薬剤師に薬学はいらない 井上晃宏(医師)

2009年11月23日 11:50

「日本の薬学教育―医療の質を高める薬剤師を」という本がある。
著者は林一、共立薬科大学(現慶応大学薬学部)において、物理学を教えていた教員だ。
曰く、
「薬剤師の仕事はおろか、薬の研究すらしたこともない教員が、薬の学を教えている」
「アリバイ的に抗腫瘍活性とか抗菌作用とかいう言葉をちりばめているが、よく読むと、薬とは何の関係もない論文が量産されている」
「薬学部とは、いわば、空気力学を教えて、操縦法を教えないパイロット養成所である。教官は飛行機に乗ったこともない」


 薬学部は、実験科学の研究教育機関としてなら、それなりに見るべきものがあるのだが、職業教育機関としては論外である。薬剤師の仕事とは、何の関係もないことを、平然と講義し、実習させている。
 かつて、私(井上)は、薬学部教員や薬剤師に、
「薬学部での教育って、薬とは無関係なことが多いけれど、仕事に役立っているか?たとえば、膨大な時間をかけて実験技術を教え込んでいるけれど、薬剤師が薬局や病院で実験をすることなんてありえないじゃないか」
と聞いたところ、
「実験技術は、無菌調剤や秤や分包機の操作に役立っている」
という、まことに無理のある答えしかできなかった。そんなものは、せいぜい3日もあれば習得可能だ。
 また、次のような言い訳もある。
「薬学部は薬剤師を養成するだけでなく、研究者も養成しているから、薬とは関係がなくても、実験科学教育は有用だ」
 しかし、この言い訳も、薬学部が、6年制(薬剤師コース)と4年制(創薬コース)とに分離されてしまったために、無意味となった。
 医薬品のハンドリングに専門技術が必要とされたのは、19世紀までである。かつて、医薬品は、草根木皮から抽出される、家内制手工業製品だった。真贋を見分けたり、品質を管理するには、それなりの技術が必要だった。
 現在の医薬品は、巨大化学プラントで生産される工業製品である。家電製品や加工食品の取り扱いに専門職が不要であるように、医薬品の取り扱いには、何ら技術は必要ない。
 われわれは、ピッキングマシーンを養成するのに、6年もの教育年限を義務付けるべきだろうか。
 「薬剤師は医薬品を袋詰めしているだけではない。処方箋の監査や情報提供や病棟活動もしているから、薬学教育は必要だ」
という言い訳も考えられるが、これも間違っている。若干の薬理学や製剤学の知識は必要だが、それらはすべて本に書いてある。学校教育で教えるとしても、6年どころか1年もあれば十分である。
 果たして、薬学教育は、薬剤師のためにあるのか、薬学部教員の雇用のためにあるのか、どちらなのだろうか。

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