの知識人、政治的リーダー、国際機関が望んでいたとは、逆の結果が生じました。かれらが懸念していたのは、これまで依拠していた基盤、ルールが通じなくなることへの恐怖、変化への不安だったのように思います。

英国における国民投票をめぐり、離脱という選択をしたら、「ポンドが急落する」、「株価が急落する」、「英国経済は危機に直面する」、「スコットランドは独立し、英国自身が解体する」など、恐ろしい予言ばかりでした。さらに「EUは弱体化する」、「アメリカの外交も弱体化する」など、おびただしい数の警告が発せられました。どうも変化への恐怖心が生み出した予言のようで、マネー市場の関係者、つまり利害関係者ほど変化を怖がったようですね。

「キャメロン首相が国民投票にかけたのが政治戦略の間違いだった」、「移民流入で雇用が失われている」、「EUの官僚機構肥大化し、国家としての自由度が失われている」など、離脱の動機の説明も様々な角度から行われています。その多くは、そういうことなのでしょうね。

目先の利害得失の議論ばかり

離脱、残留に関するおびただしい議論、論争が日本にも伝えられました。私が最も聞きたかったのは、「EUはどこに向かおうとしているのか。これまで何をもたらしてきたのか」、「EUは肥大化しているのに、さらにウクライナまで統合するつもりなのか。どこまで巨大化するつもりか」、「強力な超国家機構なはずなのに、難民、移民、テロなど何も解決できていないではないか。EUに加盟していても、カネと義務ばかりが課される一方、解決できない危機が増えているのではないか」などです。

「英国が離脱したら、英国ばかりでなく、EU,さらには世界経済、マネー市場に深刻な打撃を与え、政治面でも不確実性が一気に高まる」などの脅しばかり、われわれは聞かされてきました。EUは経済的にも政治的にも外交的にも、手を広げすぎたところに本当の問題があるのではないですか。ソ連に崩壊後、東欧諸国まで抱え込んだのは必然の流れにしても、いつのまに問題児のギリシャ、南欧、地中海諸国が加盟し、当初の6か国が28か国まで膨張しました。

経済圏の巨大化が目的化したツケ

欧州内部で二度と戦争を起こさないという初期の目的は確かに達成しました。それに代わって、経済圏の巨大化、外交的プレゼンスの拡充が次第に目的化していったのではないでしょうか。領域の巨大化がEUの勝利であった時代はありました。経済的な成長力が世界経済にも欧州経済にもあった時は、EUの規模拡大を成長余力で下支えすることできたからです。どこかの加盟国がおかしくなっても、支えることはできました。世界経済の成長の時代とともに、EUの成長があったのでしょう。今や長期的な経済停滞の時代に入ったと言われます。

難民、移民の流入、EU財政への負担協力せよ、EUに加盟していると、国家主権がないがしろにされ、不利な注文ばかり押し付けられる。つまりEU構想の勝利の日々は終わりつあるということではないでしょうか。フランスでもスペインでギリシャでも、ローマでも反EU運動が強まり、「離脱して自前でやる」というムードが広がっています。

統合でなく「自国中心でやるさ」

TPP(環太平洋経済連携協定)だってどうなるか分かりません。今年、協定がまとまり、加盟国の議会の批准を待つばかりとなっていました。米国が対中戦略からも重視し、日本などを強力に圧力をかけていたのに、大統領選に臨もうとしているクリントン、トランプ氏がソッポを向いてしまいました。

「市場開放、自由化促進より、自国の利益、産業、雇用の確保を優先する」ということでしょう。米国だけの都合をゴリ押しし、両氏がいう「再交渉」を他の交渉参加国に認めさせることなんかできるのでしょうか。「自国中心でやるさ。それしか有権者の支持を得られない」が本音でしょう。本当にどんな変化が起きるか分からない時代になりました。

その背景には、世界的な経済停滞、自国中心主義、排外主義があります。共同市場化を進めても、果実をもたらしてくれるほど、もう地球は広くなく、ゆとりを失ったのでしょうね。膨張した経済、人口に対し、地球は狭くなったのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年6月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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