築地市場の土壌汚染の状況を空間統計解析で可視化する

藤原 かずえ

平成29年5月25日、東京都は、築地市場で実施された土壌汚染調査の結果を公表し、調査した111か所のうち30か所において環境基準値を上回る有害物質を検出しました。この記事では、東京都のデータを基にヒ素などの有害物質の空間分布の可視化を試みると同時に、汚染の現況を分析してみたいと思います。

まず最初に断わっておきますが、築地市場の上部が低浸透性のアスファルトあるいはコンクリートでカヴァーされているという前提の下で、この程度の汚染では築地市場の安全性に何の問題もないことをハッキリと主張させていただきます。その上であえて言わせていただきますが、極めて不当に危険視されている豊洲市場は、築地市場の地下に比べて比べ物にならないほど安全であると言えます。今回の築地市場における土壌汚染データの開示は、あの強烈な「豊洲バッシング」(豊洲という地域を含めて)がいかに乱暴であったかを確認する絶好の機会であると考えます。

地表付近でまったく汚染のない豊洲市場を安心できないとヒステリックに主張する共産党一部ワイドショーの価値観からすれば築地市場は「猛毒のヒ素」が地表付近に最大で環境基準の3倍近くも存在する超危険市場であると言えます。「環境基準の4割もある猛毒のヒ素が豊洲移転後に発覚したら大変なことになっていた」と大騒ぎしていた共産党や一部ワイドショーが、実際に営業している築地市場においてしかも薄いアスファルト一枚を隔てた地表付近(50cm以浅)の土壌に環境基準の3倍近くもあるヒ素があることが判明したにもかかわらず、まったく何もコメントしないでいるのは本当に信じられないことです(笑)。また、4.5m以深の地下水の一部が環境基準を超えているに過ぎない豊洲市場に対しては不必要な地下水の無害化を求めながら専門家会議のメンバーを人格をヒステリックに罵る移転反対派は、豊洲市場に比べて遥に危険な築地のヒ素に対してはまったく問題としていないようです(笑)。仮にこのヒ素が自然由来であったとしても危険であることには変わりなく、「消費者のために市場の安全安心を確保する」という考えとは完全に矛盾していると言えます。

築地市場の土壌調査

2017年2月末、足立康史衆議院議員が築地市場の土壌について情報公開請求すると同時に、小池百合子都知事が、これまでまったく触れられることがなかった8つの建設工事における土壌汚染調査の不履行を突然開示しました[足立議員会見]。これは情報公開を推進すると宣言している小池都知事が自分に不都合な事実については黙殺していたという可能性を示唆するものです[足立議員談]。ちなみに、この日本の政界において情報公開を本当の意味で実現している稀有な存在であるのが、不合理な側近重用で宝の持ち腐れの小池都知事があまりよく気付いていない本物の宝物(笑)である音喜多駿東京都議会議員であり、この件についてもしっかりと情報公開の不備を問題視しています[築地市場で土壌汚染調査義務を黙殺の可能性が発覚]

この発覚を契機に東京都は築地市場の土壌調査を始めました。これは築地市場において行われた8つの建設工事に関連する111箇所について地表から50cmの土壌をサンプリングすることで汚染物質の量を検査するものです。ちなみに、豊洲市場については、地表から4.5mは盛土されているので汚染物質が検出される可能性はゼロであり、地下水管理システムが稼働する4.5m以深の地盤についてのみ汚染が調査されていると言えます。東京都は平成29年5月25日に築地市場の調査結果を次のように公表しました。

[築地市場における土壌溶出量調査及び土壌含有量調査の結果について]

8件の建設工事の全てにわたり、第二種有害物質(計9種)※1、第三種有害物質(計2種)※2について、表層の土壌を分析したところ、調査箇所の全111か所のうち、下記のとおり全8区域30か所において、有害物質5種(①溶出量試験:六価クロム、ヒ素、水銀、ふっ素、②含有量試験:鉛)が基準値を超過しました。


(図面は基本的にクリックすると拡大します)

以下、この結果について分析していきます。

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空間統計解析の方法

東京都が開示した図面は、調査箇所のうち環境基準を超過した個所のみを示したものであり、何が何だかさっぱりイメージできないような図面です。汚染物質がどのような広がりを持つのか?データがない場所にどれだけの環境リスクが存在するのか、市場の安全性を議論するのにこれだけのデータで十分なのか?この図面だけでは把握することができません。

そこで、この記事では、空間統計解析の一般的な手法である【地球統計学 geostatistics】を用いて、築地市場の汚染物質の空間分布を【可視化 visualization】することを試みます。なお、検出された有害物質は5種類ですが、今回はこのうち多くの箇所で検出されている【ヒ素 arsenic】の土壌溶出量を分析の対象とします。

検出されたヒ素溶出量の対数値に対してヒストグラムを書いたものが次の図です。

汚染物質の土壌中の濃度は【対数正規分布 log-normal distribution】に従うことが多く、今回のケースも-3以下の基底値を除けば概ね対数正規分布に従っていると言えます。このため以下の議論においては土壌溶出量の対数値を分析対象とすることにします。ちなみに、土壌中のヒ素の環境基準は0.01mg/Lであり、その対数値は-2です(10の-2乗)。このとき、溶出量の対数値が-2よりも大きいと環境基準超過となり、-2よりも小さいと環境基準以下ということになります。ヒ素の土壌流出量に関していえば、111箇所中20箇所が環境基準を超えていると言えます(0.02mg/Lが3箇所ありますが、これはセーフです)。

さて、地球統計学は、データがない場所における値を【空間的相関性 spatial correlation】を基に推定する手法です。一般にデータとの距離が近ければ近い程似ている値を示し、データとの距離が遠いと似ていたり似ていなかったりすることになります。築地市場のデータを基にこの関係を示したものが次に示す【ヴァリオグラム variogram】です。

横軸は2点間の距離、縦軸は【非類似度 dissimilarity】つまり「どくらい似ていないか」を示しています。築地市場では、0.08km(80メートル)離れると値が似ていなくなることがわかります。この関係式を用いて、データのない場所での値を推定することになります。

推定にあたっては、今回もスタンフォード大学が開発したパブリックドメインのfortranプログラムである【GSLIB / Geostatistical Software Library and related software】を用いました[GSLIB]。地球統計学における推定の手法にはいくつかありますが、今回用いるのは、最も正確に空間的相関性を反映できる【地球統計シミュレーション geostatistical simulation】による推定手法(正確には「予測手法」)の一つである【SGS = sequential Gaussian simulation】です。この手法は乱数を利用することで多数の【実現値マップ realization】を作成し、これを基にリスク分析を展開するものです。ちょっぴりとっつきにくい名前の手法ですが、要は足し算と掛け算が出来れば計算することができる線形結合のシステムに過ぎません[SGS]

今回の場合は200個の実現値マップを作成(乱数の初期値は1)することで、その【期待値 expectation】、環境基準の【超過確率 probability of exceedance】【推定誤差分散 estimation variance】を求めました。なお、当然のことながら、以上の解析によって得られる結果は、一意に定まり、残念ながら私の意向が働く余地は全くありません(笑)。誰がやろうが同じ結果が得られます。以下に結果を示します。

築地市場の推定汚染マップ

地球統計シミュレーションにより求めた築地市場の推定汚染マップ(期待値)を示すと次の通りです。

この図を見ると、水産物部仲卸業者売り場の両端、仮説買荷保管所等調査した個所のほとんどに土壌溶出量が環境基準を超えた個所が認められます。また、中央に位置する買荷保管所や青果部周辺も溶出量の比較的高い部分(共産党が言うところの「猛毒のヒ素が環境基準の4割もある」に相当する溶出量の部分)の存在が広く推定されます。

次の図は環境基準を超える可能性の程度を確率で示した環境基準の超過確率マップです。当然のことながら推定汚染マップと相関性が高いと言えます。

さて、ここでお気づきの方も多くいらっしゃると思いますが、この図を見ると基本的に「今回調査したところばかりが土壌溶出量が高くなっている」と言えます。直感的には、他の場所でも調査すれば溶出量が高い部分が出てくる可能性があるのではと疑問を持たれるかもしれません。その疑問は当たっているかもしれません。次の図は推定誤差分散、つまり推定精度を示したものです。推定誤差分散が小さいほど推定精度が高く、推定誤差分散が大きいほど推定精度が低いと言えます。

これを見ると、そこそこの予測精度が確保されているのは、調査個所周辺のみであり、全体に広がる濃い緑の部分は誤差分散が0.2~0.4、すなわち標準誤差(対数)が0.45~0.65(分散のルート)もあることになり、33%の確率で3倍~4.5倍、5%の確率で8倍~20倍異なる値が実測されてもおかしくないレベルの精度であると言えます。SGSは現在の空間統計学では最も精度が高いベストな予測手法の一つですが、それでもこの程度の予測精度しかないということは、この程度の調査データで築地市場全体の安全性を評価することは不可能であるということです。

以上のことから何が言えるかと言えば、築地市場の地表付近の土壌には環境基準を超えるヒ素が溶出している箇所が確実に存在していると同時に他の箇所でも同じように分布している可能性があり、全域の安全性を確認するには系統だった調査が必要になるということです。

小池都知事によれば、今回環境基準値を超えた個所については深くまでボーリング調査するということですが、たとえそのような調査を行って環境対策したとしても、それ以外の場所の安全を担保することにはなりません。豊洲市場の安全・安心を問題視する小池都知事は、それ以上に汚染されている築地市場全体を系統的に調査する必要があります。もしもそうしない場合には、「都民ファーストのために市場の安全・安心を確保する」という看板が偽物であることが立証されることになります。

そもそも安全・安心な豊洲市場に移転することなく、豊洲市場よりも安全・安心ではないことが判明した築地市場に居続け、豊洲市場移転延期に伴う補償費用を支払い続けているという極めて不合理な事態となっています。

おわりに

「空間統計学」という言葉は馴染みが薄いと考えられるかもしれませんが、GISが普通に活用されるようになった現在、空間統計学は多くの実務分野で適用されており、その重要性はますます高まってきています。

ちなみに30年前に、まだ空間統計学がそんなにメジャーでないとき、ある国会議員が大学で空間統計学を研究していました。その議員とは、今回の築地市場の情報公開に大きく貢献されたあの足立康史議員です(笑)。

あえて言わせていただきますが、足立議員に騙されてはダメです(笑)。あ~ゆ~感じの親しみやす過ぎる話し方にミスリードされている方も多いと思いますが、足立議員の空間統計学の[論文]を見れば、足立議員が実際には極めて冷静に理性的に客観的に物事を一般化する人であることがわかります。私は日本維新の会の支持者ではありませんが、足立議員や馬場幹事長が深刻な[人格攻撃中毒・依存症]に陥っている民進党を真っ向から批判し、「野党は何を言っても批判されない」という【沈黙の螺旋】に陥っている国会の議論に大きな風穴を開けていることは、国民にとって極めて大きな利益であると考える次第です。

案の定、足立議員を軽くバカにして懲罰動議を出していた民進党は、今、徹底的に足立議員から追及を受けています。足立議員の民進党批判はけっして人格攻撃ではなく、民進党の不合理な行動を合理的に批判しているものです。人格攻撃の権化である山尾志桜里議員を批判する際にも「山尾さんの悪いところではなく山尾議員の発言の悪いところ」としっかりと人格攻撃ではないことを宣言して批判しています[足立議員国会質問]

小池都知事に予告しておきますが、足立議員を甘く見ない方が身のためです(笑)。というよりも逆に足立議員の貴重な諫言を論理的に受け止めることこそ、現在の民進党のような末期的症状に小池都知事が陥らない唯一の道かもしれません。いずれにしても、今回の調査結果によって、「安全」と「安心」なる不可解な詭弁は完全に破綻したと考えられます。これ以上、この言葉を繰り返したら、今度は築地市場が風評被害に晒される可能性があると言えます。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2017年5月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。