コンビニと吉本興業:独占禁止法はビジネスモデルを変える

2019年07月27日 11:30

コンビニの24時間営業の見直しが進んでいる。東大阪市のケースを発端にこれまでセブンイレブンばかりが目立ってきたが、7月26日の記事で各社がファミリーマートについて報じている(以下の引用は同日付の産経新聞記事「時短営業拡大へ 希望店舗は全体の半数 ファミマ調査」より)。

ファミリーマートは26日、時短営業に関する全国加盟店へのアンケートで、1万4572店舗の約半数が「検討したい」と回答したことを明らかにした。これを受け、6月から行っている時短営業実験を現在の24店舗から、10月中旬より全国の最大700店舗に拡大する。実験では、収益などの変化は、地域や周辺環境で店舗ごとにばらつきが出た。大規模検証を進め、12月以降に時短営業のあり方の方向性を示す。

Koenig/写真AC(編集部)

各コンビニチェーンが見直しの動きを活性化させた背景には、いうまでもなく、公正取引委員会の対応がある。

2019年4月24日付の朝日新聞記事は、次の通り報じている(「コンビニ24時間、見直し拒否で独禁法適用検討:公取委」)。

公取委の複数の幹部によると、バイトらの人件費の上昇で店が赤字になる場合などに店主が営業時間の見直しを求め、本部が一方的に拒んだ場合には、独禁法が禁じている「優越的地位の乱用」にあたり得る、との文書をまとめた。

この辺りは既に、過去の筆者のブログ、「コンビニの深夜営業と独占禁止法」で触れたところである。他のコンビニ本部の対応の早さに多少の驚きはあるが、コンビニは「イメージ商売」の性格が多分にあり、労働者を酷使しているなどという「ブラック企業」認定はどうしても避けたいのであろう。近年の「働き方改革」の潮流もあり、各社競うように「見直し」を加速化させている。

今後のコンビニ経営のあり方がどうなるかはわからない。同ブログで指摘したように、24時間組のメインブランドと深夜営業のないサブ・ブランドの使い分けがなされるかもしれない。24時間営業を続けるコンビニが作り上げるコンビニのプラスのイメージ(それがあるかどうかが一つの争点ではあるが)にそうでない組のコンビニがフリーライドする状況は避けたいと思うだろう。24時間営業は主として直営店の形でなされる(独占禁止法上の優越的地位濫用規制違反の問題になりようがない)ことになるかもしれない。

見逃してはならないのは、各コンビニ本部の動きを決定付けたのが公正取引委員会の示唆だった、ということである。「公正取引委員会が注目してますよ」というメッセージは、「放っておいたら処分されるかもしれませんよ」というメッセージでもある。優越的地位濫用規制はいわば「弱い者いじめ」規制であるから、ブラック企業認定に十分なインパクトだ。上記の公正取引委員会の示唆は、コンビニ経営のあり方を大きく変えるきっかけになるかもしれない。事実、これまでの動きはそれを推測するに十分なものになっている。

吉本興業系の西梅田劇場(Wikipedia:編集部)

同じことは吉本興業のケースについても当てはまる。先日(7月24日)、公正取引委員会の山田昭典事務総長が定例記者会見で、所属芸人との契約書の不存在に関し、「契約書面が存在しないことは問題がある」と発言した(【吉本興業“契約書なし”を問題視 公取委事務総長が指摘】)。その翌日の共同通信では次の通り報じられている(「吉本興業、芸人と契約書締結へ 第三者交え委員会設置」)。

「闇営業」問題に端を発する騒動に揺れる吉本興業が、所属タレントと原則として契約書を交わす方針を決めたことが、25日分かった。同社はこれまで多くのケースで口頭での契約しか交わしてこなかった。第三者を交えた「経営アドバイザリー委員会」を設置し、来週にも会合を開いて内容などを検討する。

メディアで少々報じられた程度では動じないだろう企業も、公正取引委員会の「ひとこと」には随分と反応がよいようだ(違反の自発的解消は処分を回避する一つの手段だ。回避できれば「違反の認定を受けておりません」というエクスキューズが可能になる)。それだけ独占禁止法は脅威なのだろう。独占禁止法とそれを執行する公正取引委員会が市場の番人として、企業行動を規律するに十分な存在感があるということを意味する。

独占禁止法は企業のビジネスモデルに大きな影響を与える。マネジメントを学ぶ者は必須の知識だ。

筆者は大学生の頃、所属したゼミで熱心にマーケティングを学んでいた。その時に二つの疑問があった。一つは「企業の社会的責任(CSR)」は、マーケティング活動としては実際のところ「広告・宣伝」以上の意味を持たないのではないか、という疑問。そしてもう一つが企業行動を考える上では法的環境の存在が重要なのではないか、という疑問である。

前者についてはCSRをコンプライアンスの問題として再構成することで一つの落とし所を見付けるに至った(拙著『ハイエク主義の企業の社会的責任論』)。後者については、当時のマーケティングの教科書では「経営における外部環境」だというだけで議論の対象にはほとんどされていなかったことを思い出す。

理論上整理された形で「法と経済学」が扱うテーマであるが、マーケティング、経営戦略のような現在進行形の「生きた素材」を用いた議論は(少なくとも我が国では)未開拓なのではないだろうか。

楠 茂樹 上智大学法学部国際関係法学科教授
慶應義塾大学商学部卒業。京都大学博士(法学)。京都大学法学部助手、京都産業大学法学部専任講師等を経て、現在、上智大学法学部教授。独占禁止法の措置体系、政府調達制度、経済法の哲学的基礎などを研究。国土交通大学校講師、東京都入札監視委員会委員長、総務省参与、京都府参与、総務省行政事業レビュー外部有識者なども歴任。主著に『公共調達と競争政策の法的構造』(上智大学出版、2017年)、『昭和思想史としての小泉信三』(ミネルヴァ書房、2017年)がある。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑